第3話 魔物
「アポート。『ゴブリン』エンター」
とりあえず、一番上にあるゴブリンの召喚を実行する。
50DPを消費して魔法陣から召喚されたゴブリンは、手に持つ棍棒を掲げて雄叫びをあげた。
「ギィガァ!」
「…お前がゴブリンか、よろしく」
「ガァ!」
意思疎通は可能なようで、一応の挨拶として差し出した手を棍棒を握っていない手で迎えてくれた。
鬼のような風貌とはいえ、表裏のない対応に絆されなんとなく頭を撫でてやると、ゴブリンは棍棒を振り回しながら小躍りを始めた。
なんだ、魔物とはいえ可愛いじゃないか。
「お前は何ができるんだ?」
「ガ!」
そう問い掛けると、ゴブリンは棍棒を見せつけてから棍棒を振り回し始めた。凡そ七回程攻撃のような動きをした後に、手に握りしめていた棍棒を思い切り振りかぶり遠くへと投げ飛ばした。
木製とはいえ多少なりとも重量のあるそれはダンジョンの床へと重い音を立てながら叩きつけられ、それをゴブリンは走って取りに行った。
そして俺の側へと戻ってきたかと思えば、その場でふんぞりかえる。多分、今ので全部見せたのだと思う。
「…それだけか?」
「ガ、ガァ…」
あぁすまん、落胆したわけではないんだ。
弁明の意味を込めて頭を撫でてやると、しょんぼりとした顔から瞬時に一転し、笑顔でまた小躍りをし始めた。俺はほっこりした。
しかしまぁ、50DPだとこれくらいが妥当か? DPはすぐに溜まるものとすれば、数を増やして能力を強化すれば数の暴力で俺が出張らずとも冒険者を倒せるかもしれない。
しかしウィンドウを見ると、ゴブリンの追加召喚では変わらずの50DPだが、ゴブリンの能力を強化するには100DPが必要らしい。一度の強化で全体の能力が10%上昇する形だな。
俺は悩む。現状、DPを貯め続けていけばダンジョンの強化は容易い。しかし強化につれて必要なDPは増えていくし、DPが足りず戦力の強化ができない場合の時に強い冒険者が来ないとも限らない。
一番信用できるDPの使い方は、稼いだDPを全て俺自身の強化に使う事。強化された身体を才能で十全に使えば、強化されたダンジョンよりも効率的に冒険者を処理できる。
前者のデメリットは、俺の強化が遅れる事。後者のデメリットは、本来の目的であるダンジョンの強化が疎かになる上に、最初から万全な状態の冒険者と戦うことになる事。
しかし、後者を選んでしまうと既に召喚されてしまったゴブリンは戦いに使えない。しかも本人は戦いに乗り気な様子で、今もなお小躍りしながら棍棒を振り回し続けている。
ダンジョンマスターである俺が言いつければ戦闘への介入は我慢できるだろうが、俺とてペット愛のある身。いつまでも我慢させるわけにはいかないという気持ちが既に芽生えている。
…仕方がない、か。
とりあえず、調子に乗って真上に投げた棍棒を受け取り損ねてたんこぶを作ったゴブリンを呼び戻すとしよう。
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結論から言おう。
俺の強化は後に回し、魔物の召喚と強化を最優先に行う事にした。
というのもこのゴブリン、単独でE級ソロ冒険者二人を倒したのだ。
一人目の剣士はシンプルに剣と棍棒で打ち合って勝利し、二人目の短刀使いにはちょこまかと逃げ回られながらもなんとか投擲した棍棒が上手く当たりどころの良い場所に当たって一撃で殺した。
普通に実力で仕留めながらも勝負運も見せつけたゴブリンは勝利の雄叫びをあげ、大変喜んでいた。
対して俺も働かずに獲得できた20DPに内心喜び、褒めて褒めてと言わんばかりに近寄ってきたゴブリンの頭を撫で回すくらいには魔物の存在のありがたみを知った。
小躍りを通り過ぎて最早ブレイクダンスを始めたゴブリンを尻目に、俺はウィンドウを開いて悩む。
ゴブリンの有用さは知れた。ならば次の70DPはスケルトンかスライムを召喚するorトラップを設置する事に使うか?
正直、ゴブリンの有用さを知る身としては残りの魔物二種の能力も知りたい。一番気になるのはスライムで、俺の知るスライムはヘラヘラとしたムカつく顔のやつなのだが、この世界のスライムはどんなものなのか知らない。
ドロドロとしているのか、それともプルプルとしているのか、一番興味をそそられる。しかしスケルトンも気になる。本当に骨だけなのか、骨だけだとしてどういう風に動くのかを見てみたい。
折角設置できるのだからトラップも試してみたい。しかし仮にトラップが使い捨てな場合、現状低級の冒険者しか来ない時に設置すると、完全に捨て金になりかねない。DPに余裕がある時に試したい。
もう少し、冒険者の来る頻度が多ければこんな悩みも減るんだがな。こればっかりは嘆いても仕方がない。
とりあえず、ゴブリンを一匹増やすとしよう。
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