冗談半分
@renimu026suupaanara
昼下がりの港町
人々は各々船に乗り込み広い海へと繰り出していく。ある人は漁船に乗って仲間たちと大量の魚が入った網を引き揚げている。他にも木製のボートにオールを二本ばかり積んで大海原へ漕ぎ出さんとする者がいれば、その横を10人かそこらの人を乗せたボートが見事な連携によって十人一色、人舟一体かのごとく波立つ海を滑るように進んでいく。
別のところに目を向けるとヨットで風を感じている人もいれば、中に各乗客の個室やレストランを内包する客船があり、なんか、板に乗ってる人もいる。
『ボーーーーー』と低いながらもよく広がる音が3回鳴り響いた。港の方を見ると何を積んでいるのか大きな船舶が出港しており、またある人はあれに乗って海を渡るのだろう。しかし、どんな船であっても関係なく海は時に容赦なく荒波としてそれらに襲い来る。その荒波をえっちらおっちら乗り越えていく船もあるだろう、あるいは風を読み器用にその波を躱す船もあるだろう。中にはやはりそのまま波に飲み込まれてしまうものや乗り越えていく最中に船から振り落とされてしまう人もいるだろう。まったく海とは恐ろしい場所である。しかし船に乗り込む彼ら彼女らは果敢にもそんな海へ、魚を、娯楽を、達成感を、あるいは財宝、新天地を求めて挑み繰り出していくのだ。
そしてその様を私は街の高台から見ている。私は未だ港にたどり着いていない。
街は海岸の上にそのまま建物をのっけたようなつくりで、所せましと家やら店やらがほんの少しのスペースにも置かれている。それぞれの建物の間には申し訳ばかりに路地があり互いが半身になって歩けば何とかすれ違えるほどの幅になる。
さらにこうした路地を二軒、三軒進むとすぐに突き当りになり左右どちらかに折れることを強いられる。そこから数十メートル進めばまた突き当り。目的地に着くまでずっとこの繰り返しである。
そんな迷路のような街並みが縦にも横にも数キロメートル拡がっており、人工衛星がこの街を空のもう少し上から映した際QRコードと認識しどこかの国に高額請求が来たとか来てないとか。
ともあれ、複雑怪奇なこの街は今日も私が港へ着くのを阻んでいる。
かれこれ3時間ほど右へ左へ彷徨っているが港は一向に姿を見せない。磯の香りを運ぶ潮風がなければ私はここを海辺であるとすら思わないだろう。どこを歩いていても家屋が立ち並び常に私を取り囲んでいる。
それらの建物が視界を阻み自分が街のどのあたりにいるのかを把握するのも難しい。かろうじて現れる特徴的な苗字の表札の家や曲がった角にある店など自分の位置を把握するのに役に立ちそうなものを見落とさないようにしなければ、次に来たとき実は以前とまったく同じ道を辿っていたなんてことになりかねない。
数少ない道しるべを取りこぼしてはますます港が遠のくので注意深く周囲を見回さないといけない。そんな代り映えのしない景色の中、私は勘だけを頼りにずんずんと、ただひたすらに進んでいく。歩みを止めずにひた歩いていればおのずと道は開けるものである。と、いうわけで完全に迷ってしまった。
開いた道がどこにもつながっていないこともあるということだろう。しかし、ずっと右や左や歩いて進み続けていて今日はもう疲れた、のども渇いた。港へと続く道筋としてまた新たな可能性を見いだせたことだし完全攻略はいつか、今日やそれ以前の自分たちから記憶や意思を受け継いだ私がその汗と努力と経験の結晶を以って達成してくれると信じて本日はそろそろ撤退することにする。のど渇いたし。
帰路につきつつ港に近づくための目印となりそうなものや見落とした道がないかと辺りを見回しながら来た道を逆行していたら、さっきは振り返らず進んでいたので気付かなかったがY字路に直面した。今の私から見て左側の道が先ほど私が進んできた方であるようだ。
右側の道を見てみると奥が少し開けた空間になっているらしく、なにやら看板が立っている。
『港➡500m直進』。
...全く余計なお世話である。周知の方法、既知の道程をなぞって目的地に着くことに意味があるのか、いや、そもそも同じ道筋を辿ったとして皆が皆うまいこと進めるとは限らない。私は私のやり方で港にでたいのだ。どうかお気になさらないでほしい。
