第11話推定・日本一の凶運一家・杉原家

「・・・オトンもオカンも、取り返しのつかねー事をしちまってんなぁ・・・。

しかもしょうもねー意地を張って、いっちゃん泣きを観るのは、当の本人達じゃなくて、姉さんと義兄さんの結婚を認めてた、跡継ぎの大アニキなんだから、アニキもたまったモンじゃねーよなぁ。」

自室に寝転び、天井を眺めつつボヤく小吉。


後に半ばノッブから「要らない子」扱いで、長浜城主になった秀吉に、送られて来た形で家臣となった定利が、隠居するまでの木下定利家は、当然の如く秀吉からは疎まれて、秀吉の義弟・浅野長政の寄騎に付けられ、実質的に又者(陪臣)扱いになっていた。


なので家定は寧々を通じて、年下の義弟に当たる、長政を上司として敬って接するという、辛酸と苦渋を実父・定利のやらかしの影響で、舐める羽目になるのである。


それに加えて、本来木下家の嫡流本家は定利家になるのだが、秀吉と寧々に定利が非常に嫌われていた為、伯父の家次が嫡流として筆頭格とされ、定利家は分家扱いにされて、本来の木下家の嫡流、寧々の実兄・家定までも、家次が亡くなるまで分家扱いだった。


挙げ句に、実父のやらかしで散々泣かされた家定だが、実子にも相当に泣かされており、実子の1人が、「時代を代表する裏切り者」として有名な、木下秀俊きのしたひでとし小早川秀秋こばやかわひであきだったりと、負の連鎖はとどまる事を知らなかった。


トドメに、死後に家定の遺産相続で、実妹の寧々が口出しをした結果、関ヶ原合戦以後に、天下の差配を仕切っていた、徳川家康の怒りを買って、家定の子供達が改易(財産・家禄没収)処分を喰らうという、死んでからも身内に泣かされている。(後に改易処分は(秀秋以外)撤回され、ちゃんと旧に復した)


本人は至ってフツーであり、良くも悪くも全く目立ったモノの無い、マトモで真面目なモブ武将なのに、身内(親子・弟妹)が良い方にも悪い方にも、両極端に振り切れているせいで、相当に泣かされて振り回されていた。


小吉が当事者だったら、「今世はスッパリと人生を諦め、いさぎよくトラックにかれるか屋上から飛び降りて、来世か異世界転生にワンチャンで賭ける」レベルである。


「ま、俺は上手く逃げれたし、オトン達の不始末は、跡継ぎのアニキがする事だし、別にどうでもいいや。

どっちみちオトン達に、いっちゃん可愛がられている、アニキの説得にも応じないのなら、俺にはどうしようもねーしな。」

バッサリ秒速で、両親と兄を見捨てるゲス。


「んな事より、クッソノッブの野郎・・・好き勝手に、言いたい事言いやがって。

小五郎(明智光秀)が謀反起こしたのも、納得出来るわコンチクショー!・・・ハァ、サッサと描き上げよう。」

信長に呪詛を吐きつつ、の自室で、せっせと絵を描く。


ノッブの我が儘が原因で、ヒイコラと前世で培った、美術センスを駆使して、絵を描く羽目になった小吉であった。


浅野邸に赴いて叔父の長勝と、一応義兄になる長吉をノックアウトした後、自宅に帰りがてら前田邸に向かい、利家が居ないのを確認してから、コッソリ松に披露宴開催を話して、寧々を生駒屋敷に誘導する事を依頼。


二つ返事で快諾を得て、隠し事が苦手な利家には、披露宴当日まで内密にして貰う、密約を交わして帰宅。


そして双方の参加者数を確認して、生駒家長に人数分の食膳を頼めば、後は当日を迎えるのみだと、安気に構えていたら翌日に、未だ何も言っていないのに、何故か生駒家から呼び出しを受けたのである。


