第10話悲報・実家が史実通りに、「リアルざまぁ」状態になっていた。

「う~ん・・・ノッブが加わるだけで、恐怖テイストになっとる。

やっている事は慶事なのに、言っている事は凶事ってこれ如何に?」

首を傾げつつ、浅野家へ向かう小吉。


ノッブの属性効果で、ほぼ不幸の伝言役になっている、現状を嘆くのであった。


(とりあえず家次の義父様おやじさまの方は、日程だけ言えば済むから、まぁ問題無いとして、最大の問題はやっぱり、長勝叔父ちゃんの方だよなぁ・・・。

披露宴の費用源が、下手に後でバレると確実に、面倒くさい事になりそうな気がするし)

温厚で優しいが、気の小さい所もある叔父に、脇差しの件を言うか言わまいか悩む。


(・・・費用の件を突っ込まれたら、そん時に話そう・・・)

自分から藪を突っついて、藪蛇やぶへびを出す必要性も無しと、判断する小吉。


とりあえず新婚の従姉に、何か買っていこうと、市場へ向かうのであった。


そうして寄り道をした後、長勝邸を訪れた小吉は、応対に出て来た従姉の耶々に、新婚祝いの櫛を渡すと、喜んだ耶々が「この人が、私の旦那様なの!」と、新婿にいむこの長吉を呼んで紹介してくれる。


「この度はお二方の御結婚、誠におめでとうございます。

幾久しくお幸せに。」

「・・・あ、ああ、これはこれはご丁寧なお言葉、誠に痛み入りまする。」

子供とは思えない、丁重な物言いに面食らった長吉は、動揺しつつも返答する。


そのまま長吉が、長勝叔父の許へ案内してくれる、運びとなった。


(う~ん・・・ビミョーに名前が違うけど、浅野家の関係性を考えると、どうやらこの兄ちゃんが、浅野長政あさのながまさっぽいな・・・)

16歳の新婿少年を、背中から観察する。


浅野長政は、豊臣秀吉の相婿あいむこ=互いの嫁同士が姉妹であり、義弟として実弟の秀長に次ぐ、親族衆の代表格である。


早い段階で家臣となり、豊臣政権が成立する以前から、木下・羽柴家家中かちゅうの事務処理=行政面を、一族一門総出で担った、能吏タイプの武将であった。


そして小吉が虎視眈々と狙っている、ポジションに将来的に座る、人物でもあった。


因みに、赤穂浪士討ち入りで有名な、浅野内匠頭あさのたくみのかみこと浅野長矩あさのながのりは、彼の子孫である。


それはさておき、


そうこう思考している内に、長勝の居間に辿り着き、一声掛けて入室する。


「こんちゃっす、叔父上。」

「おお、よう来たよう来た小吉。

お前もそうだが、寧々にもちょくちょく顔を見せる様に、言って於いてくれ。」

恵比寿顔を綻ばせて、甥の来訪を歓迎する。


「はい、姉上に伝えておきます。

それで早速ですが叔父上、その姉上の事でお話しがありまして・・・。」

サッと披露宴の話を、切り出していく。


当初は「はて何ぞ?」と、首を傾げていた長勝だったが、小吉の話を聴くに連れて、益々嬉しそうに顔を綻ばせた。


「そうかそうか!!

結婚式の時は、当時の藤吉郎殿の立場をはばかって、こっそり覗き見でしか観れなんだが、藤吉郎殿が足軽大将に出世した、今であったら憚る事なく、堂々と祝えるのう!」

我が事の様に喜ぶ長勝。


(叔父ちゃんかぁ~!?組長屋内を彷徨うろついてた、見知らぬ不審者って!?)

寧々の結婚直後に長屋で出回った、不審者情報の主を知ってまう小吉。


この時代の組長屋は、江戸時代の庶民の長屋と、ほぼ同じ造りや形状なので、ご近所周りは全て知人であり、結婚式=夕暮れ時に長屋を彷徨いてた、住人ではない長勝は、只の不審者以外の何者でもなかった。


「・・・え~と、叔父上。

2週間後に生駒屋敷にて、披露宴を行いますので、是非ともご参加頂けます様、宜しくお願いします。」

「おう、必ずや参加致すと、藤吉郎殿に伝えて於いてくれ!」

とりあえず不審者騒ぎをスルーし、話を進める小吉に、ドンと胸を叩いて了承した後、


「しかしながら藤吉郎殿にだけ、披露宴の費えを出さすのは、流石に虫が良すぎる。

両家の慶事なのだから、こちら浅野家側も費用を出すのが、筋と言うモノだろう。

此処は藤吉郎殿と、談判をせねばならん。」

腕を組んで自己完結する。


(うぁ~やっぱり・・・叔父上の性格なら、そうなると思ったわ)

