第12話

振り返ると、眩い光が背後を染めた。

さっきの爆発音といい、この光といい、爆発の規模がとんでもないことはすぐにわかる。


僕たちは全力で出口へ駆け出した。あと100m。普段なら10秒もかからない距離だ。

だが、残り30mで背後から衝撃波が襲ってきた。

当然、態勢は崩れる。


「くっ…!」


もう間に合わない。そう思った瞬間、視界が真っ白になった。

僕が気絶したわけでも病気になったわけでもない。通路全体が白い何かに包まれていたのだ。


助かった…のか?


白い液体の壁のようなものが衝撃を吸収していた。おそらく誰かの能力だ。


「……これ、最後まで取っておきたかったんだけど、仕方ないね」


赤髪の男がため息交じりに言った。


「簡潔に自己紹介しておこう。俺は穂蔵透(ほぐら とおる)。液体を溜めたり放出したりできる。さっきのはその応用だ」


「さっきは、助かりました。ありがとうございます」


僕が礼を言うと、後ろの少女も口を開いた。


「招霧結祈(まねきり ゆいの)。ギフトについてはね、よくわからないけど“みーちゃん”を呼べるの」


「みーちゃん?」


人なのか獣なのかまったく想像できない。


「うん。まぁ、そのうち見せるわ」


次に、眼鏡の少年が静かに話し出した。


「眼藤遠真(がんどう とおま)。ギフトは千里眼で見たことのあるものなら、どこからでも監視できる」


かなり使い勝手はよさそうだ。しかし、前線より後方支援向きだ


軽く互いに自己紹介を終えたところで、時嶺さんが電話を取り出した。


「本部に確認を取るわ」


その横で、穂蔵さんが遠真に尋ねる。


「他のチームはどうなってる?」


「4組中、2組は見えなくなりました。一組は虫の息、残り一組はまだ生きてる」


「……見えなくなったって、つまり死んだか」


時嶺さんが通信を終えて戻ってくる。


「強襲部隊の消息も途絶えたわ」


「まさか…さっきの爆発で?」


「恐らくね。一応、アルファが増援に来るらしい」


「アルファが動くんですか?」


アルファ...このセレスティアの幹部が所属している。しかもこの組織は強いほど上に行ける。とても強いということだ。


「それくらい今の状況は深刻ってことよ」



「で、私たちは?」


「“好きにしろ”だそうよ」


「もう僕たちがどうしようとどうにもできないレベルってことですか」


「どうする?このまま中枢には行けそうにないし」


「重症のチーム、助けに行こう。場所も近いし、まだ間に合うかもしれない」


僕たちは急ぎ現場に向かった。

だが、そこにあったのは血の跡だけだった。


「……遅かったか」


「遠真、今の状況は?」


「見えない。たぶん殺された」


空気が重くなる。


「まだもう一組いるだろ。そいつらは?」


「戦闘中だ」


「よし、加勢だ!」


その瞬間――背後から銃声が二発。

鈍い衝撃が腹を抉る。


「ぐっ!」


痛みが走る。貫通はしてないが、充分に痛い。

隣の招霧さんも肩を押さえて倒れ込む。


「まだ行くのは早ぇよ」


フード姿の男が、薄暗い通路の奥から現れた。


「お前たちはここで死ぬんだ」


奇襲にも関わらず脳天狙わず腹だなんて、非効率極まりない。


「6対1で勝てるわけないだろ」


穂蔵さんがそう言うと、男はニヤリと笑った。


「違うわ。5対2よ」


振り返ると、さらにもう一人、厚手の手袋をした少女が黒崎を抱えて立っていた。


「黒崎!」


僕は即座に銃を構えるも、黒崎が人質では撃てない。


「君たち、かなり強いね。気配が全然なかった」


「それ、ギフトの力か」


少女は微笑む。


「そう。私のギフトは四次元操作。認識できないだけでこの世界は三次元が何層にも重なってるのよ。触れた生物を、一つ上の層に移動させられるの」


とんでもない能力だ。


「なんでそんな重要な能力をペラペラ喋るんだ?」


僕が問うと、少女は鼻で笑った。


「ふふ、そんなことも分からないの?……あ、言っちゃいけないんだった」


「何に対してだよ」


「まぁ教えてあげる。20秒触れ続けるのが条件。今の行為は、その時間稼ぎ」


じゃあ黒崎は……。


そう考えた瞬間、目の前から少女の姿が消え、黒崎の体だけが残っていた。


異次元だと身構えたが、意外と普通の景色だ。


「……ここが、層の上?」


背後から声がした。


「あなたも来たのね、常世くん」


招霧さんもここに飛ばされていたらしい。


「でも、なんで俺たちだけ?」


僕は傷口を触り、腹から異物を取り出した。

それは弾じゃなかった。切断された足の小指だ。


「……自分の指を弾丸にするなんて、ヤバいよね」


招霧さんが呟く。


手袋は指の欠損を隠すためだったのだろう


と、周囲を見渡す。


「で、黒崎は?」


誰も応えない。

黒崎の姿は、そこになかった。

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