嫌~な予感がして生駒屋敷に赴くと、案の定家長の居間に案内人が向かわず、離れに向かってふすまが開くと、ノッブが鎮座して待ち構えて居た。


「・・・・・・何すか?」

形ばかりの平伏をした後、露骨に「面倒くさい厄介事を言うんだろ?どうせ」といった態度を見せる。


「・・・貴様、儂を毛嫌いしとる輩でも、もそっとマシな態度をとるぞ?」

「心にもない挨拶よりも、挨拶の方が大事かな、と思いまして。」

はよ言えと内心で促した。


「ぐぬっ!貴様!?・・・ふぅ、まぁ良い。

小猿よ、貴様は宴会場を観たか?」

「はあ、そりゃまぁ・・・。」

大人の対応でスルーして、会場の様子を尋ねるノッブに、なんじゃらホイと首を傾げる。


板敷きで板張りと板戸で仕切られた、30人程が収容出来る板間いたまを、生駒家長は提供してくれており、秀吉側と寧々側双方が、凡そ10人過ぎぐらいになる予定なので、狭くも広くも無く、ピッタリな会場である。


「儂も観たが、彩り派手さが足りぬ!

儂の肝煎りでもよおされる宴なのに、あまりにも殺風景で有ろう!?」

「う~ん・・・そうですかね?」

憤るノッブに懐疑的な小吉。


総板張りの会場は、ある程度築年数が経っていて、新築の時みたいな明るい茶色から、経年に因る暗褐色に変色しており、おもむきが有ると観るか地味に観えるかは、個人の意識・感覚の違いであろう。


「そんでどうしろと?」

「うむ、板戸を襖絵のモノに替えて明るくし、床の間には、ドデンと華燭の典に相応しい、龍と鳳凰の絵を飾るのはどうじゃ!?」 

脇息から身を乗り出して、興奮気味に小吉に問いかけた。


「おお、なる程・・・素晴らしいですね。」

「であろう!?小猿もそう思うか!」

「はい、是非ともお力添えをお願いします。」

確かに良さげなので、素直に頭を下げて、ノッブに賛同する。


「良かろう小猿よ、貸しにしといてやる。」

「へっ?貸し?協力をしてくれるのでは?」

「何を言っておるのだ貴様は?

儂の下賜品を売り飛ばした件を、赦してやった事と、今し方知恵を貸した事で、充分に協力してやっておるではないか。

これ以上は、貸しに決まっておろう?」

ニヤリと、口を歪ませて笑う魔王。


(きったね~!?知恵つうか只の面倒事を、恩着せがましく言ってるだけやんけ!

う~ん・・・けど、貸し1つで豪勢な宴にすんのは、寧々姉さんの事を考えれば、有りっちゃあ有りだけど)

悪くはない提案に、脳内で思考を巡らせる。


(只なぁ、こ~ゆうタイプに貸しを作ると、碌でもない事になりそうな・・・)

なんとなく闇金のナニワの帝王や、関東の牛クンを思い浮かべる。


「え~・・・大殿様のお気持ちはありがたいですが、自分でどうにかします。」

「うぬ?小猿、貴様がどうにかすると?」

「はい、私も人並みに絵心はありますので。」

自作しようと思い付いた小吉。


前世の記憶の影響で、しっかり技能とかも覚えていて、昔から絵を描く(アニメ調)のはそこそこ得意であり、普通に素人目しろうとめには上手いと、呼ばれるぐらいの技量は持っていた。


「いや、人並みって・・・並みの者は絵心なんぞ、持っていないんだが?」

池田恒興が小吉に突っ込んだ。


「そうなんすか?」

「普通はな。

家業でやっている者は別として、それなりの物持ち商人達とか中堅以上の武士が、趣味でやっているぐらいだな。」

珍しげに小吉を見つめる丹羽長秀。


「ま、それならそれで良い。

小猿、貴様のを楽しみにしておるぞ?ハッハッハッハ!」

「はい、どうぞお楽しみに。」

しれっと、ノッブの皮肉を受け流して、


「じゃあ早速、池田様に丹羽様、私に祝儀をくださいませ。」

スッと両者に手の平を差し出した。


「「はい?なんで!?」」

「紙代とか色々と物入りでして。」

「いやいや待て待て坊主、祝儀って普通は当事者、即ち藤吉郎に渡すモンだから、お前に渡す物ではないぞ?」

恒興が常識を小吉に諭す。


「そっすか、ほなら一肌脱いでください。」

「いやスマンが急に言われても、持ち合わせがなくてな・・・。」

「いえいえ、仕立ての良いベベを、着ていらっしゃるじゃないですか。」

「地獄の奪衣婆だつえばかお前は!?」

三途の川で亡者の身包みぐるみを剥ぎ取る、鬼婆に例える。


「それに時期を考えろ時期を!

