第3話ノッブ(織田信長)登場!

(うっひっひっ・・・数分の笛の演奏や※教授だけで、1日※4百文!

大人の1日の労働賃金が、大体約百文らしいから、4倍も稼いでいる訳だ。

儲け儲け!笑いが止まんねーわ!)

ニタリと笑う小吉。


(※この時代はマトモに楽譜などは無いので、音楽の教授は直伝=実演指導であり、指の動きや音調を耳で曲を覚えていく、実技習得スタイルであった。)


(※室町時代の1文=約百円で換算、つまり百文=1万円であり、小吉は日当4万円を貰っている事になる。(換算方式は諸説あり))


小吉の姉・寧々と結婚後、裏方から表方の軍務に転身し、足軽組頭になった藤吉郎の給金は、年間約30貫(1貫=1千文=10万円)=3百万円なので、足繁あししげく通えば余裕で藤吉郎の年収を越す、収入源を得た小吉である。


と言っても半分は寧々に上納し、残った2百文の半分は、将来の投資に使っているので、実質百文しか手元に残らなかった。


又、高給のバイトでは有るが、当主としての務めのある生駒家長も、毎日笛の教授を受ける暇は無いので、週に2~3日がいい所であり、平均すると普通に働いている使用人達と、そんなに変わらなかったりする。


まぁ、そうは言っても子供が貰える金額では、間違いなく破格ではあったが。


因みに藤吉郎の給料は、月で約25万といった所なので贅沢しなければ、普通に生活出来る水準だが、武士の見栄とか面子めんつというヤツで、荷物持ちの使用人を雇っている分、使用人の給金が掛かるので、決して余裕が有る訳ではなかった。


ついでに小吉は小姓側仕え扱いであり、お給金の値段はなんと驚きの、破格の身内価格でフリーサービスタダ働きであった!(泣)


笑顔だけはプライスレスな某ファーストフード店や、帽子を被ったペンギンがトレードマークの、某殿堂販売店も真っ青の、驚異的な価格である。


それはさておき、


お金を貰える労働の喜びに、ルンルン気分で通い慣れた生駒屋敷に向かい、顔パスで門を潜ると、堂々と正面玄関から挨拶しつつお邪魔し、家長の居室に向かっていると、


「ようこそ小吉君。

済まないが旦那様は、急な用事で多忙になってしまってね。

代わりに例の如く、お方様のとぎ(話し相手)をして貰いたいのだが。」

「あ、はい、じゃあ・・・。」

使用人頭の治三郎に言われ、ペコリと会釈をしてきびすを返し、母屋から渡り廊下を経由して、離れに移動する。


「失礼しま~すお方様、今日もお邪魔しますね、御加減は如何いかがですか~?」

「あら、いらっしゃい小吉君。

いつも見舞いに来てくれて、ありがとう。」

小吉の訪問に、ふんわりとした笑顔で迎える、家長の妹で信長の側室・生駒の方。


実質的に正室扱いの生駒の方は、2年前に末子の娘・五徳を産んでから、体調を崩しがちとなった為、城を出て自宅療養をしており、ひょんな事で訪れる様になった、小さな訪問者を歓迎していた。


この小さな訪問者は、療養といっても寝起きするだけで娯楽が無く、茫洋ぼうようと退屈な日々を送っていた所に、聴いた事のない不思議な笛の音色と、観た事もない他国や異国のホラ話(生駒の方視点)で、娯楽を提供してくれる人物であり、生駒の方にとってはありがたい人物でもあった。


小吉も小吉で、聞き上手な生駒の方のお陰で、ペラペラと気持ち良く喋る事が出来、良い暇つぶしになっていたのである。


数度に渡る訪問で、最早常態化した生駒の方のリクエストに応え、笛で演奏していると、


「申し上げますお方様!

織田の大殿様より先触れがございまして、お方様の許をお渡り訪問になられるとの事!

