第12話否定・義兄弟だけど、同年同月同日に逝くのは嫌だ。

「ハァ・・・。」

寧々は知らず知らずの内に、自然とため息を吐いていた。


(別段、父上や母上と絶縁してまで、旦那様と結婚した事には、後悔している訳じゃない、だけど・・・)

もやもやとした、わだかまりが胸中に残っている感が、どうしても拭えない寧々。


親友の松や生駒の類は、恋愛で結ばれた寧々を羨ましげに讃えるが、寧々からすれば、煌びやかな式で綺麗に着飾って、大勢から祝福された2人の方が、羨ましく観えて仕方がないのである。


「まぁ、あ!?・・・又やっちゃったぁ。」

焦げ付いた煮物を観て、力なくうなだれる。


(あちゃ~・・・ま、いいか。

とりあえず旦那様や小吉、それに小一郎殿は、喜んで食べてくれるし・・・。

何かここ最近、旦那様と小吉と小一郎殿が、妙に仲が良いのよね、良い事だけど)

焦げ付いた煮物に、考え事をして無意識に添加物を加え、ダークマターを製造する。


寧々視点で観ると、小吉が藤吉郎に抱きついてふざけていたり、藤吉郎が小吉を押さえ込んで戯れていたり、小吉と藤吉郎が小一郎と鬼ごっこしていたりと、3人で仲睦まじく遊んでいる様に、観えるのであった。


因みに実際は・・・


「おい、コラ離せ小吉!

今日はその、ホラ、又左と飲みに行く約束をしとるんじゃ!な、離せって!?」

「んな取って付けた様な嘘話、何処の誰が信用するんだよ!?

姉さんの愛殺あいさい料理から、逃げようたってそうは問屋が卸すかぁ!

1人ではかん、逝かせんぞぉ!!」

お前も道連れじゃあとばかりに、ダークマターから逃げようとする藤吉郎の背中に、子泣き爺の如く張り付く小吉だったり、


「ちょっ!?今日は家次の義父様に、飯のお呼ばれしてんだよ、ホンマに!?

離せ!コンニャロウ!」

「おお、そうかそうか!

しかしのう、お前も食べ盛りの年頃じゃろ?

遠慮せんと、寧々の料理をた~んと食ってから、ちゃ~んと逝ってこいや!?」

「く、クソ、離せ!小柄な癖に力が強え!?

子供の体が恨めしい~!」

お前だけ逃げるのは許さんとばかりに、藤吉郎が小吉に対して、柔道の抑え込みらしきモノを掛けたり、


「こんちは~、お呼ばれに来ました。」

「「ようこそ、逝らっしゃ~い♡」」

「(察し)・・・・・・ダッ!(逃げ出した音)」

「逃がすかぁ!?セイッ!」

「ぐぁッ!?(足を掛けられて転倒)」

「ようやった小吉!

小一郎~我ら3兄弟、苦楽を共にしようではないか、うん?」

「苦しか無いだろ兄者!?

今日は外れの日かよ畜生!

クッソ!・・・当たり外れが読めん!」

死なば諸共とばかりに、2人が結託して小一郎を罠に嵌めたりと、地獄の餓鬼もかくやの、醜い争いを繰り広げ、


「ごめんなさい、料理とちちゃって失敗しちゃって・・・。

どうかな?いける?」

「「「うん、(あの世に)十分逝ける逝ける。」」」

何処ぞの桃園の義兄弟の如く、誓っても願ってもいないのに、同月同日同刻、涅槃ねはんに旅立っている3人なのであった。


それはさておき、


寧々が料理の失敗に、意気消沈していると、


「寧々ちゃん居る~?」

ひょっこり勝手口から、親友の松が顔を覗かせ、にこやかに入ってくる。


「あら、松ちゃん、どうしたの?」

「うん、さっき生駒家から使いが来て、類様が屋敷に来て欲しいってさ。」

「う~ん、何だろう?」

「さあ?とりあえず行ってみようよ。」

「そうね、そうしましょうか松ちゃん。」

大して疑問を持たず、2人連れ立って生駒屋敷に向かう。


そうして、生駒屋敷の類の部屋に赴くと、白無垢とは違う、色鮮やかな打ち掛け(花嫁衣装)が、部屋に飾られていると同時に、類と数人の老女が待ち構えていた。


「類様!寧々ちゃんを連れて来ました!」

「ご苦労様松さん。

それ、やっておしまいなさい!」

「「「「「はい、承知しました!」」」」」

類の号令の下、老女マダム達が一斉に寧々に群がっていき、身包みを引っ剥がしていく。


「きゃぁぁあ!?ちょっと待って、何々!?

