第4話 D級冒険者
あれからゴブリン二匹のお陰で、俺が手を出さずとも120DPが手に入った。
ゴブリン一匹だけでE級冒険者を相手取っていた事もあり、二匹に増えたゴブリンはD級冒険者パーティ相手にギリギリではあるが勝利することができていた。
それに新たに増やした魔物、スケルトンとスライムの功績もデカい。
剣というよりは、剣の形をした鈍器に近い石の剣を片手に持った骨の魔物、スケルトン。攻撃方法はゴブリンと大差無いものの、武器の強さや素早さがゴブリンよりも上なだけあり進んで前衛を熟す。E級冒険者程度のガードならば容易く破ることができ、後衛の魔法使いや弓使い相手だと一撃で即死させる攻撃力を持つ。
普段は水饅頭のような形を保ち、中心の核を右往左往させるジェル状の魔物、スライム。地面を跳ねて移動し、冒険者相手にタックルして身体を展開させて相手を包み込む攻撃手段を持っている。
スライムの攻撃の何が怖いかと言えば、核を捕らえない限りスライムの身体を掴めないから呼吸器を塞げえた場合にはほぼ死が確定しているところだ。背後から奇襲されれば為す術もなく窒息で殺される。
以上の二匹が思った以上の即戦力となり、俺は大変満足している。そろそろゴブリンの強化用DPも溜まりそうになった所だ、このまま冒険者を殺し続けて他二種の魔物の強化も行おう。
スライムを抱え撫でながら、俺はそう考えていた。
「…今日は、冒険者が来ないな」
いつもならば一日二人程は来るものの、今日は幾ら待てども現れない冒険者に訝しむ。
まぁ、こんな日もあるかとあまり気にしていなかった。順風満帆だった今までの積み重ねが、そういう油断を生んでしまったのだ。
魔法陣が輝き出す。
そこから現れた一人の冒険者。
すぐさまゴブリン二匹とスケルトンが襲い掛かり、石の剣と棍棒を振り上げた。
「! 下がれ!」
転生してから一度も出したことのない大声で、魔物に指示を出す。
しかし既に遅く、ゴブリンとスケルトンは一太刀の末に斬られてしまった。
『D級冒険者がソロで現れました』
目の前に現れたウィンドウが、相手をD級冒険者だという証明をする。
俺の腕から離れたスライムは俺から離れて迂回して襲い掛かろうとしているのだろう。しかし、俺はそれを止めた。
あの三匹がやられた時点で、俺は既に行動している。
筋力に+50。耐久に+20。瞬発力に+20。
全てのDPをそれぞれに割り振った俺はすぐにウィンドウを閉じてD級冒険者へと肉薄した。
急激に上昇した身体能力を才能で無理矢理操り、剣士の振るう剣を急停止する事で躱す。
目の前を通り過ぎる剣。しかし俺のフェイントに反応できている剣士はすぐに返す刀で剣を振り上げるも、既に懐へと入った俺は相手の腹部に一撃を入れる。
「っぐ!?」
咄嗟に間に入れた片手を犠牲に防いだ相手は距離を取りながらポーチに手を突っ込んでポーションの蓋を開ける。
接近する俺を剣で牽制しながらポーションを呷った剣士はもう一度両手で剣を持ち直して俺に切り掛かる。
斜めからの振り下ろしを手首の枷で受け止め、前蹴り。すぐさま戻した剣の柄で蹴りを受け止めた剣士は後ろへと滑り、俺は息つく間もなく全力で近づく。
前傾姿勢の俺の首を狙った横一閃をスライディングで避け、相手の足に向かって全力の蹴り。脛を折った感触と上から聞こえる悲鳴と咄嗟に振るわれた剣を目にした俺はすぐに腕の力だけでその場から離れる。
「がっぎぃ…!」
次に目にしたのは、俺に剣を向けながら膝立ちで俺を睨む剣士の姿。
ポーチにはもうポーションがないのか、はたまた使おうと効果が薄いのか手を出す様子がなく、じっと荒い息で俺を睨み続ける。
しかし、俺の出番は既に終わった。
「___がぼ!?」
剣士の背後から近づくスライムが、その顔面を覆った。
咄嗟の事で剣を手放し顔面へとへばりつくスライムを掴もうとする剣士。しかし流動体であるスライムを掴む事はできずに、次第にその顔色を真っ赤にして更に暴れ出した。
そして、やがて大人しくなる剣士。身体は痙攣してそのままで、しばらくするとダンジョンへと吸い込まれた。
『D級冒険者を倒しました。150DPを獲得しました』
150DPだと? D級にはそんな価値があるのか?
『D級冒険者の討伐により、一部の封印をアンロックします』
封印?
そう呟いた瞬間に、今まで解けるはずのないものだと思っていた枷の一つ…右足の枷に意識が向いた。
出せる。何故かそう確信した俺は、直感の赴くままに意識を枷に向けた。
すると、ジャララと鎖の音を立てて枷から鎖が伸び、そしてその先に人の頭程の大きさの鉄球が現れた。
これは…武器か?
しかし罪人チックな俺の見た目が更に罪人…というか奴隷に近付いている気がする。気のせいだろうか。
何気なく足を振るって鉄球を壁に飛ばす。すると鉄球は容易くダンジョンの壁を突き破って埋まってしまった。
なるほど、重量はかなりのものだ。試した所枷と鉄球を繋ぐ鎖はかなり長く伸縮できるものらしい。
戦いの度冒険者から奪うしか武器の手段がない俺にとっては少しありがたい代物だ。まぁ、扱いには苦労しそうだが。
それよりも、だ。
ゴブリンとスケルトンは今回の戦いで死んだ。
戦闘終了と共に、冒険者と一緒に死体はダンジョンに吸われていた。
死んだとしても能力の変化はない。ただ再召喚が可能になるだけ。
恐らく、これからD級冒険者は少ない頻度で来ると思う。ステイタスを上げてから挑んだ俺が少し手こずったんだ、かなり強化したゴブリンを大勢嗾けないとアレらの相手は厳しいと俺は感じる。
そうだな…DPに余裕がない中、魔物の利便性が高いからと言って流石に任せすぎたのかもしれない。
これからは魔物は召喚せずに、俺の強化を最優先にして、DPに余裕が出来れば魔物を強化をしよう。
俺は今回の功績者であるスライムを抱え撫でながら、そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます