第11話

僕はロボットに襲撃された。

死闘の末、なんとか返り討ちに成功し、気がつけば車もろとも炎上していた。

トンネル内の酸素が尽きる前に、僕はそそくさと非常口から外へと脱出した。


だが、一つだけ腑に落ちないことがあった。


なぜ、僕たちは襲撃されたのか。

強盗や敵対勢力の奇襲、偶発的な事件。いくつか可能性は考えられるが、決定的な理由が分からない。


「なぜ、こいつは襲ってきたんですか?」


考え、あぐねた末、僕は時嶺さんに尋ねた。

すると、彼女は少し驚いたような顔をし、すぐに微笑んだ。


「そうか、常世くんはまだ知らなかったのね」


こんな重要なことなら先に説明してほしかった。


「さっき戦った少年、覚えてる?」


もちろん覚えている。あの異様な力で傘も銃弾も自在に曲げてきた、あのアノマリー。


「彼の能力は“触れたことのある棒状のものを曲げる”能力だったわね」


それは僕も戦ったから知っている。

傘も刀も、銃の弾道さえ曲げていた。だが、ふと疑問が湧いた。


「なぜあの黒崎の傘が曲がったのか」


もし彼の能力発動条件が“触れたこと”なら、戦闘中に初めて出した黒崎の仕込み傘は曲がらないはずだ。


考えられる可能性は一つしかない。


「彼は以前に、その傘に触れていたんだ」


時嶺さんは静かに頷いた。


「戦いが終わってすぐに、あの仕込み傘の出所を調べたのよ。そしたら、武器を管理してるラムダ部隊で問題が見つかった」


どうやら、ラムダ部隊が密かに反乱の準備を進めており、内部にすでに敵対者が紛れ込んでいたらしい。


「それでロボットが襲ってきたということですか……」


事態は想像以上に深刻だった。


「今は一旦、基地に戻って体制を整える。いいわね」


僕たちは車に乗り込み、ある民家の前に到着した。

中では家族がテレビを囲み、笑いながら談笑している。まるで世界は平和そのものだ。


「ここに、何があるんですか?」


「この家のガレージに、基地への入り口があるの」


「住んでる人たちには……?」


「私たちの姿は、一般人には認識できないわ」


そう言いながら、時嶺さんはガレージの扉を開けた。

中には人がいたが、僕たちの存在に全く反応を示さない。


戦闘中だけでなく、日常生活でもアノマリーの存在は、一般人には基本的に感知されないようだ。


時嶺さんがガレージ内の装置を操作すると、床の一部がスライドし、隠し扉が現れた。

その奥には、薄暗く長い通路が続いていた。


五分ほど歩くと、重厚な扉が現れる。

扉の向こうは倉庫になっており、様々な武器がずらりと並んでいた。


「ここで武器を調達してて。私は五分後に戻るから」


そう言い残して、時嶺さんはどこかへ消えていった。


僕は弾切れの拳銃をしまい、棚からサブマシンガンを手に取る。

もちろん弾薬も大量に確保し、念のため手榴弾やワイヤーカッターなど、使えそうなものも片っ端からバッグに詰め込んだ。


そのとき、黙っていた黒崎がぽつりと口を開いた。


「……さっきは、ありがとう」


気まずそうに目を伏せながら呟く。


「別に、大したことじゃないよ」


「私、絶対にあなたは私を置いて逃げると思ってた。だって――弱いから」


感謝なのか罵倒なのかよく分からない言葉だった。


「でも……次は足手まといにならないようにする」


黒崎の瞳には、確かな決意が宿っていた。

きっと、彼女なりの覚悟があるのだろう。


そのとき、時嶺さんが戻ってきた。


「いい武器は見つかった?」


「はい、ばっちりです!」


黒崎はすっかり元気を取り戻した様子だ。


「こっちに緊急会議室があるわ。ついてきて」


僕たちは簡素な部屋へ案内された。

そこは会議室と呼ぶにはあまりにも殺風景で、椅子すらない。


ただ、一番驚いたのはそこに集まっている人数だった。

僕たちを含めて三十人ほど。性別も体格もバラバラで、驚くほど若い。小学生ほどの子供も混ざっている。


しばらくすると、空夜さんが扉を開けて入ってきた。


「これからラムダについての会議を始める」


彼は現在の状況と、今後の動きについて説明を始めた。

敵本拠地は██県██市、表向きは製薬会社。地上5階・地下50階、さらに地下道が5本接続している。

構成員は285名。しかし、戦えるのは50人ほど。


「質問いいですか?」


15歳くらいの眼鏡をかけた少年が手を挙げた。


「2/3が新人で勝ち目はあるんですか?」


その時はなぜそんなことを知っているのか不思議だったが、後で聞いた話では、僕たちの所属するシグマ部隊は新人育成専門。基本は教育者一人と新人二人の三人一組で動くらしい。


「主力は地上の強襲部隊。俺たちの任務は、地下道の封鎖と逃走者の確保だ。一つの地下道に6人ずつ配置する」


任務内容だけを聞けば、それほど難しくなさそうだ。

もしかすれば、一戦交えることもなく終わるかもしれない。


作戦説明が終わると、ラムダの基地の地図と構成員の情報が書かれた資料が手渡された。


「今すぐ指定の地点に向かってくれ」


僕たちは車に乗り、目的地へと急ぐ。


到着したのは、ただ木が鬱蒼と茂る森の中。どこにも扉らしきものはない。


「ここであってるんですか?」


「……たぶんね」


時嶺さんが少し地面を掘ると、案の定金属の扉が現れた。

中には、前と同じような暗い通路が続いている。


少し進んだところで、時嶺さんが言った。


「あと3人来るはずだから、ここで待機するわ」


「なんで一緒に来ないんですか?」


「分かれて行動した方が、襲撃される確率が下がるのよ。それくらい察しなさい」


黒崎にバッサリと切られた。


二分ほど待機していると、背後から声がした。


「先に来ていたようだね」


振り返ると、赤髪の男、さっき質問していた眼鏡をかけた少年、ショートヘアの少女の三人が立っていた。


「自己紹介をしようか」


赤毛の男が口を開こうとした、そのとき。


――ドォン!


基地の方角から凄まじい爆音が響いた。


「走れ!」


時嶺さんと赤毛の男が同時に叫んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る