嫌な予想の的中に、脳内で頭を抱える。


「え~すいません叔父上。

殿はこの事を知らないんです。」

「は?・・・じゃあ誰が披露宴開催の、音頭を取っているのだ小吉?」

「・・・私です、はい。」

視線を下に向けつつ、小さく手を上げた。


「へ?お前?・・・小吉よ、お飯事ままごとをするのとは、訳が違うのだぞ?」

「ええ、無論存じておりますよ。

とりあえず、殿側の方には話が着いていますので、後は叔父上側だけです。」

冗談抜きですと、長勝に言う小吉。


「待て待て待て!?

どうやって費用を工面した小吉!?

まさか、杉原の義兄上が!?」

「いえ、私が自分で工面しましたけど?」

「本当にどうやって!?」

混乱状態に陥る。


「物凄く端折はしょって言うと、大殿様から貰った脇差しを、生駒様に譲る事で費用一切を、立て替えて貰いました。」

てへっと、年頃の子供らしく無邪気を装って、誤魔化しに入る。


「大殿って、織田のお殿様だよな?」

「はい、信長公ですね。」

「貰った脇差しって・・・は?は?はハハハ!?はイ、拝領品を売ったのかお前!?」

壊れた再生機みたく、笑い声の様に「は」の字を繰り返し、掠れ気味に声を絞り出した。


「お、お、お、お前!?バレたら問答無用で即切腹か、打ち首になるぞ!?」

「いや~そうらしいですね~?

私も丹羽様や池田様に言われて、ビックリしましたよ本当に。」

胸を掴んで、顔面蒼白になっている長勝と対比して、あっけらかんとしている小吉。


「まさか生駒様が、私が渡した直後に大殿様に献上して、即時バレるとは、夢にも思いませんでしたね、ハッハッハ。」

「ヒギィィィィ!?・・・・・・ヒクッ!」

小吉の発言を聴いた瞬間、断末魔の様な悲鳴を上げて白目を向く。


「あれ?お~い叔父上?・・・返事が無い、只のしかばねの様だになってる。」

養父上ちちうえぇ!?大丈夫ですか!?しっかりしてください養父上!?

誰かぁ!!養父上がぁ!?」

白目を向いている養父を観て、慌てて介抱する娘婿。


「あ、長吉殿も是非に。」

「何を悠長な事を!?そもそも何で露見しているのに、生きているんだ君は!?」

「当然、大殿様から姉の孝心故に、赦すと言われたからですけど。」

ポリポリと後頭部を掻きつつ、大した事ないとばかりに、淡々と発言する。


「頂戴した拝領品を、売り飛ばすなんて、殿様の事をどう思っているんだ?君は一体?」

「え、そりゃ美味しい財布に金づ・・・雄々しい姿に、かねてより敬愛していますよ?」

ゲスい発言をしかけて、言動修正を図った。


「ちょっとぉ!?ものっそい不穏当な発言が、耳を掠めたんだけども!?」

「空耳ですので、気にしないでください。」

そう言って長吉の耳元に近付くと、


(今回の件は大殿様の肝煎りです。

なので、例え死にかけてても、這ってでも必ず参加してくださいね?

後、絶対他言無用で漏らさない様に。

万一露見したり、出席しないと・・・)

非常~に意味深な、ヒソヒソ話をする。


「し、しないと?」

「耶々姉さんが、新婚早々にになりますので、充分にご注意を。

場合によっては、ご実家の親兄弟の方々も、になりかねませんので。」

「ヒグッ!!」

長勝に隣り合う様にして、ショックでバタンと倒れる長吉。


「お~い・・・叔父上?長吉殿~?

当日は宜しくお願いしますよ~?」

そそくさと部屋を出て、通りすがりに会った母・おこいの妹の叔母には、「2人共が慶事に感極まって寝た」と、テキトーに誤魔化して、長勝邸を後にするのであった。


最早不幸の伝言役処か、恐怖の新聞の配達人レベルで、災厄を撒いている小吉であった。


その後、義実家である杉原家次邸に赴き、披露宴開催の知らせと、開催日程を話すと、「おう、解った」と、あっさりと了承されたが、「お前の両親は兎も角、大吉ぐらいは、ちゃんと話はしておけ」と釘を刺された。


蜂須賀正勝の苦言と、伯父の発言に因り、足取り重くも、渋々実家へと向かう小吉。


寧々姉さん共々、家を出た経緯が経緯なので、新年の挨拶にも戻らず交わさず、自然と疎遠になっていた。


(オトンやオカンとは、顔を会わせ辛いわ。

どうにか大アニキだけにっと・・・お?丁度庭で弓の稽古中やん。

近くの木に石をぶつけて、こっちに気付かせて呼び寄せんべ)

コソッと実家を観察すると、折り良く大吉が庭に居たので、足下の石をとり木に当てて自分に気づかせる為、振りかぶって投石する。


「フンッ!・・・ぁ。」

コンッ、ガスッッ!・・・木に当たった石が跳ね、大吉の頭に直撃した。


「ぐおお!?痛え!?何だ石が降って来た?・・・うん?小吉!?てめえかぁ!?」

しゃがんで悶絶した後、自分を生け垣から、ちょいちょい手招きする弟を見つけ、犯人に向かって走り出すと、


ゴスッッ!


「痛え!?何すんだよクソアニキ!」

「こっちのセリフじゃあ!?ボケ!!」

小吉を拳骨でシバく。


「・・・ったく、ワザとじゃねーのに。」

「ワザとじゃなくても、やっていい事と悪い事の分別を付けろよ、アホが。」

男兄弟ならではの、コミュニケーション兄弟ゲンカを取った後、離れた場所で文句を言い合う2人。


「・・・んで?わざわざ投石してまで、オレを呼んだ理由って何だよ?

只のイタズラだったら、もう一発いくぞ?」

「違わい!寧々姉さんの事だよ!」

披露宴開催を大吉に話す。


「そっかぁ・・・う~ん・・・寧々の為にも行きたいんだけど、親父やお袋にバレたら、確実に面倒事になるしなぁ・・・どうにか誤魔化せれば良いんだが。」

行きたくても行けないと悩む。


「やっぱオトンとオカンは無理か?」

「意固地になってて話にならん。

近隣の人達から同輩にまで、物笑いの種にされてる始末だからな。

意固地になるのも、無理もないけど。」

特大の溜め息を吐いて、現状を嘆いた。


今現在、寧々と小吉の実家・杉原定利家は、数多ある婚約破棄モノの小説の如く、事実上の「リアルざまぁ」状態になっている。


ダブルおじさんの説得に耳を貸さず、求婚の挨拶に来た秀吉に罵詈雑言を吐き、娘・寧々との結婚を猛反対した定利とおこいは、秀吉が1年も経たずに、あっという間に出世して、杉原家の家禄を追い越した事で、家と本人達のメンツが丸潰れになっていた。


当時の結婚観は、結婚する当人達の意思よりも、互いの家同士の利害得失で、決まる事が基本であり、定利達は当時の状況的に、特段誤った選択をした訳ではなかった。


しかしながら、実子の寧々を浅野家の養子に出してまで、杉原家との関わりを持たない様にした、庶民出の秀吉が出世した事と、近隣住民に知らない者は居ないレベルの、結婚騒動を起こした事で、周知度が高い話題だった為、すぐさま騒動に関する話と、その顛末があっという間に拡散。


しがない足軽組頭(係長)から一気に、定利や長勝の物頭ものがしら(課長補佐)を飛び越えて、足軽大将(課長)になった秀吉との縁を、結果的に遠ざけてしまった定利達は、「人を見る目が無い目暗」・「他家に出世の縁を呉れてやった愚者」と、周囲から嘲笑の的になってしまう。


「挙げ句によ、ウチの杉原家と同輩衆で、 断絶してた親父の実家、木下家の名跡を継いで、親父の生家元の木下家よりも、藤吉郎殿の方が家禄を上回って、躍進をしたモンだから、親父側の親類縁者からは、そらもう非難囂々ひなんごうごう雨霰あめあられだよ。」

溜め息混じりにボヤく兄。


前述の蜂須賀正勝の言葉通り、親類縁者の関わり1つで、家の浮沈が決まる事がこの時代は多く、史実でも同輩衆同家禄だった浅野家は、秀吉の縁でドンドン出世し、表舞台に上がる日の目を見たが、秀吉の縁を遠ざけた杉原家は、鳴かず飛ばずでパッとせず、全く日の目を見ない、日陰者になるといった明暗が、はっきり別れてしまっている。


