第17話礼には礼を以て接し、非礼には非礼を返すのが世の習い。

(さぁ~て、どういった攻め口で掛かって来るんかいな?泣き落としか?談判か?)

脳内で眉に唾を付けて、身構える小吉。


最初に声を掛けて来た爺さんが、定利木下家の者で、定利オトンの父の再従兄弟はとこに当たり、次に声を掛けて来た爺さんが杉原家の者で、おこいオカンの祖父の弟らしい。


(面倒だから、木下=Aと杉原=Bでいいや)

わざわざおぼえる価値無しと判断し、テキトーに脳内処理をする。


「先ずは御主君・藤吉郎殿に、藤吉郎殿が木下家を見事再興させた事に関して、一族を代表して感謝を。」

Aがペコリと頭を下げた。


「これはこれはご丁寧に。

主・藤吉郎にはしかと伝えまする。」

(流石に藤吉郎が木下姓を名乗ってる事に、いちゃもん付ける程じゃねーか・・・)

表向きは丁重を装い、内心でAへの警戒心を若干上げる小吉。


なんとなく現代人の感覚だと、「ウチら木下家に断りもなく、木下の名字を勝手に使ってんじゃねーぞ!?」と、ゴネられそうなイメージが有るが、武家社会でそれをゴネれば、世間にのは、Aと定利木下家側である。


基本的に武士に於ける最重要課題は、「自家の家名の存続と繁栄」であり、その課題を達成・維持する為に、江戸時代まで存在した武士達は離合集散、東奔西走したと言っても過言ではなかった。


なので例えばAや定利木下家側が、藤吉郎が木下姓の名跡を、継いだ事をゴネたりすると、「じゃあお前達は家名をすたらしたまま、今まで何をしていたんだ?」と、周りから嘲笑混じりに指摘され、「自分達は家名再興が出来なかった無能集団で、先祖不孝者です」と、世間に晒すのと同義なのである。


つまり定利木下家に於いて藤吉郎は、織田家内で断絶していた木下家を再興した、謂わば「中興の祖」に等しい存在であり立場上、感謝するのが至極当然なのであった。


だからこそ、真っ先にゴネて揉めそうな定利も、何も言わず言えずに沈黙しているのだが。


同時に直系の定利を差し置いて、いさかいを起こして悪感情を持っている藤吉郎が、あっさり実家を再興した事で、定利は「直系なのに情けない」のレッテルを貼られ、益々関係性がこじれる要因になっていた。


それはさておき、


しかるに、口幅くちはばったい事ながら貴殿の様に、年若き者まで名代に出さねばならぬ程、大層人手が不足なされている御様子。

なれば同じ木下家のとして、是非ともをさせて頂きたく存ずる。」

にこやかな表情で宣うA。


(はぁ!?・・・何言ってんだコイツ?どんだけ厚かましいんだよ!!

要するに手を貸してやるから、身内扱いの待遇をしろってか?今まで誰1人処かびた1文たりとも出してねー奴らが?

ふざけるんじゃねーぞクソ爺が!?)

脳内で罵詈雑言を吐く小吉。


Aの言っている事は、言葉遣いこそ丁寧では有るが、「協力してやるから、一門として高給・好待遇で召し抱えろ」という、厚かましい事この上ない、面の皮が鋼鉄製なのかコイツは?と聞きたくなる話であった。


「おお、お心遣いは誠に有り難く存ずるが、現在わが家は家臣を選別しており、殿自身の親族だけでなく、奥方様の・浅野家の方でさえ、ご遠慮して頂いている次第にございます。

そういった方々を差し置いて、貴殿達に御助力願うのは、流石に道理が通りませぬので、お気持ちだけ頂戴致しまする。」

Aに負けない丁寧口調と、にっこり笑顔でキッパリ拒絶する。


実際に現状に於いて、藤吉郎木下家と定利木下家は、藤吉郎から観れば、嫁さんの実家・浅野家の親戚・杉原家の、その又親戚の関係性なので、親戚処か赤の他人同然であった。


寧々が養女として、浅野家から藤吉郎に嫁いだ以上、寧々の実家は浅野家になるので、杉原家は親族よりも遠い親戚になるし、定利木下家なんぞは、親戚よりも遠い遠戚遠縁=オマケにしかならないのである。


