第16話慶事と就活はワンセット。

「え~では御夫婦の益々の長久と、御家繁栄を祝して・・・乾杯!!」

「「「「「乾杯~!!」」」」」

仲人役の音頭で出席者達が、一斉に盃を掲げて飲み干した。


1563年5月、ノッブの杉屋襲来から半年以上が過ぎた頃、かねてより許嫁の間柄だった小吉の実兄・家定と、伯父兼義父になる家次の娘で義姉・嘉代が、正式に結婚して夫婦となり、小吉は家次側の人間として、結婚式に参加していた。


同族の従兄妹同士の結婚式なので、参加者全員がもれなく親戚同士であり、「どちら側に座っても問題が無い」という、わりかしグダグダな内容で有ったが一応、家定側には父・定利の実家・木下家の者が、家次側には杉原家の者がと、なんとなく分かれて座り、思い思いに近くの者と飲み食いしつつ、会話を楽しんでいる。


そんな殆どの出席者が、大人で占められている会場(小吉の実家・杉原本家宅)に、数少ない子供と言うか子供なのにも関わらず、小吉は主君・木下藤吉郎のとして、普通に参加させられていた。


(むっちゃ居心地が悪い~!?

もうやだ・・・早く帰りてぇよぅ・・・)

居心地の悪さMAXな状態に、しくしくと泣きが入る小吉。


新婦の隣に座る家次の、すぐ横に座らされた小吉は、顔も名前もろくすっぽ覚えていない、親戚連中の無遠慮で、ジロジロと観る視線に晒され、視線が合わない様ジッと下を向いて、床板の模様を眺めていた。


小吉がこんな事態になった経緯は、家定達の結婚式の日取りが決まった時に家次が、娘の結婚式に藤吉郎サイドからの、出席を求めたからで有る。


「なぁ、頼むよ寧々~。」

「幾ら伯父様の頼みでも、絶対に嫌。」

プイッと横を向く姪。


「ハァ・・・藤吉郎殿は?」

「儂が出席しようモノなら、義父定利殿や義母おこい殿が目くじらを立てて、却って要らん騒ぎになりかねませんぞ?義伯父御殿。」

眉をハの字にして、やんわりと断りを入れる藤吉郎。


「だよなぁ~・・・ハァ。」

ガックリと頭を垂れ、ため息を吐く。


前に大吉こと杉原家定が、弟の小吉に愚痴っていた様に、藤吉郎夫婦と定利達との間の確執に因り、定利達は有力な伝手を潰した形になった為に、親戚連中から非難されていて、元から結婚賛成派だった家定も、とばっちりを喰っていた。


なのでせめて少しでも、家定と嘉代に向けての非難が軽減される様、藤吉郎サイドの関係者を出席させ、「定利夫婦とはアレだけど、家定夫婦とは仲が良いんですよ」と、アピールさせようとしているのである。


「なぁ寧~々~、頼むよ~。

もうお前達とおこい達妹夫婦との間は、どうにもこうにもならないと諦めている。

だけどよ、兄貴の家定とウチの嘉代は、お前の結婚の事を応援してたじゃねーか。」

「それはそうだけど・・・。」

ウッと、声を詰まらせる寧々。


「それに加えて先だっての披露宴だってよ、お前の為に家定も、定利達を憚りつつもキチンと参加して、祝福してくれたじゃねーか。

其処までして駆けつけて来てくれた、優しい兄貴の慶事に出席しないのは、幾ら何でも不義理に過ぎんか?寧々よ?」

切々と情に訴えかける家次。


「う~ん、それは・・・確かに。」

小五月蠅こうるさいジジババや面倒くさい大人共は、俺や美代で捌いて寧々に迷惑かけねー様にするから!な!?

頼むよ本当に!このとーり!」

拝む様に手を合わせて、寧々に頭を下げた。


(こりゃ~寧々姉さんの負けだなぁ)

アタフタする姉を観て確信する。


元々情の厚い性格だし、義理人情も大切にする質なので、家次の泣き落としに陥落するのも、時間の問題だった・・・だのだが、アタフタと左右に彷徨さまよわせていた寧々の視線が、ピタッと小吉の所で止まり、じ~っと見つめ始める。


ゾクゾクゾクッ・・・!!


