第9話祝意は有る、有るには有る。

「使えねーにも程があんだろ?・・・ノッブタイタニック。」

げんなりと呟く小吉。


寧々姉さんと夫・藤吉郎の、互いの親族を集めて顔合わせをしつつ、改めて寧々姉さんの晴れ姿を披露する、親睦会を兼ねた披露宴を企画した小吉だったが、速攻でノッブこと織田信長に、企画を察知されて、計画を乗っ取られたのであった。


知られた時点で、有る意味約束された展開であり、諦めて生来の殿様気質で、仕切屋のノッブの指揮下に入った小吉。


(まぁ、この手の話には、立場上手慣れてるノッブなら、無知・無経験の俺よか、よっぽど上手くやんだろ)

そう安気あんきに考えて、そのまま丸投げをする気満々であった。


しかしながら、某沈没豪華客船が脳裏に浮かんだ、当初の予測通り、即座に暗礁に乗り上げたと言うか、デカい壁にぶつかって座礁する事となり、小吉は頭を抱えるのであった。


前世での冠婚葬祭に於ける、素人知識ぐらいしか無い小吉以上に、ノッブ達は無知のド素人だったからである。


なにせ、


「大殿様、宴の日取りはどうします?」

「?好きな時に呼べば良かろう?」

「いや、流石にそれは・・・先ず殿の予定と双方の親族の、日程調整をしないと。」

素人でも解る、当たり前の事を言っても、


「そんな回りくどい事を、何故にする必要があるのだ小猿?

儂直々の声掛けであれば、押っ取り刀で即座に集まるであろうが?」

何おかしな事を言っておるのだ貴様?と、キョトンとした表情で、首を傾げるといった様に、万事がこの調子である。


オマケに丹羽長秀や池田恒興も、ノッブと同類であり、全く役に立たなかった。


(は、話になんねー・・・ダメだわこりゃ。

よくよく考えて観れば、生まれた時から家来にかしずかれて、一声掛けりゃ周りが自動的に、お膳立てして呉れる様な、殿様生活を送ってるノッブが、内容なんぞ知る由もねーわな)

往年の某レジェンドレスラーの如く、非常識が常識の住人な事を悟る。


挙げ句に、丹羽長秀からのヒソヒソ話で、かなりの祭り好きなクセに、実は全くお酒が飲めない、という事実が判明。


宴とかのお酒の入る席には、不向きな適性の持ち主と言う、オマケ付きであった。


なので年始の祝賀会や、戦の戦勝会といった、最低限の宴は開催するが、個人的な飲み会は、全くしないノッブだった。


因みにだが、お酒が飲めない武士は、飲みニケーションが普通のこの時代には、「恥」・「カッコ悪い」という認識が強く、無理して飲んでいた模様。


一応、飲めない武士が、酒を飲むのを回避する方法が、作法的にあるにはあるのだが、その方法は、お酒を注いで回る酌女しゃくめさんに、「上目遣いに飲めませんと、目線で訴えて哀願する」というモノである。


現代風に謂えば、髭面で傷まみれの厳つい風貌のオッサンが、ホステスにチワワの様につぶらな瞳で、「止めて?」と哀願するのが、戦国期の礼儀作法なのであった。


それはさておき、


初っ端から座礁した、ノッブタイタニックに見切りを付けた小吉は、ノッブに「特別」「極秘」だのと、言葉巧みに興味を惹かせ、

サプライズで突如宴会場に乱入し、ドッキリを仕掛ける事を提案。


わりかしイタズラ好きなノッブは、「面白い!」と了承、「主役は最後に登場するモノです!」と、さり気なくヨイショして、実質的に披露宴からの段取りに、させる事に成功した。


そして藤吉郎をノッブが、オーナー権限で2週間後の、3月頭にノッブの都合で強制召還する事に決定し、披露宴に向けて行動を開始したのであった・・・小吉1人で。


(結局、実働すんの俺だけやん!?

要らんお荷物を、抱えただけじゃねーか!)

目的地に向かう道すがら、特大お荷物3羽烏を、思い浮かべて愚痴る。


そうこうする内に、藤吉郎が出世する前に住んでいた、組長屋に到着すると、躊躇いも無くズンズン入り、


「小一郎さ~ん!居ますか~!?」

現家主に声を掛ける。


「ほいほい、居るよって・・・小吉君かい。

何か、兄者か義姉さんからの言付けかな?」

部屋から藤吉郎秀吉と良く似た声の持ち主、秀吉の実弟・小一郎秀長が現れた。


秀吉が足軽大将に出世した際、組頭とはガラリと立場が変わり、組頭までは主君・信長の直属部隊の、1部隊を預かる隊長の身だったのだが、大将からは軍役(兵士供出)が課せられる身となり、自身が部隊を編成して指揮を執る、小なりと言えど1軍の将となった。


そうした事で秀吉は、自身の家臣団形成が急務となり、家臣団の核となる人物は、基本的に兄弟親族が成る為、その核=補佐役に据えられたのが、実弟・小一郎秀長である。


と言っても幾ら後世で、「天下一の大番頭」と呼ばれた名補佐役でも、つい最近まで農民だった小一郎が、いきなり補佐役が務まる訳もなく、信長から寄騎出向として派遣された、現役の領主でもある蜂須賀正勝が、実質的な補佐役であり、小一郎は未だ見習いであった。


同時に部隊の指揮に関しても、秀吉は現在の所、美濃国人衆への調略工作がメインであり又、秀吉・秀長兄弟は軍事のド素人であるので、立場上領民兵を率いている、指揮経験の豊富な正勝が、木下隊の指揮を執っており、実質的に木下隊というよりも、蜂須賀隊といった体であった。


正直いって秀吉は、蜂須賀さんにおんぶにだっこ状態である。


因みに小吉は両者共に、面通しを済ませて面識があり、小吉視点で小一郎は、「某配管工ブラザーズの類似」、正勝は「絵に描いた様な山賊の親分」、という感じであった。


そしてそんな見習い生の小一郎はなんと、初期からいきなり足軽組頭待遇であり、きちんと給金を貰っているのである!!


(理不尽じゃね!?納得いかねーよぅ・・・)

最古参家臣の自分は、未だに無給(兼居候)であるのに!(涙)


「ど、どうしたんだい小吉君!?

急に泣き始めてからに!?」

「あ、いえ、すいません・・・世の中の不条理に、涙が自然と・・・。」

「お、おおう?・・・とても子供の言う、台詞じゃない気がするけど・・・。」

何とも言えない表情を見せる類似さん。


「とりあえず私の方は、脇に置いといて。

実は・・・然々しかじかなんですけど、小一郎さんにはご実家の方に、渡り連絡を付けて欲しいんですよ。」

披露宴についての話を切り出し、小一郎に協力を求める。


「成る程・・・ウチの兄者が申し訳ない!」

ガバッと、いきなり土下座をする類似さん。


「ちょっ!?どうしたんスかいきなり!?」

「ウチの兄者が義姉さんに、そんな惨めな思いをさせていたなんて・・・。

そりゃあ小吉君が、「不条理だ」って泣くのも、当然の話だよ・・・ごめんね小吉君!」

再び頭を下げて謝罪する。


どうやら小吉の、醜い嫉妬心の発露を、好意的に勘違いした模様。


「いや、気にしないでください小一郎さん!

小一郎さんが謝る事じゃないですし、そもそも、今まで知らなかった話なんですから!」

そこはかとない罪悪感を感じつつ、小一郎の体を起こす小吉。


「とりあえず小一郎さんが、ご実家に披露宴に出席して貰える様に、話を付けてくれたら、それで充分ですから!」

「そりゃもう是が非でも、披露宴にはお袋達を連れていくし、何でも協力するか、いや、どうか協力をさせて欲しい!」

熱い眼差しで語る小一郎。


温厚で真面目な律儀者という、前田利家に近い性格な為か、まるで我が事の様に対応する小一郎であった。


そうして小一郎から、全面協力を得た直後、


「お~い、小一郎どん居るかぁ~?」

野太い声で、ぬっと髭面の偉丈夫が小一郎の名を呼びつつ、家に入って来た。


「あっ、正勝様・・・じゃない正勝どん。」

慣れない口振りで、正勝に対応する小一郎。


「おっ、居たか小一郎どん・・・と、ありゃ?小坊主じゃねーか。

殿(藤吉郎)か、寧々ちゃんのお使いか?」

珍しい所で会ったとばかりに、正勝はジロジロと小吉を見つめる。


(お、丁度都合良く、オッサンが来たな。

ついでに話をしておくか・・・)

勿怪もっけの幸いとばかりに、正勝にも披露宴の話をしていく。


小吉の話を聴いた正勝は、


「偉い!小坊主!オメエさんは立派だ!

姉ちゃんの為に、自分の脇差しを売ってまで、どうにかしてやろうなんて偉いぞ!」

バシバシと、感動の面持ちで小吉の背中を、景気よく叩いた。


「ゴフッ!ゴホッ、それで正勝さんも、姉さんの披露宴に、出席して貰えますか?」

「ああ、勿論参加させて貰うぜ?

殿の調略工作のお陰で、オレの領地よりも北、美濃側に勢力係争地が移ったから、ウチの領地も安全性が確保されてるしな。」

ニッと強面こわもてに笑みを浮かべ、小吉の要請を快諾する正勝。


「ありがとうございます!」

「良いって事よ。

さて、そんならどっち側に出席するべきか、悩ましいなこりゃあ。」

「へ?どっちって、どういう事です?」

腕を組んで悩む正勝に、疑問を投げかける。


「どういう事もクソも、ウチの蜂須賀家と寧々ちゃんの養家・浅野家は、歴としただぞ?知らなかったのかよオメエさん?」

「ええ!?初耳っスけど!?」

衝撃の事実に驚いた小吉。


「先月にオメエさんの叔父、浅野長勝殿の娘さんと、長勝殿の姉の子で甥の安井長吉やすいながよしつう奴が、従兄妹同士で結婚して、婿養子になったのは知ってるか?」

「ええ当然。

長勝叔父の娘・耶々やや姉ちゃんは、私と寧々姉さんの従姉妹ですし、殿と姉さんが直接結婚式に出席してるので、話は姉さんから聞いてますけど?」

モチロンと頷く。


「そんでだ、浅野家に婿養子に入った長吉の父親と、オレの母親は姉弟でな。

つまりはオレと浅野長吉は従兄弟になるし、浅野家は安井家を挟んだ親戚に成る上に、藤吉郎の殿や寧々ちゃん、お前さんとも縁戚えんせき即ち、婚姻に因る繋がりが有る訳だ。」