こんな寒空で身包み剥がされたら、風邪をひいてしまうわ!」

「いえ、丹羽様は兎も角、池田様なら確実に大丈夫かな、と思いまして。」

「どういう意味だ!?てめえコラ!?」

ブチ切れる恒興。


結局、なんだかんだで銭は貰えなかった、小吉であった。


「チッ、ケチンボめ・・・まぁ、義父様おやじさまが紙問屋だから、タダで貰えるだろうし、後は筆と墨とすずりを買えば、何とかなんだろ。」

舌打ちしつつ、義父・杉原家次が営む紙問屋、「杉屋」の暖簾のれんくぐる。


「ヘイ、らっしゃい!って小吉かよ。

帰って来るんなら、店の表からじゃなくて、裏の母屋から入れよお前。」

堂の入った掛け声から一転、素に戻って小吉に注意する家次。


江戸時代になると、「武士が商人の真似事をするのは、恥である」と、士分を持つ者が商売をする事に、忌避感が強くなっていた為、

家の中で行う内職は黙認されていたが、店を構えて堂々とする事は、忌み嫌われていた。


しかし室町時代はそうでもなく、実際に茶聖と謂われた千利休の、茶道の師匠である武野紹鴎たけのじょうおうは、若狭武田家の流れを汲む名門の出身だが、堂々と皮屋(甲冑に使用される、皮を扱う武器屋)店を開いていたし、「我に七難八苦を与えたまえ」の文言で有名な、山中鹿介やまなかしかのすけ幸盛ゆきもりの子・山中新六(鴻池直文こうのいけなおふみ)も、武士から商人に転身して酒造業を営み、江戸時代には国内有数の豪商になっている。


そういった、有る意味緩い所がある時代なので、親しい親族の武士が、商人をしているのは、珍しくなかったのである。


それはさておき、


「いやあ義父様、実はさ・・・。」

絵を描く事になった経緯を話し、協力を要請すると、


「へい、まいど。」

スッと手を出して、代金を要求する家次。


「はい!?金取んの!?」

「あったり前だろうが!

こちとら、遊びでやってんじゃねーんだよ!

タダでやれる訳ねーだろうが!?」

商人としての立場で、養子に告げる義父。


「障子程の大きさになれば、普通よりも高く付くんだからなお前?

只でさえ紙は半紙でも高級品なのに、それを4枚分繋げるのだから・・・1枚で120文(1万2千円)になって、締めて6枚で720文(7万2千円)だな。」

「高っか!?もうょいマケて!?」

びっくりする程の高い値段に、思わず声を上げつつも、値切り交渉を行う守銭奴。


(嘘だろ1枚で30文(3千円)!?

クッソ高いなこの時代の紙って!?

前世だったら半紙なんか、二束三文の値段だったけど。

科学繊維の障子紙でも、ホームセンターで千円から、2千円台で売ってるのに)

前世との物価の違いに、内心で驚愕する。


「アホ言え!コレでも底値(仕入れ値)に近い値段なんだぞ!

これ以上マケたら、大赤字になって店が潰れちまうわい!」

「大丈夫!今は店を潰してでも、将来絶対に何十倍になって、返ってくるからさ!」

自信満々に家次に告げる。


「何処に大丈夫な要素が有るんだよ!?

俺達が路頭に迷ってまで、お祝い事に協力して、寧々が喜ぶのかオイ!?

・・・寧々に聴くかなぁ?」

「すんませんでした義父様!

喜んでその値段で、買わせて頂きます!

