中央日本兵庫

 皆さんは兵庫県をご存じだと思う。近畿二府四県を構成する一県。詳しくはわからないけどオシャレで、食パンがおいしい、全然イメージがないけど意外とめちゃくちゃ海に近くて言われてみれば神戸港ってあるなとなる県庁所在地神戸を持つ。また、有馬温泉と城崎温泉という二大温泉地があっていいなーという方もいるだろうと思う。近畿圏から遠い方はそうした行楽地としての兵庫をイメージするかもしれないし、近畿圏に住んでいる人は尼崎の下町情緒や天気予報で県の形を見ると地味にでかいなという何の気ない感覚を思い起こすかもしれない。しかし、それらは兵庫県の本質ではない。


 兵庫の南側は有馬温泉や宝塚の劇場、競馬場などがあり、また神戸もその方面に位置しつまり南側は瀬戸内海に面している。一方で北側は但馬の地域が観光地として有名であったり、その他城崎温泉なども兵庫の北部日本海にほど近い場所に位置している。つまり兵庫県というのは二つの海に接している。先ほど本質ではないと評したものの中にその大きさにも触れていたが、その点に関しては実は本質の一端を担っている、あるいは全てかもしれない。そう、兵庫県は地味にめちゃでかいのだ。瀬戸内海と日本海の両方に接するほどに。これが何を意味するか。例えば三重から兵庫県の隣の大阪に向かうとしよう。その場合大阪まで行くのに奈良を通っても和歌山から回ってもいいし滋賀から京都、下って奈良、和歌山を経由して最後大阪に入ることもできる。同じく兵庫県の隣、岡山に島根から向かうとする。鳥取を経由して岡山に行くこともできるし、広島を経由して岡山に入ったっていい。しかし、これが三重から岡山、島根から大阪であればどうだろう。三重から岡山に向かうならまず奈良から大阪、兵庫県を通って岡山に入るか、あるいは滋賀から京都、兵庫県を経由し岡山に行くこともできる。島根から大阪へ向かうなら鳥取から兵庫県、そこから大阪に入ることも一旦京都を経由することもできるし、広島から岡山、そして兵庫県を通って大阪に入るルートも組める。

 この時点でお気づきの方もいるだろう、私が何を言いたいのかということに。そう、この例に挙げたどちらのルートにせよ兵庫県を必ず通る必要があるのである。そしてこれは例に限った話ではない。青森から山口へ、鹿児島から東京へ行くにも兵庫県は不可避なのである。



 そう、つまりこれは日本の中心が兵庫県であるということを示している。



  我々は近畿地方に座す地味に大きな1都道府県を無視して日本を横断することは叶わないのだ。日本とは兵庫県以西と以東で分かれている。世間一般では電圧の違いだの、関ヶ原だの、うどん・おでんのだしがどうこう、フォッサマグなんちゃら等が西日本、東日本を規定する目安になっているが実際日本を東西隔てるのは兵庫県である。果たして本当に兵庫県を通らず日本を横断できないのか、四国をうまい感じに伝っていけば兵庫県を無視して本州を抜け、再び本州に突入できるのではと考える人もいるかもしれない。なら広島、岡山から四国に入り再び本州の兵庫県を超えた地点に戻るとする。その2つの県から四国に渡ってきた橋よりも東側の橋を伝って本州に戻らなければならないので大鳴門橋を渡り四国から出ることになる。しかし淡路島はすでに兵庫県である。淡路島から本州に上陸するのに明石海峡大橋を渡る必要があるが辿り着く先は当然兵庫県になる。


 橋を使うという半ば反則じみた手段を用いても避けられないのならばこれはもう兵庫県が日本の中心であるということは揺るがし難い事実といえる。船や飛行機に乗ればその限りでないという主張もあるだろうが究極的に移動手段が限定されるとき、つまり徒歩によって西日本側から東日本側、東日本側から西日本側(言わずもがなこの場合の西日本、東日本は兵庫県以西、以東を指す)へ移動することが迫られたとき、やはりかの県を通ることは不可避である。兵庫県がいつから兵庫県なのか、判然としたことはわからないがこの国に住まう人間はかねてからあの土地を踏まずに日本を横断することはできず、文字通り古今東西の人々の足跡がこの県へと続き、交わり、今もなお新たに刻まれる。


 実際のところ、兵庫県が旅の終着点になることは必ずしも多いとはいえないであろう。しかし、新幹線にしろ高速道路にしろ現代においても陸路で西日本から東日本へ向かう際には絶対に世話になる土地である。今度兵庫県に用があるという方はもちろん、通過する機会がある方はあまねく旅人を迎え入れる懐深い土地、中央日本たる兵庫県に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

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