第18話杉原家の分水嶺なう。

(ちょっとぉ~伯父ちゃん!?

面と向かって会いたくない、1位と2位にいきなり会わせんなよ!)

目を見開いて振り向き、家次を見つめる。


「ほれ、入った入った!」

驚愕の表情を浮かべる小吉に対し、気にする風もなく背中を押す。


押し込まれる様に父・定利の居室に入ると、ちょこんと正座して、父母に相対する。


「・・・久し振りだな、小吉よ。」

「・・・はい、ご無沙汰しています父上。」

「少し観ない間に大きくなったわね小吉。」

「ええ、御陰様にて母上。」

ギクシャクとした挨拶を交わす親子。


「聴けば小吉お前、定利やおこいに対して正月ですら、ちゃんと挨拶をしに行ってねーそうじゃねーか。

寧々は事情が事情だから諦めているが、お前は其処までの因縁はねーだろうが?

幾らウチの養子になったと雖も、実の両親に年始の挨拶ぐらいはしろよお前は。」

出入り口を塞ぐ様に座り、小吉に懇々と説教をする家次。


どうやら、小吉と定利達親子の関係を憂慮した家次が、寧々の二の舞を防ごうと、意図的にこの状況を作った様子であった。


(いやあの、それはなぁ・・・立場上、当然の事をしているだけで・・・まぁ、心情的に行きにくいのも事実だけども)

家次のお節介に対し、心中でボヤきながら、


「申し訳ないけど義父様。

曲がりなりにも、木下藤吉郎秀吉の家臣としてそれは出来ないし、そもそも家臣としての筋が通らないから無理。」

キッパリと言い切る。


「は!?何でだよ!?」

「殿ひいては主家に、例え実の実家で有っても明確な隔意敵意を持つ家と、懇意にしたり交流を持つのは不義理に近いし、家中に於いても非難される事だから。」

激昂気味に声を上げる家次に対し、理路整然と「家臣の(分限)」を述べる。


実際に小吉は、家臣の分については結構気を使っており、例えばノッブに方策を述べている時も、に繋がる様に立ち回ったりしていた。


最初の美濃攻略に於いては、恐らく何人もの失敗者が出た後、秀吉にお鉢が回ってきた「調略担当」を、真っ先に推薦する事で史実よりも早く、出世の糸口を掴めるキッカケを作っていたりしている。


又、前回の鵜沼の始末についても、「秀吉の調略に因って、こういう事が出来ますよ」と、犬山との離間と孤立化を示唆する事で、秀吉の功績を明確化しているし、もし鵜沼の大沢家が「斎藤家に返り忠(自勢力に寝返った者が、再び敵勢力に寝返る事、逆パターンも同じ)」をしても、秀吉の責任にならない様さり気なく、フォローしていたりする。


そして何よりも殆どは小吉自身の、「お金大好き」から来てはいるが、ノッブに金銭をせびる事で、「その場限りの話で貸し借りナシ」という状況を作り出し、下手に恩や貸しをノッブに作り、「主君上司の秀吉を蔑ろにして、信長社長に媚びを売っている」と騒がれると、秀吉に不信感を抱かれかねないので、後々の後難にならない様にもしていた。


何処ぞの忍者じゃないハットリ君みたいに、を間違えて、本来上司と仰ぐべき尾張一向宗秀吉を蔑ろにして、伊勢一向宗信長に媚びていると、いざ危難に陥った時に伊勢一向宗からは、「その問題は、尾張一向宗の管轄だから」と、素っ気なくあしらわれ、尾張一向宗に泣きついても、「お前伊勢門徒だろう?アッチに言えよ」と、冷たく突き放されてたらい回しにされ、結局誰も助けてくれなくなる末路を、熟知しているからであった。


服部友貞を、「媚びる相手を間違えているアホ狐」と、小吉が評したのはそういった理由である。


因みにだが小吉は、そういった感覚の処世術に因り、ノッブには塩対応で基本的に接しているのだが、当のノッブは亡き守り役の平手政秀ひらてまさひで以来居なかった、自分に対して歯に衣着せぬ物言いをする小吉を、「おもしれ一奴」枠で結構気に入っており、本末転倒になっていた。


それはさておき、


「う~ん、そう言うモンか?」

「そう言うモンだよ義父様。

義父様は純粋に一歩離れた、伯父・兄として物を言っているから、寧々姉さんも聞く耳持っているし、母上達とも話が出来るのであって、ガッツリ殿の家臣として、姉さん側に属している俺が、母上達と仲良し子良ししていたら、寧々姉さんに怒られるから。」