そんなことを考えながら視点を別れ道の基部に戻す。道を二分する建物のその最前、私の正面にある別れの起点はその中からコーヒーの香りをあたりに漂わせており入り口の手前右側には今日の日替わりランチを柔らかい色調で描かれたイラスト共に記した黒板ボードが立っている。どうやら喫茶店らしい。
ちょうどのども渇いていたし入ってみようか?しかし体感的にこういう個人で経営されている喫茶店では静かで大人びた厳かな雰囲気が流れていることが多く、小休止するはずが逆に肩肘を張って気疲れしてしまう。そんな風にあれやこれや迷っていると女性が一人、いつの間にやら分かれ道の左側から歩いてきてそのまま前の喫茶店に入っていった。
肩を超え肩甲骨あたりまで伸びた黒髪をなびかせながらなんとも落ち着いた所作でドアに手をかけまるで自己紹介のように『カララン』と鈴を鳴らした。私が彼女の存在に気付いてから店の中に消えるまでそう長くはなかったが目鼻立ちが整ったすっきりとした、精悍ともとれる顔つきで、世間一般で美形とされるであろうことは一目でわかった。そしてなにより頭から足まで一直線に伸びたその姿勢の美しさが私の目を惹きつけ、今まで私が見てきた中でも類を見ないほどの綺麗な女性だと思わせた。
ということで喫茶店に入ることにした。
私がドアに手をかけると鈴が『カンカンカララン』と中にいる人間に危機を知らせるかのように鳴った。中に入ると彼女の姿は見当たらず、既に席に案内されたようであった。私のもとにもすぐ店員さんが向かってくる。席に案内してくれるのだろう。予想通りその店員は私に声をかけてきた。
「すみません、ただいま満席となっていまして...。他のお客様と相席でよければテーブルの方ご案内できるのですが...」
なんということでしょう。確かに少なからず彼女と接点を持てることを妄想して店に入ることを決めたがここまでの急接近が現実に起こるとは、夢想だに事が進みすぎている。しかし、いったい何を話せばよいというのだろう。趣味の話か、最近あった嬉しかったことか、それとも今日の天気とここ最近の柔らかな日差し、季節の移ろいを語らおうか。
半ばうわの空で店員さんの申し出を了承し、後に続いて店内を少し歩く。心の準備をするにはあまりに短い、どういう雰囲気をまとって挨拶をすればいいのかわからない。そのあとに続く自然なしゃべり出しなど思いつくはずもない。
「それではお席こちらになります。ご注文お決まりになればお声がけください」
おっさんがいた。私が案内された椅子とテーブル、その対面に座していた。店員は言うべきを言ったと去っていった。改めて店内を見渡してみる。どうやら真っすぐな彼女は一つ空いていたカウンター席に収まったようだった。確かに別に彼女と相席になる根拠などは一切なく全く私の想像だった。
再び自分の席に顔を向けるとやはりおっさんがいた。なんということだろう。いったい何を話せばよいというのだろう。趣味の話か、最近あった嬉しかったことか、それとも今日の天気とここ最近の柔らかな日差し、季節の移ろいを語らおうか。
「こんにちは。いい午後ですね。お先に頂いています」
おっさんが言った。
さっき店内を見渡したときに目に見える範囲の席には誰かしらが座っており、事実満席になっているようだった。誰かとすれ違えばそのことを意識するほど人気の少ない道の中、扉を一枚隔てただけの先にこんなに人間が潜んでいたのかと考えると少々薄気味悪い。
そして同じテーブルを共有する彼。ずっとおっさんおっさん言っていたが、改めて風貌を観察するとおそらく30代後半か少し上くらいだろう。まぁ、これ以上あるかどうかという美人がいると思ったところに自分より年上の男性が座しているのである。その落差を考えたら男など誰であれどうであれおっさんである。
とりあえずメニューを眺め何を頼もうかと思案する。外に漂っていたコーヒーの香りは中に入ると一層濃く鼻に届いて何とも言えない安堵を感じさせる。とはいえ渇いたのどにアチアチのコーヒーを注いでも余計にそれを助長するだろう。かといってアイスコーヒーは必ずしも十分にあの香りを届けてくれるかわからない。
