第15話小吉流鵜飼いと狐退治法

「え~では、報酬を頂戴致しましたので、私、木下秀吉が臣・木下小吉が、鵜沼と服部狐攻略法を、説明させて頂きます。」

ぺこりと頭を下げた。


表での騒ぎが大きくなったので、家次の居室に移動して、届いた銭を念入りに確認をした後、ようやく上客扱いをするゲス。


因みに小吉が、ノッブに方策を述べる度に、木下姓を名乗っているのは、定利系木下家の血筋を引く、寧々の実弟である小吉も、当然木下姓を名乗れる資格が有るのと、あくまでも秀吉系木下家の家臣として、発言している事を明言し、実家の杉原家とは、一切の関係が無い事を知らしめる為に、敢えて木下姓を名乗っている。


「フンッ・・・待ちかねたぞ小猿。」

「ゼヒュ~・・・ゼヒュ~・・・。」

腕を組んで睨み付けるノッブと、百貫を取りに清洲城と杉屋を、全速力で往復した為、息も絶え絶えに寝転んでいる可成。


ついでに、完全に貰い事故に遭った家次も、同じく息も絶え絶えなのに、ノッブ達に自室を追い出され、警備範囲外の廊下に摘み出され、無造作に放置されていた。


「先ずは鵜沼の方ですが、とりあえず餌付けをします。」

「餌付けのう・・・所領安堵だけでなく、新たに知行ちぎょう(領地)を宛てがって、引き込めと申すのか?小猿よ。」

眉間に皺を寄せる。


「いえ、其処まで高級な餌を、与える必要性は有りませんし、それだと引きずり込むとは違ってしまいます。

単純に犬山に対しての私掠しりゃく(略奪)許可、即ち斎藤家からの援助物資強奪と、強奪した物資の自由ぐらいで十分です。」

首を振って否定して、元手のあまり掛からない、安い餌で良いと話す。


「ふむぅ・・・まぁ、それぐらいなら構わぬが、龍興の援助物資を強奪などと、すぐさま露見しかねん軽挙を、鵜沼の大沢家がするとは、とても思えんのだが?」

そんな見え透いた謀略に乗るか?と、当たり前の疑問を呈すノッブ。


信長から観れば援助物資強奪を、鵜沼にそそのかして実行させる事で、「鵜沼が織田方に付いた」と喧伝し、龍興から離間させて、味方に引き入れるという、安直なはかりごとにしか思えなかったのである。


「別段、鵜沼がしなければしないで、全然問題ありません。

その場合は中流域の豪族連中に、援助物資略奪をけしかけて、奪えば良いだけですので。

なんなら奪った物資の一部を、鵜沼の餌代の代わりに、やっても良いですしね。」

タダ同然ですよ?と利を説く。


「寧ろ肝心なのは、「鵜沼経由からの、斎藤家の援助物資が、犬山の信清に届かなくなる事」ですから。」

「ほほう?鵜沼が物資を奪う方でなく、物資が信清に届かない方が肝要と?」

首を傾げて、疑問符を浮かべる。


「ええ、そうなれば無論、信清は鵜沼の事を疑い、龍興に一報を入れるでしょうね~。」

「ふむふむ、敵の我々が騒ぐよりも、味方の信清が騒いだ方が、余程効果的だのう。」

「はい、そういう事です。

信清にとっては死活問題ですので、それはそれは盛大に、騒いでくれましょう。」

ノッブの解答に頷く小吉。


「まぁ、信清が騒いでも龍興は黙殺して、ばっさり信清をでしょうけど。」

「なに?それだけで龍興が、犬山を見捨てると言うのか小猿?」

「はい、下手に騒がれて本格的に、「鵜沼が寝返った」と美濃国内で流布されると、龍興にとってはになりますので。」

「致命的状況、とな?」

はて?と、首を傾げる。


「龍興の祖父・道三公は、越前・朝倉家と大殿様の父君を破り、実力を以て国主に君臨し、威を示して国人衆を束ねました。

そして父・義龍は、国人衆を糾合して道三公を弑逆しいぎゃくした後に、織田家の侵攻を撃退しつつ、周辺国との関係改善に努め、敵を織田家に絞る事で、国内の東西北方面の安定をもたらし、南方には共通の敵を設定し、尾張という新規領地獲得の、可能性を示して求心力を高め、実績を以て国人衆の支持を集めました。」