寧々姉さんにお説教を喰らう姿を想像し、身震いをする小吉。


(それにオトン側に付いても、ど~せオトン達の「負の遺産」のせいで、ろくすっぽマトモな人生を歩める訳も無いし。

それなら姉さん側に居た方が、絶対にマシな人生歩めるしなぁ)

打算もキチンと働かすゲス。


「其処まで私達を恨んでいるの寧々は?」

「それは

己が愛する殿方を、糞味噌に罵倒された上に、事実上家を追い出される仕打ちを、実の両親から受けているのですから。

恨まない人の方が珍しいでしょう?」

「・・・・・・・・・。」

小吉の言に、俯いて沈黙するおこい。


(愛憎紙一重って謂うけど、姉さんみたいに情の深い人ほど、負に感情が傾くと恐ろしい事になるんだよなぁ・・・)

実弟だからこそ見せる、寧々の定利達に対する、憎悪に満ちた感情の吐露を思い出し、ゾッと寒気が走った。


実際に定利達に対する恨みは、相当に根深かったらしく、後年定利達が亡くなった際も、実子なのに葬儀に参列する処か、弔問の使者すら送らずガン無視している程である。


「・・・では、アイツはどうなのだ小吉?」

「殿の方は柳に風でしょうか?

殿自身の一足飛びの出世に因り、織田家中内の上層部の御歴々方大人・譜代衆に、敵視されたり疎まれつつ有りますので、そちらの方に気を配ってる感じですね。」

「!?・・・・・・ギリッ!」

暗にアウトオブ眼中と云われた定利は、口惜しげに歯軋りして俯いた。


実際織田家中の中上層部では、ドンドン美濃国人衆の調略を成功させ、功績を積んでいる藤吉郎は注目の的であり、同時に「自分の立場を脅かしかねない、要注意人物」として、特に譜代連中には警戒されていた。


なのでしがない下級武士である、定利を気にして相手にする暇など、全くないのである。


暫くの沈黙の後、


「・・・・・・藤吉郎殿に杉原家当主として、親戚連中の無礼を含めて、改めて正式に詫びを入れたい・・・。

小吉、間を取り持ってくれぬか?」

絞り出すような声で、小吉に仲介役を頼む。


(当主として、か・・・。

個人的に謝る意思は無いってか・・・オトンにはオトンの意地が有るのかねぇ?)

若干寂しい気持ちになりつつ、


「申し訳有りませんがかと。

今更詫びた所で、関係修復は不可能です。」

キッパリと定利に告げる。


「「なっ!?」」

「おいおい、そりゃねーだろうが小吉?

何とか取り持ってやってくれよ。」

声を上げる両親と、縋る目で観る家次。


「藤吉郎義兄さんは兎も角、寧々姉さんがまず許しますまい。

申し訳有りませんが父上と母上は、最早寧々姉さんの心の中には居ないのですよ。」

眉を八の字にして頭を下げつつ、


「それに詫びを入れても、父上達に対する周囲の評判は下がるだけですし、もっと悪くなる可能性が高くなるだけですので。」

却って悪手になると、杉原家視点で答えた。


「何故だ!?」

「父上が詫びを入れても周囲は、「泣きを入れた軟弱者」と益々軽んじますし・・・それと此処だけの話ですが、近々殿は足軽大将(課長)から、侍大将(次長じちょう=課長と部長の間の役職)に昇進が内定していますので、口幅ったい事ですが殿との格差が広がり、今以上に厳しい視線に晒される事が、ほぼ確実視されますので。」

周囲からの批判がもっと強まると告げる。


「なっ!?侍大将だと!?1軍の将に成ると云うのかアイツが!?