なので、縁故採用を順位付けするなら、


1位・秀吉の親族=秀長・三好吉房みよしよしふさ(秀吉の姉・朋の旦那)・福島正則(秀吉の従弟いとこ)

2位・秀吉の親戚=加藤清正(秀吉の母・仲の従姉妹の子)

3位・寧々の親族(秀吉の姻戚)=浅野長勝・長吉と家次一家・定利一家←小吉はココ

4位・寧々の親戚=杉原家・長吉の親兄弟

5位・寧々の姻戚=蜂須賀家・安井家

6位・秀吉の遠縁=該当者不明

7位・その他・寧々の遠縁=定利木下家等


といった順番になり、縁故採用に於いても、はっきり言ってその他と同類、最低順位になるのである。


元々能力的に疑わしい上で順位も低かったのに、心情的にも最低辺を記録している、定利木下家であった。


「そ、それは、いや・・・。」

思ってもみない、理路整然とした小吉の言い分に、目を白黒させてたじろぐA。


「又、当家としましては今まで、木下家に御助力をお頼みした事が無く、お頼みするのは、心苦しい限りにございますれば、今まで通り暖かく当家を頂ければ、御助力を賜わずとも幸いにございまする。」

盛大な皮肉を込めつつ、胡座あぐら姿勢で両手のこぶしを床に付けて、俗に爪甲礼そうこうれいと呼ばれる武家式礼法で、Aに軽くお辞儀する。


暗に、「今までアンタらに頼った事はないし、これからも頼る事つもりは無い、ウチの家の事は放って置いてくれ」と、定利木下家連中に告げる小吉であった。


「な、なな・・・!?」

「我等の木下姓を名乗っておりながら、幾ら何でもその様な言葉と扱いは、余りにも心無いではないか貴殿!?」

「「「「「然り然り!!」」」」」

厳しい皮肉に顔を白くしたり、赤くしたりしてどもるAと、意味を察して憤慨する定利木下家の面々。


「ああ、それは失礼仕った。

なれば殿に木下姓から別姓にする様、すぐさま進言しておきますので、どうかご寛恕かんじょ(お許し)を願いとうございます。」

申し訳なさそうな表情で、「じゃあ木下姓お前ら捨てるわ」宣言をする小吉。


史実として後年に、木下姓をポイッと捨てて、あっさりと羽柴姓を名乗った様に、藤吉郎にとって木下姓はあくまで、「士分」を得る為の手段に過ぎず、現状で「足軽大将」という、歴とした士分をとうに得ている、藤吉郎からすれば木下姓という家名は、ヤドカリが使う抜け殻に近いモノでしかない。


なので1番縁遠い上に、1番能力期待値が低くて1番図々しい、1番関わりを持ちたく無い連中と縁が切れるなら、藤吉郎だけではなく寧々も、喜んで改姓すると思われる。


「「「「「あ、うう・・・。」」」」」

完全に切り捨てる気満々な小吉の姿勢に、二の句が告げなくなる面々。


「まぁまぁ、木下殿も名代殿もおたいらに(姿勢を楽にして落ち着き)為されよ。

木下殿、貴殿は性急過ぎる。

焦るのは解りますが、落ち着いて話を進めるべきにござろう。」

眉をハの字にして、木下Aをたしなめる杉原B。


(いや、自分でもビックリするぐらい落ち着いて、冷静沈着に対処してるけどな俺?

オトンの木下家連中が、正真のアホなのが判ったから、自分の将来の為に容赦なく、排除しようとしているだけで)

何言ってんだコイツ?と、何故か小吉も悪いみたいに告げるクソ爺Bに、内心で文句を垂れていると、


「名代殿が申す通り、藤吉郎殿や奥方殿と近しい親族を差し置いて、我等の一族が藤吉郎殿の下に先に出仕するのは、道理が通らぬのは間違いござらん。」

小吉の言い分に賛同の意を示した。


(うん?判ってんのかB爺さん)

お?味方か?という気持ちを持った瞬間、


「藤吉郎殿の家臣として、名代殿の立場と言い分は、確かに理解出来申す。

しかれども、貴殿も我等と同じ杉原家で、且つ本家の者であり、同時に木下家の直系筋に当たる者でも有りましょう?

