第13話確定・天下一の母と嫁。

「おい、小一郎・・・冗談だよな?」

呻く様な声で、弟に確認を取る兄。


「冗談抜きで本当に本当だよ兄者。

小吉君が発起人として、我々に協力を要請し、会場の確保や浅野家への根回し等々などなど、大まかな諸々の段取りの殆どは、小吉君がやっているんだ。」

真剣な眼差しで、兄に返答する小一郎。


「小一郎どんの言う通り。

俺達は小吉坊の段取りに従って、披露宴開催に協力しただけだ殿。

ついでに言えばよ、殿達の後ろの床の間に、飾ってある龍と鳳凰の絵や、板戸に貼ってある女の子の小人?の絵も、小吉坊が披露宴の為に描いたんだとさ。」

小一郎の証言に言い添えて、肩を竦める。


「「え?後ろ・・・あ、本当だ!!」」「「「「「ええ!?ウソでしょ!?」」」」」

気が動転してて、視野狭窄しやきょうさくに陥っていた藤吉郎夫妻が、漸く背後に飾られた龍と鳳凰図に気づいて、驚きの声を上げると同時に、杉原家次親子以外が、信じられないと、素っ頓狂な声を上げた。


(まぁ、前世の絵をパクってるだけだけどね)

内心でテヘペロと舌を出す小吉。


龍の方は「南の島の大王の名」が、必殺技で有名なヤツだし、鳳凰の方は実際はゲームに出てくる、不死鳥フェニックス系モンスターをモデルにしているだけだった。


因みに板戸の絵は、元々春夏秋冬に合わせて、季節毎の動物や虫を、描こうとしたのだが、嘉代達母子が前に描いたデフォルメ女の子、命名・愛子めごちゃんを描けと、猛プッシュして来たので、愛子ちゃんを入れた所、ファンシーな絵になってしまっている。


「・・・。」

出席者の面々が驚嘆する中、藤吉郎の母・仲は俯いた状態で、スックと立ち上がり、


「藤吉ぃぃぃいい!!」

叫び声を上げつつ、


「はい?あベァッ!?」

渾身の右ストレートを息子に放ち、無防備に振り向きざまに喰らった息子は、世紀末的雑魚キャラの断末魔の如き、悲鳴を上げつつ床に転がった。


「オメエって子は!?

あんな頑是がんぜねえ子供まで、嫁殿の為に此処までしてんのに!・・・オラは情けない、情けないよホントに!」

半泣きで息子を責める母。


(おおう・・・わりかし息子には厳しいな、秀吉の母君さんは。

前世の祖母ちゃんも、他人に気遣いや思いやりはあったけど、息子である親父や伯父さん達には、親として結構厳しかったなぁ)

多分、1番泣きたいのは、秀吉だろうなぁと思いつつ、4人の息子よりも嫁さんの方に、味方していた祖母を思い出し、益々親近感が湧く小吉。


「母ちゃん止めれ!止めれって!?

今は駄目!兄者はこの披露宴の主だから、な?今は駄目だって!

後で幾らでも気の済むまで、それこそ顔形が変形するまで、好きにシバいて良いから!」

追撃態勢に入ろうとする仲を、姉の朋と共に、止めに入る小一郎。


小吉が文字通り他人事の様に、木下家の騒ぎを傍観していると、


「小吉!?アンタ披露宴を開催する費用を、どうやって作ったのよ!?

預かってる30貫も使わずに?」

アッサリ自分にも飛び火する。


「それがよ寧々ちゃん!

小吉坊の奴、家宝の脇差しをこの屋敷の主に売り払って、費用を捻出したって言うんだから、大したおとこだよな本当に!」

うんうんと感心した様に、小吉から聞いた話を、ぺろりと喋る正勝。


「家宝の脇差し」という単語に、何故かビクリと肩を震わせる、長勝と長吉の2人。


「は?家宝の脇差しって、どういう事?

小吉の持ってた脇差しって、俺のお古の数打ち物大量生産品だから、間違いなく二束三文にも、ならない筈だけど?」

小吉の脇差し事情に詳しい(?)、実兄の家定が、首を傾げて訝しむ。


「・・・。」

兄・家定の証言を聴いた寧々は、無言でスックと立ち上がって、スタスタと小吉の許に歩み寄ると、


「アンタ!?もしかしなくても、織田のお殿様から拝領した、脇差しを売った訳!?

何考えてんのよアンタは!?