あの男が重臣の列に加わると言うのは、まことなのか小吉?」

「はい、大殿信長様の側近・丹羽長秀様が、仰っていたので間違いないかと。」

定利の問いにコクリと頷いた。


ソース情報源は家定達の結婚式に、名代として参加する少し前、相変わらず絵描きのバイトをしていると、長秀が妻(信長の妹)にねだられたと、愛子ちゃんの絵の依頼にひょっこり訪れた際、愚痴混じりに漏らした話であった。


何でも小吉が献策した離間策に因り、完全孤立化した犬山の信清から、離反者が相次いで発生して犬山城が落城寸前であり、その外的要因を作ったのと、鵜沼の中心豪族・大沢家を含む、中小領主の土豪・地侍じざむらいも調略した功を賞せられ、昇進が決定した模様。


まぁ、秀吉が美濃の国人衆を調略した際に、信長に発行して貰う領地の安堵状に、裏書人保証人の連判を併せて求められる事が多くなり、ある程度の肩書きが必要とされている事と、以後の活躍の期待を加味された結果らしいが。


犬山城落城後の、犬山城代・池田恒興就任に併せて、正式に公表される予定であり、実態は内々定の段階であった。


丹羽長秀は、自分が城代になると思っていたらしく、ノッブの人事に愚痴っていた。


慎重姿勢でどっしり構える長秀よりも、オラオラの活発的な恒興の方が、鵜沼にプレッシャーを与えて畏怖させるのと、斎藤家に対するとして適任なのを説明すると、納得して帰っていったが。


それはさておき、


「は?丹羽様と言えば、殿の側近中の側近。

軽輩のお前に面識が有る訳なかろうが?」

「いや、定利殿。

側近の丹羽様処か織田の大殿様まで、コイツを訪ねてウチ杉屋に来てたから、信憑性は非常に高いぞ?」 

「はぁ!?殿まで!?・・・ハハ、まさか。」

乾いた笑みを浮かべる定利。


「冗談だったらどれだけ良かったか。

オレと森可成様とで、コイツに渡す報酬百貫を清洲城にまで、大殿様の命令で取りに行かされた挙げ句、よー解らんが返す刀で、蜂須賀殿の使いまでさせられたんだぞ?

堪ったモンじゃねーよ全く・・・。」

ブツブツとブー垂れた後、


「それとコイツの脇差しを観ろよ。」

小吉の脇差しを取って定利に観せる。


「?・・・こ、これは織田家の木瓜紋!?

ほ、本当に殿と面識が有るのか小吉!?

それと百貫をどうしたら殿から?」

「ええ、ばったり奇縁に恵まれまして・・・すいませんが百貫の件は、機密に当たる話になりますので、大殿様の許可無くばお答えしかねます。

最悪、父上達の首が飛びかねませんので。」

溜め息混じりに答えた。


因みに小吉が現在持っている脇差しは、寧々がノッブから披露宴の際に貰った、元々小吉がノッブより分捕って、生駒家長に売った脇差しである。


何故それを今持っているのかと言うと、藤吉郎夫婦から家定夫婦への御祝儀30貫、即ち寧々姉さんに預けていた、小吉の貯金を祝儀に使用する、使用料の代わりとして、寧々姉さんから渡されたのである。


元々ノッブからタダ取りした物を、巡り巡って結果的に、貯金の30貫で買い取る羽目になり、枕を号泣して濡らした小吉であった。


「まぁ、その辺は置いといて。

兎に角殿が侍大将に昇進すれば、前述の通り同輩の方々だけでなく、家中の上層部にも目を付けられますので、父上達にとって愉快な事にならないのは、必至にございましょう。」

上役からもいびられる事を示唆する。


「そ、そんな・・・どうすれば・・・。」

「今以上に厳しい環境に置かれる事を、覚悟なさいますよう。」

絶句する父に、腹を括れと投げかけた。


(まぁ、1番の対応策はオトンも殿に負けずに、立身出世する事なんだけど・・・弓組じゃあ無理だわな)

実力を示して悪口雑言あっこうぞうげんを封じるのは、無理と判断する小吉。


基本的に飛び道具=弓や鉄砲といった、遠距離攻撃の兵科に携わる武士将校は、非常に立身出世が困難であった。


戦闘序盤に於ける開戦時に、矢合わせや火蓋を切って敵陣に射掛け、牽制を兼ねた一斉射撃後に後退、後陣で援護射撃が基本なので、槍兵歩兵と違って戦の勝敗に絡む事が少なく、指揮を執る兵種的に接近戦乱戦に因る、個人的武勇を発揮する場面、即ち武功を挙げる機会が殆ど無い為である。


一応、日置当流へきとうりゅうの流祖で弓術家・吉田重氏よしだしげうじや、稲富いなとみ流(鉄)砲術の開祖で砲術家・稲富祐直すけなおなど、室町時代末期にも幾つかの、遠距離系武器流派が勃興しているが、大半の遠距離系武芸者は、戦場に出て敵将を討つ活躍をするというよりも、主家内の個人指導や部隊運用の指南役といった、教官としての活動がメインだった。