お心構えをなさいます様に。」

ドタドタと治三郎が走って来ると、片膝を突いて生駒の方に伝える。


「あらあら、お殿様がお越しになるのね。

承知しました、ご苦労さま。」

相変わらずおっとりとした口調で、注進に来た治三郎をねぎらう。


そしてすぐさま側仕えの老女ベテラン使用人に、隣の部屋から化粧箱を持って来させ、いそいそとお化粧タイム戦闘準備に入った。


同時に俄かに部屋に畳や座布団、脇息きょうそく(肘掛け)が持ち込まれ、来訪者の受け入れ準備が、ドンドン整えられていく。


(え?織田の大殿様って・・・織田信長が此処にくんのか!?)

思っても見ない歴史上の偉人の来訪に、驚きを隠せない小吉だったが、


(う~ん・・・面ぐらいは拝みたい気持ちは有るけど、知己を得る必要性も感じないし、生駒姉さんとの逢瀬を、邪魔すんのも野暮だろうから、銭貰って退散すっか)

多少後ろ髪を引かれる気分で有ったが、冷徹に退散する事を選択する。


実家が信長の家臣と知った頃の小吉は、「どうにか知己を得て、信長の躍進に便乗して出世して大名に!」と目の色を変えて、信長に近付けないかと躍起になっていた。


しかし実姉・寧々姉さんの結婚騒動の折に、豊臣秀吉の初期=木下藤吉郎という人物を知ってからは、「ノッブ?別にどうでもいいや(鼻ホジ)」ぐらいに、小吉の中では世界恐慌を起こしたブラックマンデーの如く、織田信長の株価は大暴落をしていた。


一昔前のギャルゲー風に云えば、「織田信長ルート」から「豊臣秀吉ルート」に、ガチョンと路線変更したのである。


(まぁ、どう頑張っても信長ルートだと、森可成もりよしなりの森一家や、丹羽長秀にわながひで池田恒興いけだつねおきといった古参や準一門の人物達には、の観点で絶対に及ばないしな~)

信長陣営だと、家臣団の上位陣に食い込む事が、非常に難しいと脳内思考する小吉。


戦国期の歴史の空想小説だと、わりかし「逆行転生or過去にタイムスリップした主人公が、現代チートで革新的な事柄に理解の有る、織田信長の重臣として大活躍!ウハウハの大名生活に!」という、知識チート出世パターンが多く散見されるが、小吉としては難しいのでは?と、言わざるを得なかった。


織田信長という人物は、確かに実力主義者であり、有能な人物をどしどし重用していたのは間違いないが、同時に年功も重視しており、最古参の森可成を始め、丹羽長秀等の古株の武将の領地を、自分の身近な重要拠点に配置するなど、かなり身贔屓みびいきも強かった。


因みに信長の初期家臣団は、実は森可成や丹羽長秀達ではなく、信長のすぐ上の庶次兄(庶長兄・信広の弟)を中心とした家臣団であったが、信長のほぼ負けパターンである、無茶な力攻めの影響でことごとく戦死、壊滅状態になり崩壊している。


なので森可成(美濃岐阜県出身)が最古参になっている、現2期目の家臣団創立時に、上手くタイムスリップするか、初っ端から信長に会える立場である、家臣に転生するかの2択が現実的である。


(その点秀吉ルートは、皆が初期家臣団の状態だし、初期→中期→後期と、出世する機会が有るから、結構チャンスもあるし俺の場合は、実弟の秀長よりは無理でも、浅野のオイチャン家並みは、頑張ればイケそうだし)

身内ボーナスを、利用する気満々のゲス。


それとこの時代は文字通り、「(武)力こそ正義!」の世紀末仕様なので、知識や技術の頭脳労働に依る、能吏タイプや技術者タイプは、個人的武勇や指揮能力に優れた、豪傑タイプや将帥タイプに比べて、圧倒的に不遇な時代であった。


能吏タイプは基本的に、大名直属の家臣として大名公認の許、権限はわりかし有るがその分、家禄給料が少ない上に責務仕事量が多く、出世がし難いという結構なブラック環境であった。