バレたらどうすんのよ!?下手すれば、打ち首か切腹になるわよ!?」

事情を察した寧々が、半泣き状態で小吉の胸倉を掴み、ガクガクと前後に揺らした。


「グえぇぇ!?止めてぇ姉さんん!?

だって姉さんに、大殿様から分捕った差し料佩刀を献上しても、お咎め無しなら売っ払っても、問題ないと思ったんだよぅ!」

揺さぶられつつも、素直にペラペラ答える。


「「ひょええぇぇぇ!?・・・ヒグッ!」」

寧々と小吉の爆弾発言の連発に、びっくり仰天した挙げ句、素っ頓狂な悲鳴を上げて、白目を剥いて気絶する、家定と家次。


「「旦那様、しっかり!?」」

「「う~ん・・・連座・・・切腹・・・打ち首・・・う~ん・・・連座。」」

慌てて後ろから2人を支える、美代と嘉代親子と、譫言うわごとを繰り返す2人。


この時代の刑罰は、連座制が取り入れられており、自分の親子兄弟が罪を犯すと、「家族単位での連帯責任」を問われて、自分も同罪及び準拠した罪に問われ、巻き込まれる事が当たり前だった。


なので小吉が罪に問われて、切腹or打ち首になると、実兄の家定や義父=実父扱いの家次も、当然同罪になる可能性が高く、いきなりノータイムで死刑囚になる2人が、泡を吹いて倒れるのも、無理はなかった。


そうして母・仲の追撃を、必死に止めようとする小一郎達木下家と、寧々の怒りを、一応鎮めようする長勝達浅野家が、それぞれギャースカ騒いでいると、


ダンダンダン・・・!


床を踏み抜かんとする様な、大きい足音が近づいて来て、


「邪魔するぞ?」

満を持してノッブが登場する。


「「「「「・・・・・・・・・え?」」」」」

突然のサプライズと言うか、思ってもみない闖入者ちんにゅうしゃの登場に、部屋内の時間がピタッと止まり、


「「「「と、殿!?・・・ははぁ!」」」」

まるで逆再生の如く、元位置にそれぞれが戻っていき、藤吉郎・利家・長勝・正勝がノッブに平伏し、他の者達もそれに倣った。


(いい時に、来てくれてありがとうノッブ!

「黄金の指作戦」を段取りしてて、ホンマに良かった・・・)

寧々姉さんからシバかれる、危機が去った事を喜ぶ小吉。


厄介事を持ち込む、時の疫病神から転化して、時の氏神になったノッブに感謝しつつ、自分の先見力の明を、自画自賛する。


因みに「黄金の指作戦」とは、前世のどっかのテレビの収録番組で、アチチでGOな某歌手が、収録中に偶々通りがかった、結婚式場にいきなり乱入。


全く見ず知らずの新郎・新婦に対し、持ち歌の「黄金の指」を熱唱する、サプライズを提供して、新婚夫婦を感動させた話に因んで、偶然を装ったノッブを、披露宴に登場させ、ノッブに祝福されるという、ガチで大変な名誉(家老クラスでも得れないレベル)を、華に添える作戦である。


「良い良い、皆の者面を上げよ。

所用が有って此処に来たら、家長から藤吉郎達が、披露宴をしておると聞いての。

気まぐれに顔を覗かせたのじゃ、許せよ。」

言葉とは裏腹に、「してやったり」といった表情を、顔に浮かべるノッブ。


「と、とんでも御座いません殿!

某如きの披露宴に、わざわざお運び頂いて、恐悦至極に御座いまする!」

「そうか、それならば良い。

しかしのう・・・藤吉郎!」

打って変わって厳しい表情になる。


「はっ。」

「何じゃ貴様の衣装は!?

嫁の寧々に比べて、見劣りが過ぎるぞ!」

「はっ!?コレはその・・・。」

焦って目が泳ぐ。


晴れ着姿に着替える間もなく、腹パンされて拉致られました、とは武士として言えず、返答に窮する藤吉郎。


「誰ぞある!」

「ははっ!」

「藤吉郎に儂の召し物衣服を与えよ!

サッサと着替えて参れ藤吉郎!」

「ははっ!直ぐ様着替えて参りまする。」

そそくさと中座する。


「さて、寧々よ。」

「は、はははい。」

「類の色打ち掛けを着ておる様じゃが、類同様に、よう似合うておるの。」

優しい目つきと口調で、寧々を褒め讃えた。


「ははい、ありがとうございます!」

「うむうむ・・・さて、夫に下賜して妻のお主に下賜せぬは、片手落ち故に・・・おお、そうじゃ、この脇差しをやろう寧々よ。

自分の守り刀にでもせい。」

腰に差していた脇差しを、寧々に渡す。


「あの・・・この脇差しを頂戴する代わりに、ウチの弟・小吉が、殿様から拝領した脇差しを、無知で売ってしまった事を、どうかお許しくださいませ!」

平謝りして小吉の助命を乞う。


「うん?ハッハッハッハ!