斎藤家のあらましを、ざっくりと話し、


「しかしながら現当主・龍興は、義龍急死後に家督を相続して以来、未だに実力も実績も示せておりません。

如何いかに龍興が弱年且つ、継いで間もないのを差し引いても、いずれは示さねばならないのですが、その実力と実績を示す場が、尾張に攻め入って大殿様に勝ち、新たに領地を獲得するのが、現状での手段なのです。」

龍興の置かれている立場を、解説する小吉。


実際に史実でも斎藤義龍は、道三以来の外交路線を転換し、美濃に接する国=越前・北近江きたおうみ飛騨ひだ(岐阜県北部)・信濃・尾張の内、自動的に険悪化した尾張を除き、飛騨・信濃は現状維持に努め、越前と北近江の国とは、友好関係の構築に注力している。


北近江滋賀県北部の大名・浅井久政あざいひさまさの娘を、龍興の正室に貰う事で、浅井家の同盟国というよりは、従属関係で主になる朝倉家と、浅井家を通じて関係改善を果たし、「不戦同盟」に近い関係を構築。


国土がかなり貧しく、攻めても利の無い飛騨・姉小路あねがこうじ家は無視、「国内最強」と名高い信濃の支配者・武田家とは、当然の如く争いを避けて、進物を贈ってへりくだり、着々と尾張侵攻に備えて、準備を進めていた。


しかしながら突如として、義龍が急死。


跡を継いだ龍興は、亡父の外交路線を継承というか、国力的にも利益的にも、尾張しか適切な所が無いのが実状であった。


そして継承後のゴタゴタが落ち着いて、さぁ侵攻だという時に国境を横断する、木曽川中流域~下流域の渡河地点まで、ガッチリ信長に抑えられているので、現状で上流域の鵜沼経由のみになり、美濃から尾張への侵攻路が、限定されてしまっているのである。


このまま鵜沼まで、織田家に通じてしまえば、完全に木曽川を防衛線とされて、尾張方面の侵攻路が封鎖されてしまい、その為織田家は斎藤家美濃を攻め放題、斎藤家は攻められ放題に、なってしまうのであった。


(かといって、強引に木曽川を突破しても、下手すりゃ退路を断たれて、木曽川が三途の川になるだけだしな。

鵜沼を失うと、反攻すら出来ずに一方的に攻められ続け、国人衆から「頼り無し」と、見限られるのが目に見えてるからなぁ。

つーか史実でも、そういう状況になったからこそ、どんどん国人衆が、龍興から離反していったんだろうし、その閉塞感が有ったからこそ、秀吉の調略もとんとん拍子に、上手くいったんだろうからな)

脳内で予測する小吉。


「ふむぅ・・・成る程のう。

つまり鵜沼を失えば、龍興は尾張への攻め口を失い、配下の美濃国人衆から、不平不満の突き上げを喰らう訳か・・・。」

顎に手を添えて、先を読む信長。


「ええ、かといって、犬山の通報を鵜呑みにして、鵜沼討伐を起こしてしまうと却って、こちら側に追い込みかねません。

それならば騒ぐ犬山を切り捨て、敢えて曖昧な関係性にして置き、じっくりと鵜沼を取り込む方を選択するでしょう。」

龍興の行動を読むと言うより、そうするしか手段が無いと告げる。


「成る程・・・しかしそうなると、儂が鵜沼に素っ気ない対応をすれば、すぐさま龍興側に転ぶのではないか?」

「そうはならないかと。

幾ら龍興が、改めて取り込もうと躍起になっても、我々が犬山の援助物資を奪う行為を、黙認した事で鵜沼の大沢家は、龍興に対して「後ろめたさ」という、心にしこりが残りますので、早々にはなびきますまい。」

「フンッ、それが貴様の申す、心情的に「引きずり込む」か・・・。」

鼻を鳴らして、理解するノッブ。


この時代は、ちょっとでも疑われると主君から、容赦なく誅殺される事が多く、実際に備前岡山県梟雄きょうゆう宇喜多直家うきたなおいえの実弟・宇喜多忠家うきたただいえなどは、兄の直家に呼び出される度に、誅殺を恐れて鎖帷子くさりかたびらを着込んでいたという、ブラックな逸話が残っており、親子兄弟でも当たり前に、誅殺が行われていた。