ですからどうか、どうか、姉さんだけには言わないで!?お願いしますからぁ!」

縋り付いて泣きつく小吉。


「・・・お前、しっかりと寧々に教育されてんなぁ・・・ま、紙代は流石にマケれんが、墨や筆や硯とかは、俺のを使わしてやるからよ、それで勘弁してくれや。」

鼻水を垂らして、ガチ泣きする甥に若干引きつつ、出来る精一杯の協力を申し出る。


「グジュ・・・ありがと。」

「おう、一応毎度あり。

因みにお前、どれくらい絵が描けるんだ?

ちょっと試しに描いてみろよ?」

番台から筆道具一式と、棚から半紙を1枚取り出し、小吉の前に置く。


「・・・そっち持ち?」

「己でねだっておいて、後で銭を請求する様な、悪どい事するかぁ!?

俺を何だと思ってやがる?」

「守銭奴。」

「褒め言葉をありがとうよ!?

良いからサッサと描け、このヤロウ!」

半ギレで促した。


「義父様を描くのは良いけど、上手いか下手か判るの?鏡も無いのに。」

首を傾げて尋ねる。


「うん?確かに・・・お~い、美代!嘉代!

ちょっと来てくれや~!」

店の奥に家次が声を掛けると、


「はいはい、何ですかアナタ。」

「何よも~父さん?」

似た顔立ちの母子が、連れ立って現れた。


「いや、小吉の奴が絵を描くっつうんで、お前達にも、判定して貰おうと思ってな。」

「え、小吉殿って絵の心得があるの?」

「へえ、じゃあ、私を描いてよ小吉!」

えへんと胸を張って、自分を描けと指差す、2重の意味で義姉(養子先の義姉兼、実兄・家定の妻)になる嘉代。


「ほいほい、ほんじゃサラサラっと・・・うん、こんなモンかな?」

ちょっとの時間でサラサラっと描く。


「ほう、どれどれ・・・!?うおっ!瓜二つじゃねーかコレ・・・。」

「あら、ほんにそっくりだわ嘉代に。」

両親が小吉の描いた、娘の肖像画を観て、驚嘆の声を上げる。


現代風の写実的なタッチで掛かれた絵は、この時代のちょっと浮世絵風の絵柄と違い、リアリティの有る作風であった。


「うわ~私って美人だわ~。」

中々に良い性格をしてそうな嘉代。


「ねっ、ねっ、小吉、何か他にも可愛らしい物描いてよ?」

「ちょっ!?おま!ソレ商売品ん!?」

棚からゴッソリ紙束を持って来る娘に、悲鳴じみた声を上げる。


「ん~じゃあ・・・サラサラっと、ホイ。」

「「・・・か、可愛い~♡」」

ふと思い出した、パチンコのデフォルメされた、2等身女の子キャラを描いて見せると、母子揃って嬌声を上げた。


東北の伊達男の娘とか、なんかそれっぽい感じの、キャラだった気がするが、うろ覚えで不確かであった。


「もっと描いてもっと描いて!」

「ねね、小吉殿?私にも描いて頂戴?」

別の棚から、ドッサリと紙束をもってくる。


「だからソレ商売品!商売品だからソレ!?

なにやってんの美代!?商い品に何してんのお前達は!?」

妻子の行動に、絶叫する家次。


そんな事お構いなしに、小吉の描いたキャラに、メロメロになった義母と義姉の2人は、色んなポーズや表情のキャラに、益々メロメロになり、各自10枚ずつキャラ絵を貰った後、満足そうに家屋に引っ込んだのである。


「あ、あ、あ・・・。」

為す術も無く、手を力無く前に出した状態で、妻子の暴走を見守り、弱々しく呻き声を洩らす商人あきんど


「義父様・・・。」

「こ、小吉ぃ。」

優しい瞳で、優しく肩を叩く小吉に家次は、縋り付こうとした瞬間、


「絵画代、締めて720文です。」

スッと手の平が出された。


「・・・・・・。」

「あ、筆道具一式は、絵画代に含まれていますので、悪しからず。」

しっかり筆・硯・墨を徴収する鬼。


「・・・俺、商人に向いてないかも。」

ガックリと地面に両膝を付け、orzする家次であった。


こうしてちゃっかりと、タダで道具一式と紙をむしり取り、披露宴用の絵画を描いていく小吉であった。

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