「マジっすかそれ・・・。」

蜂須賀さんと秀吉が、縁戚関係にあった事にびっくり仰天する。


「あの~じゃあ、殿に蜂須賀殿が肩入れしているのも、もしかして縁戚だからですか?」

「ま、それも無くもねーがよ。

1番はオレ自身が、殿の器量に惚れ込んでいるから、進んで織田の殿様に頼み込み、寄騎っつう形で、臣下筋になってるんだがな。」

そう言って肩を竦め、


「同時にオレの立場は、曲がりなりにも国人領主の端くれで、一家一門の当主だ。

家の生き残りを考えて、親戚筋が居るのは悪いこっちゃねーから、小坊主の言う通り、打算も当然あるぜ?」

ガッハッハと豪快に笑う。


「オメエさんも、婚姻関係や親戚筋はちゃんと把握して、大事に付き合えよ?

そういった縁ってモンで、家の浮き沈みに直結する事だって、まま有る話だからな。」

長年に渡って、織田・斎藤両家の係争地に領地を持つ、国人領主ならではの、含蓄のある言葉を小吉に話した。


「とまぁ、そう言う訳で、公的に観れば木下家側に出席するのが、当然の筋では有るんだが、私的で云えば、血縁関係のある浅野家側に、出席するのが筋なんだよな。」

再び腕を組んで、悩み出した直後、


「うん?ありゃ?そう言やあ小坊主が企画した披露宴って、殿の動向がはっきりしねーと、そもそもの段取りの組み様が、ねーんじゃねーのかこれ?」

ハタと、重大な問題点に気付いた。


「あ!?そう言われればそうだ!

小吉君、一体どうするんだい?」

「あ~え~・・・その疑問に関しては、、問題ありません。

2週間後に、殿が泣こうが喚こうが、披露宴は開催される運びになってますので、ご安心を。」

げんなりとした表情で、2人に話した。


「いやあの、安心の出来る要素が、全くないのだけど小吉君?天って何?」

「天(魔王)です。」

「だから何だよ天って?神様のお告げか?」

「当たらずも遠からずです。」

曖昧模糊あいまいもこに話す。


「そんな曖昧で、いい加減な事をいわれてもなぁ・・・信憑性がちょっと。」

「大丈夫です!もし殿が天(魔王)のお告げ命令を無視した場合、間違いナシに首が飛びますから!安心してください!」

拳を胸元で握り締め、力強く言い切る。


「何処が大丈夫なんだよ小坊主!?

大問題も良い所じゃねーかそれ!?

殿が死んだら元も子もねーだろうがオイ!」

正勝が小吉に突っ込んだ。


「そー言われても・・・私にはどーにもこーにもならないので。

諦めて協力してください。」

「諦めろって・・・間違ってもお祝い事に、出てくる単語じゃ無いよね?」

何言ってんの?といった、戸惑った表情を浮かべる類似さん。


「あ、そうそう小一郎さん。

ちゃんとご家族を、呼んで来てくださいね?

下手に洩れが有ると、殿の首だけでなく、小一郎さんの首も、飛びかねませんので。」

「私にまで飛び火すんの!?」

「オメエさんの云う天って、悪神とか厄神か何かかよ!?」

血生臭い単語の羅列に、両者がおののく。


「性質的に、限り無く近いかと。」

何せ第六天魔王だしなぁと、心中でボヤく。


「あのさ小吉君、本当に祝う気が有るの?

端から聴くと何者かが、披露宴にかこつけて、兄者の首を取ろうと企んでいるとしか、思えないのだけど?」

「有るからこそ、披露宴を計画しているんですよ!こちとらも!?

祝意は有る、有るには有るんですが・・・同時にクソ厄介な事もちょっと・・・。」

モゴモゴと、言葉を濁す。


「その厄介事ってなんだい?」

「・・・小一郎さん。」

心配そうに尋ねる小一郎に、小吉は優しい目をしつつ、ポンと肩に手を置き、


「世の中、知らない方が幸せな事って、結構有るんですよ?」

フッと優しく微笑んだ。


「とても子供とは思えない、哀愁感漂う雰囲気を醸し出してる・・・。」

「オメエその歳で、どんな苦労を背負いこんでんだよ?」

余りにも哀愁感と悲壮感漂う、小吉の笑顔を観て、同情の念が何故か不思議と、湧いてくる2人であった。


こうして木下家側の、段取りを済ませた小吉は、今度は浅野家側の段取りに、トボトボ向かうのであった。


                 続く








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