そんなこんなで文字だけのメニューを左上から右下まで目を滑らせていると、突如『クリームソーダ』が現れた。
これは私の同世代の人は共感してくれるのか、はたまた自分だけの無知なのか、私は少し前までクリームソーダを分かっていなかった。以前にアルバイト先で少し年配の方にクリームソーダを所望されたのだがそんなものはそこのメニューには存在しない。乳酸飲料炭酸入りのことかと思い聞いてみるがそうではないという。そうなればこちらもお手上げでそもそもメニューにもないものなので断念していただき別のドリンクを注文してもらった。
こんなことがあったと後にその店のオーナーに話してみればなるほどメロンソーダの上にアイスクリームを乗っけたものらしい。そこはドリンクにトッピングとしてアイスを乗せられたのでメロンソーダにそうしたものを注文したかった、過去にしたことがある(そのときの店員にはクリームソーダが通じた)のかもしれないという話でまとまった。せめてクリームメロンという名称であれば察せたかもしれないが、クリームソーダとなるとあまりにソーダ部分の可変性が高すぎて少なくとも炭酸乳酸飲料ではないということしかわからず当時の私にはどうしようもなかったのであった。
結局ソーダに可変性はなくメロンソーダとアイスクリームのニコイチ飲料であったわけだが、それを理解した後も特別それに触れる機会はなかった。しかし今この時これ以上に都合のいい飲み物もそうないだろう。よく冷えた甘く刺激的な緑の液体にこれまた甘く冷たい白い半固形物、渇いたのどを潤すにはもってこいである『クリームソーダ』。さながら正体不明の意味深発言を残すキャラ、ここぞで秘していた実力を見せつけ主人公と共にひと際強大な相手に挑まんとする王道展開のような気分であった。
そしてテーブルに置かれたグラスを見据えたその先、私が一度二度ストローを口にするのを待ちつつなのか、忙しくもなく何かを書き込んでいた手帳を鞄にしまい顔と視線をこちらに向ける。どうやら世間話を始めるつもりらしい。
「ここのコーヒーは美味いですからね。よく来るんですよ。あなたもここは何回か来たことが?」
男は私に尋ねてきた。
「いえ、たまたま見かけて休憩がてらに入ってみたという感じで」
実際入店するかは迷っていたが、邪まな決心があったことを隠すため何の気なく自然に訪れた風に見えるように言った。
「おぉ、それはラッキーですよ。きっとあなたも気に入ると思います。ここのメニューはコーヒーに限らずどれも逸品ですから」
この人はこの店を高く買っているようだった。確かにクリームソーダは一口目でこれはなかなかとうなるものだった。もっともクリームソーダを飲むのは初めてなのでこれが他と比べてどれほど美味なのか、提供する人間によって違いがでるものなのか分からないのだが。
「それにしても今日はどうしてここまで?たまたま見つけるには少々奥まった場所ですが」
「今日はちょっと、港へ向かっていて...」
「港へ?」
男は不思議そうに返した。それもそうだろう。港へは行こうと思えばだれでも簡単に行けるようさっきあったような看板があちらこちらに立っているし、それらに従いある程度進むと港までは一本の大通りになっている。看板の案内もこまめでありその道筋も本来むやみに複雑でなく、一度か二度でも港までたどり着けたなら以降は看板がなくとも容易にその道筋をなぞらえることができるであろう。それなのに『どうしてこんな外れにいるのか?』という問いに『港に向かっているから』と返されたのである。まったくもって意味不明だろう。
「えぇ、その、裏道みたいなのを探してぶらぶらと」
納得してもらえるかわからないが一応の理由を歯切れ悪く主張した。
「へぇ、面白い。確かに港へ行くのに大通りを要しない道はいくつかあるようですが、それを自力で発掘しようとは」
どうやら納得?はしたらしい。
「では特に港に用があるわけではないのですね。気ままに街を探索する。それもなかなか乙な過ごし方ですね」
それどころかこの放浪を有意義であると解釈している。街を散策するということ自体が目的として添えられていればではあるが。
「まあ、一応海に出たいとは思っているのですが」
「…なるほど、海に」
私が言うと少しの間が起き男が言葉を返した。港に向かう人間が海に出ること自体は何の不思議もないだろう。しかし、この男の前で白と緑が入り混じったグラスを眺めている者は港を目指しているらしく親切な案内を無視して無駄に複雑な路地を徘徊している。それでいて海に出たいと言ったのだ。
港に着くことそれだけが目的ならばその行為は意義もあったと考えられたのだろうが、港に用があり目的があるのならば疾く赴きそれを実行するべきと思うことは当然と言える。このラリーに生まれた間は彼のそうゆう風な思考と、ならばその一見無為な行いに何か理由があるのでは?という詮索、勘繰りの賜物だろう。
その後、しばらく沈黙が続いた。私は気まずくなり下の方がソーダと一体化し始めたアイスをチャカチャカ食べる。溶け出したアイスクリームは絵具のついた筆をバケツにつけたときのように元からあった水の色を滲ませ混ざり合いながらゆっくり落ちていく。透き通っていた緑色がいつの間にか濃霧に包まれた山のようになっていた。
もしかしてクリームソーダとは積極的にアイスとソーダを混ぜて楽しむものなのだろうか?それぞれを別に味わっていたら単にそれはアイスクリームが乗ったメロンソーダでクリームソーダではないのではないだろうか?そんなこんなを考えて気まずさから集中をそらしているとふいに男が口を開いた。
「海はやはりいいものですからね。もちろん厳しい世界でもあるのですが」
私が男に視線を向けると彼は続けた。
「私も船に乗ってあっちこっち出向いたりして長く陸に戻らないこともありました」
「というと貿易船かなにかに乗られてたのですか?遠洋の漁船とか?」
「少し前までは大船団の一員として航海に出ていました」
なんとなく仕事のできそうな人だと思っていたがまさか大船団の一員だったとは。名の通りものすごい数の船で構成されている一組織であり、世界中に貿易やら探検やらで船を派遣しているらしい。そしてその一員となるのには常に不測の事態に対応できる臨機応変さが求められるとかで雑用として搭乗するにもそこそこ難しいで有名なのである。
「一流も一流のとこじゃないですか。入るのは当然、乗った後も油断できない仕事のうえ激務と聞きますよ」
「私は一流と呼ばれるほど大層な人間ではないのですが、激務なのはそうでしたね」
「乗組員になってからは毎日朝から晩まで働いていましたね。まぁ、私が個人的にやる気と目標があったとういのも大きいのですが」
そこからは少しの間彼の一人語りであった。
「私があの船に初めて乗ったのはもう何年も前になります。ちょうどあなたと同じくらいの時ですね。なつかしい」
「とにかくがむしゃらに働いてできるだけ本船に近い船を目指していましたね。誰よりもやる気と仕事ぶりを見せてやると意気込んで、我ながらよくやりましたね」
彼は少し笑みを浮かべながら語っていた。言葉にして表に出すことはしないが、当時の情景やらハプニングやらの面白い過去が見えているのだろう。
「十数年乗っていましたが色々ありましたね。しんどいことも変なことも。後から振り返って見る分には面白いのですが」
呆れのような声色も混ざりつつ楽しそうに語っているがどことなく寂し気な雰囲気を感じる気がするような気がしないでもない。正直わからない。
「仲間も増やして、上司に連れまわされたり、同僚の意見より秀でようとしてみたり必死にやってなんだかんだで副船の船長にまではなれましたが」
どうやら自分の前にいた男は想像の何倍も卓越した人間であった。副船を任されているとなると当然のことながら経験、実力、信頼が組織の中で群を抜きあらゆる不測の事態に対して全く的確な指示を出せる泰然自若にして堅忍不抜な人物であるということであろう。そしておよそ十隻ある副船の船長の中から次の本船の船長が選ばれるという。つまり彼は世界をまたにかける大船団、その次期船長候補であり人生安泰といったところで...
「大船団の副船船長なんて並大抵の、私の想像の及ぶ程度の努力でたどり着ける立場ではないと思うのですが」
今まで自分以外の人にも散々聞かれてきたであろうことを例にもれず私も聞いてみた。
「さっき’少し前まで’と言ってましたが、今はもう大船団をやめたということですか?」
「はい」
「そこまで行ってどうして降りたのですか?その、やっぱり勿体ないというかせっかくそこまでしたのに...と思ってしまうといいますか。失礼でしたら全然あれなんですけど」
凡庸な質問であるが聞かざるを得ないだろう。さすがに気になる。
「いや、それが別の副船の頭にしてやられましてね。結局彼がうまいこと船団の船長の座について私みたいな馬の合わない人間を『あなたの経験を以って指導してやってほしい』とか適当な理由をつけて僻地の船に追いやったのです。まあ、派閥争いに負けたようなもんですね」
やはり聞くべきでなかったか?そこそこ気まずい内容ではないだろうか?しかし、男は気にする様子もなく話を続ける。
「それで私も異動させられたわけなのですが、最初は副船から降ろされたとはいえまだ本船に近い船にいたのです。しかし、何回か異動が続いて最後には辺境行の船に乗れと言われてとうとう辞めることにしたのです。他の同じような船員を見ても状況が好転する見込みもなそうでしたので」
「なので別にもったいないということはないのです」
聞いている身からするとなんともかける言葉に困る話だが、彼はどうということでもないように、むしろどこか面白半分に語っているような風であった。
「それはなんというか、大変?でしたね。なるほど、それでお辞めになられたんですね」
多分失礼な物言いになっていたと思う。しかし男は朗らかに笑みを浮かべながらこちらを見据えて言った。
「ええ。まあ人生いろいろですよ」
「港に行くにもいくつか道があって海に出るにも色々な船があり、それぞれに近道だの大規模船団だの特徴があって何か選ぶ状況になった時その都度よく考えているつもりなのですが。結局何がどうなるかなんてわからないものですね」
この話題はここで終わり、その後少し別の話をしてから先に彼が席を立った。なぜ彼が私に身の上を話したのかわからないが、攻めたアイスブレイクだったのかもしれないと結論付けることにした。そのあとの話でも彼が進んで話題を振ってくれて気まずさや退屈は感じず案外有意義なティータイムになった。
そういえば私が店を出たときには彼女の姿は見当たらなかった。
その日私は港にいた。そこで水平線に向かっていく一隻の船を見送っていた。
彼と会った後日、私はあの喫茶店にコーヒーを飲みに行きそれからちょくちょくあそこに通うようになった。
そこで何度か彼とも顔を合わせることがあり世間話やお互いの近況を話していた。近況についてはほとんど彼の話にしか進展がなかったが、その折に近々船を出すと彼は言った。なんでもここらの衣類や食料品、美術品を他の島や大陸に売りに行くとか。
それで案内板の指示通り港まで進み出航を見送りにきたのである。
私はその話の際『色々あってもまた海に戻るんですね』と聞いた。
彼は『はい。今思えば、自分の船が欲しくてあんなに頑張っていたのかもしれません』と答えた。
これもなにかの縁だからと良ければ一緒に来ないかと言われたが丁重にお断りさせていただいた。私は私のやり方で海に出たいのだ。彼は予想通りの返事が来たとばかりに『それは残念』と笑った。
気づけば船はずいぶん小さくなり少しボーっとしているうちに他の同じような船と見分けがつかなくなった。今生の別れというわけでもないだろうし見送りはこの辺りまででいいだろう。そのうち喫茶店でまた顔を合わせることもあるだろう。その時にまた航海の話を聞かせてもらおう。そうしてお見送りで疲れた私は喫茶店に寄ってから家に帰った。
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