第2話 冒険者
魔法陣に光が灯ると、冒険者が来る合図だ。
俺のいる場所の真反対に位置する魔法陣は淡い光を放っている。
「来たか」
地面に座して待っていた俺は土を払いながら立ち上がる。
勝てるか勝てないかの不安と共に湧き上がる、仄かな戦いへの興味と興奮。
らしくなくワクワクしている俺は、魔法陣をじっと見つめたままその場で立ち尽くす。
そして魔法陣から、一人の冒険者が現れた。
『E級冒険者がソロで現れました』
E級。つまり最下級ランクの冒険者か。
ぱっと見の外見は普通。獲物は片手直剣と小盾。腰にはポーチがあるのを見るに、最低限の回復アイテムは持参していると見て良さそうだ。
相手は少し猶予を空けて周囲を見渡し、そして最後に俺を発見する。
「ほーん、出来立てのダンジョンにガキか。ま、十中八九マスターだろ」
途端に嘲るような表情。相手は俺を確実に下に見ているらしい。
「んじゃあなガキ。恨むなら自分の運を恨んでくれや」
なんの警戒もせずに片手直剣を構えもせずに歩いてくる冒険者。
対して俺は何もせず、じっと冒険者の目を見る。
そんな俺の様子に何も思わない冒険者は、無造作に剣を振り上げ___。
「あばよ___ごぺぇ!?」
腰を切って勢いの乗った上段回し蹴りをもろに顎に受けて吹っ飛んでいった。
枷の重みと感覚での最高率の身体操作によって出来た蹴りだ、感触からして確実に顎は砕いたはず。
顎を抑えて身悶える冒険者に近づく。
「あごっ、はごっ、おぉ!」
痛みで震える手でポーチの中から瓶に入れられている液体、ポーションを取り出す。
それを顎に、そして口に含もうとするが、痛みで喉の動きが正常に働かないようで、ポーションの大半を地面のシミにしてしまっている。
その間に、俺は冒険者の近くに立った。
「ッ! ひぇあえ…!」
それでも多少の痛みが引いたのか、砕けたままの顎をそのままに手の近くにあった剣を取って俺に振るう。
しかしそんな勢いの乗っていない剣など避ける必要すらなく、俺の脚を狙った剣は俺の踏み付けによって刀身を散らした。
呆然となる冒険者に構わず、俺はトドメの蹴りを冒険者の首目掛けて放つ。
ゴリュッ!
確実に折れた首の骨。脚から伝わる感触に、特に思う事は無く、絶命した冒険者の身体がダンジョンに吸われていく様を見ながら俺は待った。
『E級冒険者を倒しました。10DPを獲得しました』
冒険者の身体が吸われて数秒後。勝手に現れたウィンドウが勝利を告げて、冒険者との戦闘は終了した。
獲得DPは10。まぁ、E級だとこんなものか。
ほぼ平均的なE級冒険者と同様の身体能力である俺がただの力尽くで勝てたんだ、恩恵も少ないに決まってる。
しかし、記憶の限りでは初めて行う激しい動きだったが、割と体勢を崩す事なく顎を蹴り砕いたり首を蹴り折ったり出来た。
あの空間で割り振った身体面の才能が上手く刺さったようだ。
________________
時間にして約三時間の間、俺は五人の冒険者と戦った。
五人の内二人はソロ、そして後は三人組のパーティを組んでいる冒険者だった。
D級パーティと称された彼らは、前衛に盾持ちの剣士、後衛に弓使いと魔法使いで構成されたメンバーで俺と戦った。
大方前衛の剣士が敵の体力を削りながら後衛の弓使いと共に時間を稼ぎ、魔法使いの魔法が完成するまで持ち堪えて長期必殺の作戦で今までやってきたのだろう。
しかし、アイツらは一人でも欠ければ脆いものだった。
最初に殺したのは弓使いだ。
剣士を盾のガードの上から吹き飛ばした後、体勢の崩した戦士を無視して後衛に接近。弓使いの放った二発の矢を避けて弾き、接近戦が可能な距離になった瞬間眼球に抜き手を放ち片目を奪った。
痛みで武器を落とし悶える弓使いを頭部への踏み付けで頭蓋を破りトドメを差し、痙攣するだけの肉塊と化した死体を魔法使いに投げ詠唱を妨害。
その間に復帰した雄叫びをあげる剣士の攻撃を避け続け、仲間を殺された怒りと動揺で捌き易くなった剣を手首の枷で弾き、無防備になった所を心臓に一撃。
地面に落ちていた弓使いの放った矢を拾い戦士の首へと刺して失血死させた。
残りは最後の一人となった、詠唱も出来ず震える事しか出来なくなった魔法使いのみ。
剣士の剣を拾い上げて、魔法使いに近づき、辿々しく詠唱を紡ぐその口を掴み、上に持ち上げる。
涙も尿も垂れ流す魔法使いの心臓に、剣を突き刺し殺した。
戦闘の終了が確定した後にダンジョンが死体を吸い、70DPを獲得した。
ソロ冒険者三人と、三人パーティのD級パーティで合計100DPの獲得だ。
ルームの拡張も良いが…まずは魔物の召喚から試してみるか。
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