そういった経緯で、戦国時代に於ける死傷者の半数以上は、矢傷や鉄砲玉の鉛毒だったにも関わらず、「華が無い」と弓・鉄砲組は武士達には不人気で、花形の長柄ながえ(槍)組と比べれられて、軽く観られがちであった。


なので元々定利は、軽く観られる弓組な上に、秀吉との諍いを広く知られた結果、秀吉が出世すればする程、相対的に家中での立場が悪くなる、2重苦を背負っているのに加え、としてお偉い方にまで、目を付けられて叩かれる、3重苦まで負う事になるのである。


最早「生き地獄」処か、某世紀末的な「地獄すら生温なまぬるい」域にまで、到達するのが確定している定利であった。


「そんな無茶苦茶な!?

儂と藤吉郎との諍いを知っているのに、何故に儂が叩かれねばならんのだ!?」

理不尽な話に、小吉に食って掛かる。


「そんな事は、殿を叩きたくて仕方のない連中には、関係がないのですよ父上。

のは世の常套手段ですし、殿の親類縁者にも関わらず、殿にのなら尚のこと、腹いせついでに叩き易い訳ですからね。」

敵愾心を持った連中の、心中を推し量る。


「おいおいおい!?

どうにかならねーのかよ小吉!?」

「一応、有るには有るのですが・・・かなり思い切った行動になりますけど。」

「有るのか小吉!?

もう毒を食らわば皿までだ!

これ以上悪くならないのなら、何でもするから言ってくれ!!」

懇願する様に小吉に縋る。


「では行動の一例をば。

今年一杯で長勝叔父が、家督を長吉殿に譲り、隠居されるのは御存知ですか父上?」

「は!?長勝殿が隠居!?

未だ40にも成らぬのにか!?何故に!?」

義弟の思わぬ話に、驚きの声を上げる。


「殿の立身出世を見て取った叔父上は、殿に浅野家の命運を賭ける事に決めて、来年以降は家督を継いだ長吉殿が、殿の寄騎としてに入る事になりました。

その事で叔父上は、浅野家内の調停役と長吉殿への引き継ぎ、補助役に専念する為に、隠居を決意されたそうです。」

淡々と隠居理由を告げる。


小吉もびっくりしたが、どうやら親戚の蜂須賀小六から、色々情報を収集して考えた結果、「うだつの上がらない弓組では、浅野家の未来は何時までも暗いまま。それならいっその事藤吉郎の立身出世に賭けよう!」と思い至ったらしく、「それなら最初から長吉を、藤吉郎に近侍させた方が、長く太く付き合えるから良い」と決断し、早々と隠居と傘下に入る事を決めた様だ。


この行動と決断が、未来の浅野家に栄華繁栄をもたらしたのだから、ガチで英断を下した長勝である。


「つまり定利殿も長勝殿と同じく、藤吉郎殿の傘下に入って与力せよって事か?」

「ええ、現状では1番の解決策かと。

少なくとも殿の庇護下に入れば、表立った誹謗中傷は避けられるでしょう。」

家次の解答に頷き、


「只、叔父上の隠居は任意ですが、父上の場合は隠居がになります。」

定利には厳しい現実を突きつけた。


「・・・禊ぎ、いや清算をせよか・・・。」

「口幅ったい事ですが、当主としての決断には責任が付きまといます。

結果論では有りますが、良きに付け悪しきに付け、役割を果たすべきかと心得まする。」

ガックリと肩を落とす定利に、深々と頭を下げて提言をする小吉。


「そうか・・・時間をくれ。

家定にも話さねばならん事だしな。」

「はい、兄上と十分に協議なさいませ。

・・・では是にて失礼します。」

お辞儀して退室する。


(小六のオッサンが言ってたけど、親戚付き合いの有無・良悪で家の浮沈が決まるって、冗談抜きで本当なんだなぁ・・・)

廊下を歩きながら、しみじみと実感しつつ、帰宅する小吉であった。


後日・・・定利は主君・信長に隠居願いを申し出て、嫡男・家定に家督を譲って隠居。


すぐさま家定は信長に、秀吉の寄騎に成ることを願い出て、3重苦の苦難を回避。


それと同時に、正式に浅野長吉と共に秀吉の傘下に入り、実質的に家臣として活動する事になったのである。


これにより史実と変わり、杉原家と秀吉との悪縁が早く切れて、改めて良縁によりを戻し、一連の問題が解決したのであった。


               続く

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