なので、後ろめたい気持ちを持つ大沢家が、誅殺の恐れの有る、龍興の呼び出しに応じる可能性は低く、仮病を使って呼び出しを拒否し、龍興側から見舞いの使者と言う名の、交渉役が来てから、取り込みスタートになるのが、セオリーであった。


「ついでに両家を天秤に掛けて、自家を高く買って貰おうとする、打算も働きますし。」

「フンッ!豪族のさがという奴か。」

忌々しげに、仏頂面で鼻を鳴らす。


「まぁ、こちらからすれば、犬(山)のしつけが済む間の、しか無い地なので、わざわざ高値で買う必要性は、全く無いですけど。」

豪族の性を、ばっさり切り捨てる。


龍興が犬山を切り捨ててでも、鵜沼を重要視する様に、信長から観れば鵜沼は、犬山を制するまでは価値が有るが、犬山を制して、犬山本来の役割=美濃勢の上流域からの、侵攻の監視と足止めが復帰すれば、木曽川防衛ラインが完成する為、一気に価値が暴落するので、高く買う理由がなかった。


「と言う訳で、鵜は適度に餌をやりつつ、放し飼いにして、犬の躾が済み次第、鵜に犬を宛てがい、後は放置しても問題ないかと。」

「ふむ、相わかった、急ぎ段取りを組もうぞ・・・おい、聞いたな?

直ぐに店主家次に書状を持たせて、蜂須賀の所に向かわせろ。

店主は蜂須賀と縁戚故に、話が早い筈だ。」

再び使いっぱしりが、確定した家次。


「では次に、服部狐の退治法に移ります。」

「うむ、良きに計らえ。」

若干、前のめり気味に頷くノッブ。


「服部友貞の厄介な所は、正面から対峙すると、長島一向門徒を呼び寄せる為、いつの間にか服部狐から、長島一向宗に相手がすり替わり、敵に回してしまう事ですよね?」

「うむ、正しくその通りじゃ!」

コクコクと頷いて同意する。


RPGゲーム風に謂えば、服部友貞自体は雑魚敵だが、「仲間を呼ぶ」コマンドを使って、直ぐに超強敵を呼び寄せる、厄介な雑魚敵の様なモノであった。


「ではこういう敵の対処法と云えば、「仲間を呼び寄せる前に倒す」に限ります。」

「奇襲攻撃をせよと?」

「いえ、奇襲は奇襲でも、攻撃的な奇襲ではなく、治安維持的な奇襲です。」

「???意味が解らぬ!」

疑問符を幾つも浮かべる。


「民衆思いの大殿様は、尾張と伊勢の国境沿いの治安の悪さに、それはそれは心を痛めていらっしゃいます。」

「???・・・まぁ、それはそうじゃが。」

疑問符を浮かべつつ頷く。


「そして同じくも、とある※悪門徒っぽい輩のせいで、敬虔な門徒達の平穏が脅かされ、徳高い御坊も門徒を騙る輩のお陰で、謂われ無き悪評を立てられてと、大層迷惑を被っているとか。」

「いや、とある悪門徒っぽい輩もクソも、服部狐だろうがソレ・・・。」

何言っているのだ貴様は?と、突っ込む。


(※宗教的な権威を悪用して、悪事・犯罪を働く信者の事で、生臭坊主の同類)


「そんな民衆思いの大殿様は、民衆と尾張一向宗と門徒達の、心からの嘆きと訴えを聞き入れ、門徒をかたる悪党退治の為の拠り所を、悪党を他国伊勢=長島に逃がすのは、己と尾張一向宗の沽券に関わるからと、国境沿いに監視砦や城塞を建てる事を、決意なされたのです!

え~と、確か国境付近て鯏浦うぐいうらだったっけ?

その辺りとかに!」

あやふやな地理知識で、疑問符を浮かべつつ、グッと握り拳を作って強調し、


「・・・という大義名分と筋書きで行動し、服部友貞に妨害されない様、留守を狙ってこっそりと城塞を築き、伊勢長島一向宗との間に、楔を打ち込んだ後でじっくり、服部狐の巣を袋叩きにする方策です。」

微妙にこそ泥っぽい、方策の骨子を述べる。


「何となく伊勢一向宗の介入を、どさくさ紛れに城塞を築く事で阻止し、尾張一向宗を狐退治の名分に、利用するという趣旨は解ったが、根本的な話として、尾張一向宗が小猿の方策に乗るのかが、はなはだ疑問なのじゃが?」

根本的な疑念を呈す。


「確実に乗りますよ?