その件ならば、とうに許しておる故に、気にするでない寧々よ。

それにこの脇差しは、お前の弟が家長に売り払って、儂に献上されて戻って来たモノ。

謂わば巡り巡って戻る、大層な縁起物じゃ。」

呵々大笑した後、そのまま寧々の手に置き、


「弟は禁を犯してでも、姉の為に動き、姉は己の事よりも、弟の為に動くか。

・・・儂は兄弟には恵まれなんだ故に、そなた等姉弟が羨ましい。

お前は兄弟を大事にせいよ、寧々よ。」

述懐する様に呟いた。


「は、はい!」

「うむ、良し良し・・・!?この絵は・・・うん?この龍の絵は・・・小吉ぃ!」

小吉に向かって怒声を上げる。


寧々の肩をポンと優しく叩いた後、床の間に飾ってある、龍と鳳凰図に目を見開いて、「マジか!?この絵をあの小猿が!?」といった風に、驚愕して観ていた信長は、ある事に気付いて怒ったのであった。


「この龍の絵は何じゃ貴様!肝心の眼が入っておらぬではないか!?

画龍点睛がりょうてんせいを欠く」とは何事ぞ!」

「はぁ、畏れながら申し上げます。」

全く畏れていない口調で、反論に入る小吉。


「確かに「画龍点睛を欠く」のは、半端な感じがしますが、しかしながら、点睛を入れてしまえば完成した龍、謂わば「※亢龍こうりゅう悔いあり」に成るのでは?と思い、敢えて描きませんでした。

殿はまだまだこれからも、上へ上へと昇っていく、昇竜に御座いますれば。」

「うぬ!?・・・ぬぬぬ、一理ある。」

理路整然とした反論に、返す言葉がみつからずに、認めるノッブ。


(※亢龍=完成されて登り詰めた龍の事。

転じて登り詰めた龍は、それ以上上が無く、落ちるしかなくなる事から、「悔い有り」が語尾に付いた)


(いや~だって、西洋竜なら、眼を入れた方が良いけど、東洋龍は眼を入れちゃう方が、カッコ悪いやんか?)

只単に某神アニメの影響をうけて、東洋龍を偏見で描いただけであった。


「・・・フンッ!相変わらず小癪な奴よ。」

小吉の内心を知らずに、テキトーに返しただけの言い訳を、ノッブは鼻を鳴らして、縁起の良い返しだと感心する。


それからノッブは、寧々の気立ての良さを褒め称えて、実父扱いの長勝をヨイショしたり、藤吉郎の要領の良さを褒め称えて、実母の仲をヨイショしたり、小一郎がまだ正式な名乗りを、決めていない事を知ると、自身の「長」の字の偏諱へんきを与え、秀吉の「秀」とくっつけて、「長秀」の名乗りを与えたりと、サービス精神旺盛なノッブであった。


因みに史実でも、豊臣秀吉の実弟・秀長は、当初「長秀」と名乗っており、秀長に改名したのは、本能寺の変以後だったりする。


小吉の場合は、「あの~・・・俺は?」と、何度となく自身を指差して、アピールするも、しれっと無視されたが。


そうして藤吉郎が、着替えて戻って来ると、小吉の盃を奪って(中身は水)、乾杯の音頭を取った後、感動と名誉と感謝の面持ちで、平伏する両家一同を尻目に、悠々と去っていく信長であった。


(ちょっとぉ~ノッブさん!?

最大の功労者の俺に、分厚い褒美を呉れても、良いと思うんスけどねテメエ!?

実費は全部俺持ちで、ノッブは余ってる衣服と、脇差しをリサイクルして、姉さん達に渡しただけじゃねーか!・・・理不尽過ぎる)

不満タラタラなゲスを除いて。


こうしてなんだかんだと、披露宴を成功させた小吉は、寧々姉さんから「アンタの結婚式の時は、姉さんが豪勢にしてあげるから、任せて頂戴!」と、お姉ちゃんパワーを漲らせた、不思議と将来が不安になる発言と、胃袋の平穏を得たのであった。


                続く


            

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