(何かメチャメチャ嫌な予感というか、悪寒が走ってるんやけど!?)

生後10年にも及ぶ、寧々姉さんとの付き合いに因り、脳内で警報アラームが鳴り響く。


アーモンドアイな目つきを、小吉にロックオンした寧々姉さんは、


「小吉、アンタが私達の名代で、大兄さんの結婚式に出席しなさい。」

にっこりと厄介事を弟に押し付ける。


「いやいやいや!?そんなん嫌に決まってるでしょうが、姉さん!?

立場的には、俺も姉さんと一緒だから!?」

案の定、有る意味予想通りな無茶振りを、小吉に振るのであった。


「いや寧々よ、小吉は最初はなっからウチの者として参加するからな?」

「え!?何で義父様!?」

「何でもクソも、お前がオレを義父呼びしているのが、理由の全てだろうが!?

曲がりなりにも姉の結婚式に、弟のお前が出ない訳ないだろうが!アホか!」

「そ、そんな・・・バカな。」

家次の言葉に愕然とする小吉。


小吉は自分の立場を、綺麗サッパリと忘れていたので有った。


「あら、じゃあ丁度いいじゃない。

ついでに、ウチの名代もしといてよ小吉?」

「どう考えても、ついでにやるモンじゃないでしょ姉さん!?

買い物のお使いに、行くんじゃ有るまいし!

名代で出席しろって言うなら、其処は小一郎さんが出るべきでしょう?」

筋道を立てつつ、しれっと小一郎を巻き込もうと目論むゲス。


「う~ん、そう言われるとのう・・・小一郎が適任者で有るか・・・。」

腕を組んで藤吉郎が同意するが、


「いやいや殿、小一郎どんも当然だが、寧々ちゃんも出すのは止めといた方が良い。

寧々ちゃんの言う様に、小坊主が現状のウチでは適任だ。」

今や藤吉郎木下家の、スーパーアドバイザーと化した蜂須賀正勝が、手と首を横に振って、藤吉郎の意見に反対する。


「何でじゃ小六?」

「何でだよ小六さん!?」

「殿も(浅野)長吉の結婚式の時に、わんさか寄って来たのを覚えているだろ?安井家や浅野家連中のがよ。」

「・・・ああ、有った有ったなそういや。」

思い出したのか、苦々しい表情で頷いた。


「え?青田じゃないの?」

「買う方は雇用主が、コレはと見込んだ若い衆を、自分から召し抱える事だろ?

売る方は抱えられる側が、まぁ、正確には当事者の祖父・父親が、縁故を頼って雇用主に子や孫を売りつける就職口を探す事だな。」

小吉の疑問に、明朗に答える山賊の親分面。


この時代は江戸時代と違って、ガッチリと長幼の序年功序列や仕官先が固定化されておらず、前田利家の様に4男坊が、兄達を差し置いて家督を継いだり、親子兄弟で出仕している主家が違う処か、場合によっては、敵対している家同士に親子兄弟が、別々に仕えている事も珍しくはなかった。


そういった敵味方の区別や、遠慮会釈の境界が曖昧な時代背景なので、「個人的な好き嫌いは別として何処でも良いから、1番待遇の良い所に就きたい、孫子まごこを就かせたい」という、感覚が自然と身に付いており、慶事等の親族が集まる所で、目出度い席に便乗し、親戚という伝手を辿って就活を行うのが、常襲つねあそび化していたのである。


「まぁ、青田売り自体は悪かねぇが、木下家が今欲しいのは将来を見越した、次世代の戦力じゃなくて即戦力だから、残念ながらそぐわねーんだよ。

それに袴着はかまぎ(5歳)を済ましてから10歳ぐらいまでの、元服前の子供なら兎も角、元服が済んだ奴の売り込みなんざ、末生うらなり(未熟者=事務に劣る)か青瓢箪あおびょうたん(不健康=武勇に劣る)な奴しか居ないのが相場だしな。」