何せ服部友貞は、尾張一向宗や門徒からしても、存在ですので。」

「忌々しいとな?尾張一向宗も、儂と同じ心境と申すのか小猿?何故に?」

首を傾げる。


「単純に海西郡という、歴とした尾張国内即ち、尾張一向宗に居る癖に、尾張一向宗よりも格上で隣接しているからと、尾張一向宗を蔑ろにして、長島一向宗に属しているからです。」

「おお、確かに横紙破りをしておるな!」

ポンと手を叩いて頷いた。


尾張一向宗も、総領寺(地域の宗派を統括する寺)は長島願証寺だが、だからといって地元教区の縄張りを、蔑ろにして良い訳がなく、その為ハットリ君は、尾張一向宗の坊さん達から、かなり反感を買っていた。


そして門徒からも、信長の尾張統治はすこぶる良く、「尾張では泥棒が居らず、夜中に戸締まりをせずとも、安心して過ごせる」と、云われるぐらい行き届いているのだが、ハットリ君の略奪行為の被害を、度々を受けており、非常に憎まれていた。


ついでに、真っ当な門徒や坊さんから観ても、ハットリ君のやっている事は、一向宗の権威を軍事利用している、悪門徒の所業そのものであり、顰蹙ひんしゅくを買っているのである。


「そんな尾張一向宗や門徒から、非常に憎悪されていて、今や飛ぶ鳥落とす勢いの、大殿様の敵意を買ってまで、長島一向宗は庇うと思いますか?」

「思わんな。

儂は兎も角、尾張一向宗の離反を誘発し、第2の※大小一揆になりかねん状況になってまで、服部狐を庇う理由が無い。」

首を左右に振って、否定する。


(※加賀の国石川県南部で発生した、加賀の支配権を巡って、一向宗門徒同士が衝突した内紛)


「しかし、鯏浦か・・・面白い!

服部狐の隙を突いて、狐のに堂々と城塞を築けとは、誠に愉快痛快な話よ!

儂にこっそり所領を盗まれた、こそ泥の服部狐の唖然呆然とした表情が、目に浮かぶわ!ハッハッハ!!」

膝を叩いて大笑いするノッブ。


(え?敵地の中なん?鯏浦って・・・ヤバ)

テキトーな地理知識のせいで、墨俣築城レベルの、豪胆な提案をしてしまった小吉。


「服部狐の泣きっ面が拝める上に、「武家の習い・俗世には関せず」という、長島一向宗の体の良い、狐の援軍要請の断り文句にも使えると、一石二鳥ではないか!

して、どうやるのだ小猿よ?」

膝を寄せて詰め寄る。


「え~とですね・・・・・・。」

「ふむふむ、予め建材を城塞建設用に、すぐさま使える様に加工して作っておき、木曽川から鯏浦に、いかだで一気に搬送するとな。

・・・面白いのう貴様!」

「・・・エヘへ、それ程でも・・・へへ。」

墨俣築城譚を、臆面無くパクるゲス。


「但し、隙を突いての奇襲行動故に、友貞の詳細な動向を、キッチリ把握する必要性があるので、入念に密偵を送り込むのは、必須事項であります。」

「確かにのう。

ならば南近江・甲賀こうか郡の出で、乱破忍者との伝手を持つ、(滝川)一益が適任者であるか。

そのまま伊勢攻略を、任せても良いな。」

顎に手を当て考え込む。


「うむ、小猿よ大儀で有った。

儂は急ぎ狐退治に掛かる故、さらばじゃ!

・・・クックックッ・・・服部狐めが只では殺さん、ジワジワ嬲り殺しにしてくれるわ。」

どす黒い笑みを浮かべて、退出をする魔王。


信長は身内認定した者には、非常に寛容で温情を以て接するが、敵認定した者には、情け容赦なく徹底的に潰し、何年経っても怨みを忘れずに覚えている、執念深く粘着質なタイプであった。


「毎度ありがとうございました~。」

定例句で、ノッブを見送る小吉。


こうして、小吉流鵜飼いと狐退治法の、方策を聞いた信長は、精力的に行動を開始し、鵜は言い様に泳がされ、狐は彼岸行きが史実よりも、早くなったのであった。


                 続く

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