止めてちょっとぉ~!?」

寧々は為す術もなく、マダム連中に剥かれていくのであった。


そうして寧々が、強制的にドレスアップしている頃・・・


「フンフ~フフン♪」

ルンルン気分で、城から出る藤吉郎。


主君・信長に呼び出しを受けて、報告を終えた藤吉郎は、鼻歌を歌いながら、愛する妻の待つ家に、帰宅の途に着いていた・・・訳もなく早く帰れたので、何処のR18禁指定店に寄ろうかと、浮かれていた。


「お~い、藤吉!」

「よぉ!殿!」

「ん?又左に小六か。

コレ又珍しい組み合わせだな?2人共。」

前田利家と蜂須賀正勝の2人が、城門前で声を掛けて来たのに、首を傾げる。


2人共接点が無い訳ではないが、あくまでも藤吉郎を通じての、顔見知り程度であり、連れ立って行動を共にする程、親しみが無い筈だからである。


「そんな事はどうでも良かろう。

藤吉、実はちょっと話が有ってな・・・。」

「うん?なんじゃい?」

「実は・・・フンッ!!」

「オゲぇ!?」

利家から不意打ちで当て身を食らい、白目を剥いて昏倒する藤吉郎。


「おいおい前田殿、無茶苦茶すんなぁ。」

「松には藤吉に悟られず、生駒屋敷に連れてきてくれと頼まれたが、某は隠し事は苦手だし、口が藤吉程回る訳でもない。

それに、貴殿も決して得手ではあるまい?

コレが1番確実で、手っ取り早いやり方だ。」

ヒョイと肩に藤吉郎を担いで歩く。


「しかしながら、前田殿は大胆だな?

人目の付く門前で、堂々と一発かますとは。」

「なに、衆人環視の中、人を斬り殺した事の有る某が、今更いまさら人を1人殴った所で、誰も驚きはせぬだろうよ。」

気負いもせずに、平然とのたまう。


「・・・嫌な意味の信頼感だなぁ。」

ゲンナリしつつ、随行する正勝であった。

 

そして・・・


「フンッ!!」

「ぐはぁっ!?・・・うん?此処は?」

利家からの気付けを受け、意識を取り戻した藤吉郎は、キョロキョロと周囲を見渡す。


見覚えが有る様な、無い様な室内に、視線を這わせ様として、すぐ脇を観ると、


「か、母ちゃん!?にとも姉ちゃんに朝日あさひまで!?小一郎何で!?」

小一郎を家臣に迎えに行って以来、顔を合わせて居ない母や姉妹を見つけ、ビックリ仰天して小一郎に問い質した。


「何だもこれだもねぇよ!バカ息子!

オメエと嫁殿の披露宴と聴いたで、こうして皆で集まっているんだろうが!」

憤慨した様に、藤吉郎の母・なかが怒鳴る。


「はいぃ!?オレと寧々の披露宴!?」

全くあずかり知らない寝耳に水な話に、素っ頓狂な声を上げて、幾つもの疑問符を浮かべる。


いつの間にか畳の上に座らされ、目前には豪華な食事が並び、藤吉郎側には、順に母・仲と末子の朝日、小一郎と朋の姉弟や前田利家、蜂須賀正勝夫妻が列席。


寧々側には、義理の父母になる浅野長勝夫妻と、義弟の長吉夫妻の隣に、実兄の家定と婚約者の嘉代が夫婦枠で列席し、次いで伯父の杉原家次夫妻と、末席に小吉がいた。


何故か長勝と長吉の顔色が悪く、胃の辺りをしきりにさすっているが。


夢か幻か?狐狸こりに化かされているのか?と、藤吉郎が混乱状態に陥っていると、


嫁御寮よめごりょうさんが入場されますよ!」

利家の妻・松が先導役として、寧々の入場の先触れを伝えに来た。


直後・・・変則的ではあるが、類を介添え役補助役として手を引かれながら、色鮮やかな打ち掛けを纏って着飾り、化粧が施された寧々がしずしずと入場する。


本来なら義母である、実母・おこいの妹・おきぬが、介添え役として寧々を牽引けんいんするのが、本筋なので有るのだが、「自分は娘の手を引く事は、まず叶わないだろうから、せめて気分だけでも感じてみたい」という、類の断っての願い事に、おきぬは喜んで応じ、類に役目を譲ったのである。


(そう言や、類姉さんの娘・徳姫って、10歳もならない内に、徳川家康の長男・信康のぶやすの許に嫁いでいるんだっけ?

それに確かノッブが、美濃を制した時には亡くなっていた筈だから、数年後には・・・。

己の天命を悟っているのかも・・・か)

叔母から事情を聴いて、益体もない事をつい考えしまう小吉。


そんな小吉の心中を別にして、美しく着飾った寧々の格好に、主に女性陣から感嘆と羨望の声が上がり、望んで止まなかった花道に寧々は、ポロポロと涙を零しつつ、入り口から向かって右側の、夫・藤吉郎の横に敷かれた畳の上に着席。


先導役を終えた松は、藤吉郎側の夫・利家の後ろに控え、介添え役の類は寧々の親類を憚り、寧々側の下座=寧々から観て、家次夫妻の隣に座っている、小吉の横の席に着く。


「え~・・・コホン、場が調ととのった所で、不肖ながらこの蜂須賀正勝が、木下家と浅野家両家の媒酌人ばいしゃくにんを、務めさせて貰いまする。

皆様方、何卒宜しくお頼み申す。」

咳払いして一礼する。


正勝がおもむろにそう発言すると、藤吉郎と寧々の中間に移動して座り、木下家=藤吉郎側の親類の名と、関係性を呼び上げつつ、浅野家に順次紹介していき、その都度寧々達浅野家側は会釈していく。


木下家の人物紹介が終えると、今度は浅野家の人物紹介に移行し、混乱して頭を右往左往させている藤吉郎を、母親の仲が頭をはたいて掴み、強引に会釈させていく。


因みに媒酌人という役割は、現代だとヤっちゃんヤクザの世界で組織内の親分の襲名式や、外部組織との大掛かりな、親子・兄弟分の盃事さかずきごとぐらいしか、殆ど使われておらず、ヤっちゃんの専門的役割に思われがちだが、実際には近代までは、一般の結婚式でも媒酌人は存在していた。


元々媒酌人は現代風に例えれば、テレビのMC=司会進行役に相当し、「婚」に関わる式の間を取り持つ役割であり、仲人なこうどと違って、最初からたずさわっている訳ではなく、新郎・新婦のどちらかの友人・知人が、頼まれて成る事が多く、必ずしも必須でもなかった。


しかしながら今回の披露宴に関しては、どうしても必須であった。


何せ本来結婚式前にする、親族同士の顔合わせをしておらず、お互いが今回が初対面であり、お互いに相手側が誰が誰だか、名前すらサッパリ判らないからである。


その為、互いの面通しをする必要性があり、年齢的にも両家の関係性も考慮した結果、両方に縁の有る蜂須賀正勝が、媒酌人を務めたのであった。


「・・・さて、お互いの挨拶が済んだ所で、御夫婦並びに御両家に於いて、益々の長久と繁栄を祝して・・・乾杯!!」

「「「「「乾杯~!!」」」」」

正勝の音頭で祝杯が掲げられ、それぞれ杯を傾けて飲み干した。


そうして何となく、雰囲気に呑まれた藤吉郎と、詳しい事情を抜きで、素直に喜んでいる寧々を中心に、宴が始まろうとした時、藤吉郎の母・仲が寧々の許に行って、


「嫁殿!結婚式の時に、ウチのバカ息子がとんだ不調法をしたそうで、大変申し訳ねえ事で!許してくんろ!!」

心底申し訳なさげに、何度となく頭を下げて、平謝りをする。


「お、おい母ちゃん止めろよ!?人前でみっともねぇ事すんのは!?」

「なぁにぃ~?みっともねぇだぁ!?このバカタレが!どの口が言ってんだ!」

表情を一変させて、まなじりを吊り上げ、


「話は小一(郎)から聞いただぞ、オメエ!