溜め息混じりにボヤいた。


現状で家臣団形成が、藤吉郎木下家の急務ではあるが、来れば誰でも良い訳ではなく、特に根幹(中枢)を成す家臣は家の将来に、良くも悪くも多大な影響を与える事に成る為、明らかに劣る者を幾ら縁戚・親戚だからと、縁故で採用をするつもりはなかった。


そして次世代=自分の子供の側近採用・養成については、ノッブの側近・丹羽長秀や池田恒興の様に、同年齢から4~5歳前後の者達で、側近を固めるのが普通なので、子供の居ない藤吉郎木下家には、現状で無用の長物で有り、そのコストを現家臣団形成に注ぐ方が、余程優先度が高いのである。


それはさておき、


「マトモな人材は、とっくに本家なりが囲い込み済みってヤツですか?」

「そういうこった。

だからって、海のモンとも山のモンとも知れんガキ共を採って、ジックリと養育に時間を掛ける暇も銭もねぇだろう?

小坊主を養うので、手一杯だろうからな。」

木下家の台所事情を察し、肩を竦める。


中枢家臣だけでなく軍役の為に、新規に何人かの郎党足軽を召し抱える必要があり、同時に戦費の出費も有る為に、家禄給料が幾ら有っても足りない状況なのであった。


小一郎など表向きは、足軽組頭待遇であるが、実際には家禄を藤吉郎に自主返納して、タダ働き同然だったりする。


「・・・あの俺、毎月1貫ぐらいは姉さんに上納してるけど?小六さん。」

「・・・お前さん、本当に孝行者だな。

ま、それは置いといてだ。

そんな事情も有って殿に対する、前の安井・浅野家の親戚連中の売り込みを、オレと長勝殿が協力して説き伏せて、この前は事なきを得たんだが、今度の木下・杉原家はそうもいかずに、かなり手強いと思われるんだよ。」

眉根に皺を寄せて、嘆息する。


「手強いって何?小六小父様?」

「う~ん、親族の寧々ちゃんの前では言い辛いんだけどよ、特に定利殿系木下家は後がないから、形振なりふり構わずにどうにか殿との繋がりを持とう直臣=幹部になろうと、躍起になるのは間違い無いんだよなぁ、コレが又。」

「後がないってどういう事?小六どん。」

首を傾げる小一郎。


「単純に主家の織田家から、消失しかかってる家系だからだよ小一郎どん。

1度断絶してから、殿が名跡を継いで家名を再興するまで、数十年も鳴かず飛ばずでくすぶってた連中だからな。

そりゃ必死に成るってモンだろ?」

小一郎に説明しつつ、


「そして言い方を換えりゃあ、数十年間燻って再興する者有能な人物が出なかった、最も間違ってもウチ藤吉郎木下家の家臣団に、有る意味でのの持ち主連中ってこった。」

頭を掻いて、再び嘆息する正勝。


(成る程ねぇ~・・・武勇に優れてりゃあ戦場で活躍して、読み書き算盤事務能力に優れてりゃあ能吏として、どうにか小禄でも再興する余地伝手・人脈が十分に有るのに、どうにも出来ていない現状で、推して知るべしだわな)

正勝の言い分に納得する小吉。


「そんな切羽詰まって後の無い連中を、申し訳ないがとても家次殿だけで、右左みぎひだりに上手く捌けるとは思えぬし、家次殿以外の杉原家を含めた一族総出で、泣き落としや強談判こわだんぱんを仕掛けてきかねん。

それを人の良い小一郎どんや、女子おなごの寧々ちゃんが抗しきれるかと云えば、難しいと言わざる得ないからな。」

「ふ~む、確かに小六の言う通りだな。」

コクリと頷いた藤吉郎。


「その点小坊主は※情がこわいし、思わぬ機転であっさりと、後のない連中の思惑を躱しそうな気がするし。」

「「「確かに・・・。」」」

コクコクその通りだなと頷く、藤吉郎・小一郎・家次の3人。


「いやあのさ、俺が血も涙も無い冷血漢みたいな言い方は、止めてくれませんかね?」

半眼で突っ込む小坊主。


(※他人の意見や感情で、動かされない事)