そして技術者タイプは、戦国期から藩幕体制の江戸期に於いて、革新的な技術というのは「自家に福音をもたらす、金の卵」であり、極秘裏に大名が寡占化して自家・自領の利益に活用し、他家や他領に技術が渡るのを恐れる為、厳重な管理下・監視下に置かれるのが、極々当たり前だったりする。


現代風に例えれば、能吏タイプはオール手作業で、安月給且つ過剰な仕事量をほぼワンオペで処理し、「休日」という概念が無くて365日無休で過ごし、失敗を犯せばクビが飛ぶ(物理)生活を、送る事になるのである。


そして技術者タイプは、衣食住こそ保障されるものの、常に「革新的技術=金の卵」を、産む様に強制され、開発した技術はジャ○アンの如く大名のモノとなり、四六時中いつも行動を監視されて、プライバシーもヘったくれもなく、革新的技術を産まなくなれば、バッサリとクビをきられる(物理)という、何処ぞのお寒い赤い北方国の、研究者並みの待遇生活になるのであった。


・・・こんなブラックを通り越して、ダークネス環境の労働条件プラス、治安は世紀末レベルの時代に、ブラック環境で疲れ果ててる方が多い、知識チート持ち主人公さん等は、何でわざわざ来たがるのか、実体験を経た小吉からしたら、甚だ疑問に思うのであった。


小吉曰わく、「過酷な環境で生活していた人が、某ゾンビゲーの裸群シティーに、いきなり移って生活する様なモンだろ?より過酷な生活環境で、好き好んで過ごしたい人の気持ちが、全く理解出来ねーわ」とのこと。


それはさておき、


「じゃあお方様、これで失礼しますね。」

ぺこりと頭を下げ、辞去しようとすると、


「あ、待って待って、小吉君。

是非小吉君を、殿様に引き合わせたいの。」

化粧を止めて、引き留めにかかる生駒の方。


「いや~お方様、私は又者またもの(陪臣)ですから、大殿様にお会いするのは、幾ら何でも畏れ多いですので。」

後ろ手を頭に置いて、逃げを打つ。


「大丈夫よ小吉君。

殿様は気さくな方だし、そんな事を気にする方でもないわ。

そもそも藤吉郎殿が、殿様に仕官したのも、私が引き合わせた結果ですもの。」

恐縮する小吉に対し、朗らか笑みで手を上下して、さり気なく爆弾発言をする。


「え”?」

「小吉君みたいな賢い子は、藤吉郎殿みたいに、殿様に仕官出来た方が、絶対将来の為になると思うの!」

フンすっと両拳を握り上げ、「私に任せなさい」アピールをする、生駒の方。


(い、要らね~・・・要らねーお節介だよ!)

強制的に信長ルートに、突入させようとする生駒の方に、声無き抗議を上げる小吉。


「いえいえ」と小吉が遠慮すると、「まぁまぁ」と生駒の方が引き留めるという、押し問答を繰り返していると、


・・・ダン!ダン!ダン!ダン!


廊下の床を踏み抜かんとばかりの、大きい音が近づいて来た。


「あ、殿様が見えられたわ。

小吉君、ちゃんと紹介するからね?」

「うぇ!?出るに出れない~!?」

済し崩し的に、強制イベントが発生となる。


ダン!ダン!・・・ガラッ!!


生駒の方がふすまが開いた瞬間に、平伏したのに併せて、小吉も平伏する。


チラッと目線を上に向けてみると、この時代の男性では上背があり、端正な整った顔立ちに、薄く品よく髭を生やした、鋭い鷹の目を持った人物=織田信長の、横顔が見えた。


(フォ~!!生信長や、生信長!!)

歴史的偉人の生の顔を見れて、秀吉と違って興奮気味になる小吉。


そんな小吉の興奮をよそに、急いで設置された座席に、ドカリと信長は座ると、


「面を上げよ類・・・と誰だ貴様は?」

訝しげな声に、片目を釣り上げて問いかける信長。


コレが信長と小吉の、ファーストコンタクトであった。


                続く

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