こっただな器量良しを、嫁御に貰っておきながら、貧しい村娘でもしねー様な、貧しょったらしいみすぼらしい式を挙げたそうでねーか!

オメエが嫁殿にやった事と、オラが嫁殿にしている事、どっちがみっともねぇ事を、してっと思ってんだ!?」

己の息子を怒鳴りつける。


(そら~間違いナシに、秀吉だろ)

小吉の脳内感想とリンクして、満場の視線が藤吉郎に向けられた。


「うぐ、それは世間体が・・・あの時の俺の立場や身分で、武家の娘である寧々を娶るのは、周りから睨まれかねんかったし。」

「そったら貧しょったらしい事をしてまで、世間様の目を気にするんなら、中村に帰って祝言を挙げりゃあ、良かっただろうが!?

そんなしょうもねぇ世間体を憚って、嫁殿の一生の晴れの舞台を、台無しにしよってからに、何考えてんだオメエは!!」

息子の見苦しい言い訳を、ド正論で返す母。


披露宴会場に居る全女性陣が、仲のド正論に対して、一斉にウンウンと頷いて同意する。


「オラも女の身、どんなに嫁殿が惨めな思いをしたか、考えただけでもすまねえ、申し訳ねえ気持ちで一杯になるだよ。

ホントに申し訳ねえ嫁殿、許してくんろ!」

目に涙を溜めて、再び平謝りする仲。


(自分の事よりも人の事を思いやれる、慈しみを持つ優しい、ええお袋さんやなぁ)

前世の似た性格の祖母を思い出し、懐かしみを覚える小吉。


「お顔を上げてくださいまし、お義母様!

旦那様と結婚した事に、一片の悔いも後悔もありません処か、今とっても幸せですよ?

藤吉郎様に出会えた事で、お義母様の様な素敵な姑様にも、こうして出会えたんですから、私の為に泣いてくださって、あり、ありがと・・・グス、うわぁぁぁん!」

姑の優しい思いやりに、感極まって泣き出し、仲に抱きついた。


「そうか、許してくれるかね嫁殿。

お前さんの様な、優しいええ子が嫁に来てくれて、オラも本当に嬉しいだよ。

ウチのバカ息子の事を、これからも宜しくお願いするでな嫁殿。」

寧々の背中を優しくさすり、親愛を込めて息子の藤吉郎を託す慈母。


出席者(秀吉除く)が「ええ話や」と、ジーンとして寧々が落ち着いた後、


「そういや小一、浅野様方の中にこの披露宴を、お膳立てしてくださったが、おいでなさると言うとったが、どちら様かね?

ちゃんとお礼をせにゃあいかんでな。」

ふと思い出したのか、小一郎に尋ねた。


「あ!?そう言えば誰じゃ!?舅殿か?」

「え!?ウチ側なの?

てっきり小一郎殿か、小六殿かと。」

藤吉郎と寧々が顔を見合わせ、お互いに相手側の人物を、候補者に挙げる。


「「「・・・。」」」

呼ばれた人物達は、一様に無言で首を左右に振って否定し、出席者の中で最も幼い、小吉を指差した。


「「「「「へ?・・・・・・・・・え?」」」」」

候補者達以外で事情を知る、長吉と類と松を除く全員が、目を点にして絶句する。


「ふぁ、ほうもわらひでふ、ふぁざふぁざ(あ、どうも私です、わざわざ)ご丁寧に。」

ご馳走を堪能し、口をパンパンして食べている小吉に、視線が集中するのであった。


                続く

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