「少なくとも小坊主、お前さんはホイホイと個人的な情に流されて、自分から進んで厄介事を背負しょい込む様な、お人好しなタマ人間性じゃねーだろうが?」

「まぁ、公私の区別は付ける様に、気を付けてはいますけども・・・。」

否定が出来ずに頷く。


小吉は前世の社会経験上、「良い仕事をする人」と「良い人柄を持つ人」は、大凡にして同居せずに別物なのを、嫌という程ゲップが出る位は理解しているので、自然とそういう区別を付ける様になっていた。


多少クセが有ろうと、ちゃんと仕事が出来る人と組めば、自分の負担や作業量は軽減されて、楽になるのを理解している反面、如何に人柄が良かろうと、マトモに仕事が出来ない人と組めば、その出来ない人の分、倍から上の負担や作業量を背負う羽目になり、自分が泣きを見るのも理解していた。


将来的に考えれば、マトモに仕事が出来ない人を、情にほだされて家臣団職場に入れると、間違いナシに自分が泣きを見るのは、前世の経験上、火を見るよりも明らかなので、小吉は断固として拒否する姿勢である。


それはさておき、


「小坊主を推した理由が後もう一つ、コレが結構大事なんだが・・・。」

「何じゃい小六?」

藤吉郎が首を傾げて、続きを催促する。


「殿・小一郎どん・小坊主の中で、小坊主が1番行儀作法テーブルマナー・立ち振る舞いが良いからだ。

基本的に名代は当主の代理人、謂わば家の看板を表したモンだから、下手に不作法を仕出かせば、その分家の恥になる。

今回の結婚式の場合は有る意味、敵地に等しく一挙手一投足、鵜の目鷹の目で観られると思った方がいい。」

暗に10歳児以下の教養と、正勝に断じられた木下ブラザーズ。


「「・・・・・・・・・。」」

1番のウィークポイントを突かれ、木下ブラザーズは暫く沈黙した後、


「・・・小吉、儂の名代を命じる。」

「ゴメンね小吉君、私には無理だ。」

揃って小吉に面倒事を投げた。


「・・・小吉、逝きま~す・・・ぅぅ。」

消去法で厄介事に出るのが、問答無用に決まった事を嘆く小吉。


選択の余地なしに、某機動モビル戦士の搭乗者の如く、名代エースパイロットとして出陣するのであった。


そうして実兄・家定と義姉・嘉代の結婚式に、目一杯のおめかし(森可成から貰った子供服)をして、義兄・実姉の名代として参加し、「何でアニキに、馬鹿丁寧な口調をしなきゃいけねーんだよ?」と、内心愚痴りつつも口上を述べ、後は家定夫妻とテキトーに歓談して、参加者に「仲良しアピール」をしたら、ハイ、終わりだった筈なのだが、


(やっぱそうは問屋が卸さないか・・・。

意図的に俺を孤立させてやがる。

もうやだ・・・ホンマに帰りてぇ)

誰にも視線を合わさない様に、空虚に木目を観察しつつ、今の状況を理解する。


家定夫妻と歓談していたら、家定と同年代ぐらいの者達が、会話の隙間を突いて、家定夫妻を取り囲んで割って入り、あれよあれよと言う間に、家定夫妻との間に人壁を作ったのである。


人壁に遮られた小吉は、諦めて戻ろうとしたら、家次は同年代のオッサン連中に、後ろの方に誘導されて捕まっていて、念の入った事に実父の定利や、叔父の浅野長勝も囲まれて、身動きが取れない状態になっており、ぽっかりと小吉の席周辺だけ、誰も居ない状態なのであった。


(はぁ・・・念入りなこって。

後はボスの登場を待つばかりってか?)

内心で嘆息しつつ、行儀良くきょうされた食膳を堪能していると、


「ちと宜しいですかな?名代殿。」

「某も同席させて頂きたく・・・。」

結婚式の出席者の中でも、長老格と思しき年配者が2人、好好爺然とした表情で共に小吉に声を掛け、スッと向かいに座ってくる。


(ぬぬ、現れたな!?ぬらりひょんAとB!

俺の将来の為にも、撃退してくれるわ!!)

妖怪ではないが、定利木下家と杉原家の総大将代表者っぽい2人と対峙して、舌戦を開始する小吉なのであった。


                 続く

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