実際に秀吉が、近江滋賀県長浜城主の時には、浅野・杉原(この時には木下姓に復姓していた)両家の待遇は顕著になっていた。


浅野長吉(長政)・・・秀吉にバッタリ会っても軽く会釈して、面と向かって話せる間柄。


杉原(木下)定利・・・秀吉にバッタリ会うと、圧倒的な身分格差=秀吉・家老(常務・副社長)対定利・物頭(課長補佐)と言う、ぶっちぎりの格差が有った為、慌てて場所を譲り(場所に依れば地べた)、目を合わさない様に気を付けつつ、土下座した状態で、秀吉が通り過ぎるまで待機、定利から秀吉に声を掛けるのは、非礼&無礼討ちになる間柄。


といった待遇差になっており、自分に土下座していた秀吉に対し、自分が秀吉に土下座する羽目になるという、リアルざまぁな関係性に陥るのであった。


しかも定利と秀吉の歳がなまじ近い為、定利が亡くなったのが、秀吉が亡くなる(1598年没)4~5年前であり、約20年近くリアルざまぁ関係が続くという、生き地獄を味わう事となるのである。


「史実は小説よりも奇なり」を地でいく、とんでもなくエグい話であった。


それはさておき、


「うわぁ・・・本当かよ大アニキ?」

「こんな事、冗談で言えるか?

後、今年でオレも元服して、杉原家定すぎはらいえさだに成ったから、キチンと家定殿と呼べよ小吉。」

胸を張って誇示する。


「へぇへぇ、家定殿。

言っとくけど殿は、まだまだドンドン出世していくぞ?

大殿様からも、かなり目を掛けられてるし。」

「天下人」までと、脳内で付け足す。


「おいおい・・・マジかよそれ?

はは、そうなると下手すりゃ親父は、当主を引きずり降ろされて、家次伯父上が当主に、成るかもしんねーなぁ・・・。」

頭を抱えてしゃがみこんだ。


「そんなにやベー立場なんか、オトンは?」

「杉原家の親類達から、器量を疑われてる。

やベー立場なのは、オレとお袋もだけどな。

此処まで関係が拗れたら、藤吉郎殿との復縁なんてまず不可能だから、藤吉郎殿との関係が良好な、家次伯父上を改めて当主にって、言っている親類もチラホラと、だな。」

しゃがみこんだまま、肩を落とす家定。


(新興の秀吉の幹部家臣に、オトンの失態でなり損ねてる、杉原・木下家の親類縁者が騒ぐのも、当然ちゃ当然か。

そもそも寧々姉さんが、オトンとオカンを結構憎悪しているから、絶対に両家の口利きには応じないだろうし)

さもありなんと頷く。


半年に渡る結婚騒動で、定利達は秀吉だけでなく、愛する夫をボロカスに罵った事と、実質的に家を追い出された形になる、寧々とも完全に関係が冷え切っており、事実上の義絶状態になっていて、寧々は秀吉との結婚に賛同してくれた、家次一家と家定兄姉以外の、杉原・木下家の親類とは関係を絶っていた。


「とりあえずアニキは、絶対に出た方が良いって披露宴には。」

「だなぁ・・・後々考えればなぁ・・・。」

「オトンとオカンに、バレたらマズいって言うんだったら、家次の義父様に口裏合わせて貰ったらいいだろ?」

対応策を兄に提供する。


「どうやって?」

「アニキと家次の義父様の娘、嘉代義姉かよねえとは許婚いいなずけだろうが?

義父様の家に泊まり掛けで、遊びに行くと言えばオトン達も疑わねーし、言い訳はどうとでも繕えるし、晴れ着も義父様から借りれば、問題ねーだろ?」

「おお、なる程な!」

ポンと手を打つ。


元々は杉原家の跡取りだった、家次の娘を小吉達の母・おこいは、血筋的に長男・家定の嫁にと望み、家次は妹に迷惑を掛けた負い目から、妹の要望に応えて娘の嘉代を、家定に嫁がせる約定を交わしていた。


「2週間後に、生駒屋敷で行われるから、忘れない様にしてくれよ?」

「ああ、気ぃ付けるわ。

早速、伯父上と口裏合わせをして来る。」

そそくさと、家次邸に向かう家定。


(ふぅ、コレで段取り調整が終わったな。

後はノッブ達が、大人しくしててくれたら、良いんだけどなぁ・・・ハァ)

溜め息を洩らす小吉。


漸くスタートラインに立った小吉は、基本的に制御不能な魔王の陰に怯えつつ、披露宴を進めていくのであった。


                続く










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