なれば両方の同族として、私人の立場で我等の状況をおもんばかり、密やかにでもをするのも又、道理でござろう?」

賛同しつつも藤吉郎木下家ではなく、小吉個人にターゲットを変更して、口撃をするB。


(ケッ、結局同じ穴のむじなかよ。

まぁ、俺に賛同して追従してもメリットがねーし、どっちか一方でも仕官出来れば、コネ出仕で済し崩し的に、もう一方も引っ張り込めるんだから、当然ちゃ当然か)

内心で毒を吐きつつB爺の行動目的を分析し、表面上はポーカーフェイスを装う。


(しっかし、木下家は端から期待してなかったけど、杉原家実家かぁ~。

浅知恵でさかしらに言ってるだけで、するおバカ発言をしてるし。

一族の知恵袋・相談役である長老格が、こんな耄碌もうろく爺じゃあ、マトモな人材が出る筈も無し、か・・・ホンマ泣きたい)

将来的に当てに出来そうな人物が現状、居なさそうな状況に泣きたくなる小吉。


「う~ん・・・それを言われると私人としては、否定が出来かねまするな。」

「それは同じ一族として、当然の事にございましょうぞ。」

予想通りの発言を引き出せた事に、「我が意を得たり!」と得意気に頷く。


「私が口添えするのは、やぶさかではありませんが念の為・・・本気ですか?」

「本気とは?」

「私の口添えで本当に宜しいので?という意味にござる。」

「それは無論!是非に!」

益々得意気に鼻を膨らますB。


(駄目だこりゃ・・・真正のバカ確定だわ)

最早隠しもせず、盛大に溜め息を吐くと、


「・・・解り申した。

其処まで乞われては是非も有りませぬ。

喜んで同族のよしみで口添え致しますので、姓名を書くための筆記具を貸して頂きたく。」

を記す、筆と紙を頼んだのであった。


少ししてザワザワと、「これで藤吉郎家の中枢・重臣に成れる!」と、活気づいていそいそと、小吉の前に横に整列して今か今かと待つ、親戚連中を尻目に準備を整え、


「え~では只今より、織田家家中並びに尾張中で、橙武者だいだいむしゃ(見掛け倒し・無様・役立たずな武士)と嘲笑されるのを臆さず、羞恥しゅうちを厭わぬ方々、キチンと順に記して逝きますので、姓名をお答えください。」

涼やかなアルカイックスマイル仏の如き微笑みで、真っ黒な発言をする。


「「「「「・・・・・・・・・え″?」」」」」

「ではどうぞ。」

小吉の発言に、目が点になっている連中を無視して、先頭のB爺の孫を急かす。


「いや、名代殿?どういう事で?」

「どういう事も何も、観ての通りにございましょうが?」

B孫の問い掛けに自分を指差して、


「この場に於いて私は公的に、殿の名代としての立場で参加しておりますが、私人としての私は最前さいぜん、木下家のおきなが申された通り、にしか過ぎませぬ。

そんな元服前の若輩者の口添えで、貴殿の様な大人が出仕したと有らば、世間一般がどう観るか、火を見るよりも明らかでしょうに。」

今更何言ってんだアンタ?と、首を傾げる。


今の状況を、分かり易く現代で例えれば、「良い歳をした兄ちゃん・おっちゃん集団が、ぐらいの子供に、就職先の斡旋を頼んでいる」のと同じであり、世紀末風に謂えば、「(社会的に)お前は死んでいる・・・終わったぁァ!!」である。


世の人々がすべからおののいてドン引きする、ワールドクラスの勇者であった。


「え?・・・あ・・・。」

「さあさ、後がつかえて居ますので、きりきりと参りましょうぞ?」

早よサッサと言えと催促する。


姓名を記されれば、末代まで社会的死亡が確定する、「リアルデ○ノート」と化した紙に、アホ共の名を刻む気満々の小吉。


「え・・・そのいや、平にご容赦を!」

「はい?何を仰っているのですか?

大丈夫ですよ方々。

一時的に橙武者とあざけりを受けても、2~3度程※一番槍か一番首(死傷率激高)を挙げれば、すぐに払拭出来ます故に。」

清しい笑顔で、「ウチ藤吉郎家の鉄砲玉として、戦場で死んでこい」と示唆するどゲス。


(※一番槍・・・自軍内で敵陣に向かって、1番最初に突撃して行く事。

自軍の攻勢のきっかけを作ったとして、戦場で最も賞された功績。

一番首・・・自軍内で1番最初に、例え相手が雑兵でも討ち取る事。

一番槍や手柄首(名の知れた敵将の首)には劣るが、戦場で賞される功績)


「いやいや!?とても務まりませぬ!

申し訳ないが辞退させて頂きたく!」

B孫が叫ぶように拒否すると、我も我もと一斉に首を振り、蜘蛛の子散らす様に小吉から離れていく。


(チッ、木下・杉原混成鉄砲玉特攻隊部隊の、設立構想は画餅に帰したか。

ど~せなら逝くとこまで行けばいいのに)

内心で舌打ちしつつ、


「各々方は一体最前から、どういう所存で物を申されておられるのですかな!?

道理を説けば、それでも納得せずにアレコレと強請ねだり出し!

ではと口添えをしようとすれば、いやいやと途端に渋り出す!

2枚舌にも程が有りましょうぞ!?」

怒声を上げて怒り出す(振りをする)。


「その様な言を左右にする者を、親戚といえども、いや、親戚なればこそ身内の恥を晒す事に成る故に、今後一切貴殿らの口添えは御免こうむりまする!

事の次第は殿にも確と言上仕る故、左様に心得なされませ各々方!

長勝殿!どうか証人をお願い致します。」

スッと流れる様に、叔父・長勝を巻き込む。


「えっ?・・・ワシ?

うぅん!承知仕った名代殿。

この浅野長勝、確と事の次第をつぶさに見届け、証人となり申す!」

一瞬「へっ?」という表情を見せるが、キリッと表情を直して頷いた。


叔父の証人を得た小吉は、自爆して唖然呆然としている親戚連中を無視して、急展開にポカンとしている実兄の家定に向き直り、


「されど家定殿は、殿も「大事な身内」として、非常に頼もしく思っております。

なので此処に居られる方々は兎も角、家定殿が薦める族弟一族子弟に関しては、殿も何れ折を見てお受けするモノと思います。

今後も当家と末永いお付き合いを、よろしくお願い申し上げまする。」

ペコリとお辞儀する小吉。


そして・・・


騒動の後、先程よりポッカリ周囲が開いている中、


(ふぃ~・・・ミッションコンプリート。

コレでアニキにグダグダと文句を言っていたアホ共も、何も言えなくなるだろうから、嘉代義姉も安心して生活出来るだろうし、義父様も枕を高くして寝れるだろ)

一息付いて達成感を味わう。


今回の騒ぎで表立って定利を責め、家定を非難していた連中=結婚式に出席者していた者達は、他ならぬ自身達の自爆で伝手を潰してしまい、叱責や非難も言えなくなってしまったのである。


そして小吉の発言で親戚連中の、藤吉郎家とのパイプ役が家定のみになった為、子弟を藤吉郎家に就職させようとすれば、手の平を返して家定に媚びを売るしか、手段が無くなってしまったので必然的に、嫁いだ嘉代に対する風当たりも、無風化するのであった。


(とりあえずアニキ達も安泰だし、コッチも将来のガン要素を、親戚連中の非を以て排除出来て良し、と。

オトンやオカンの場合は、自業自得だからどうにもならんし、自分で尻を拭く事だしな)

少し前に中座して、姿を消した両親の席を眺めつつ、脳内思考していると、


「ちと、名代殿宜しいか?」

義父の家次が声を掛けてくる。


「はい?何でしょう?」

「此処ではなんですので、こちらへ・・・。」

スッと立って誘導していく。


「もしやお役御免で帰って良いのか!?」と、期待していたのとは反比例して、どんどん実家の定利邸の奥に誘導されていく。


(・・・うん?此処ってオトンの・・・?)

家次が立ち止まった、部屋の主を知る小吉が小首を傾げていると、


「此処だ小吉、入れ。」

名代としての扱いではなく、養子としての扱いで入室を促す家次。


入室すると其処には当然、


「父上・・・母上・・・。」

「小吉、とりあえず入ってくれないか?」

実父・定利と実母・おこいが部屋に待機しており、小吉を見つめていたのであった。


                 続く

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