可愛くないアイドル

 好きアイドルの裏側は、可愛くなかった。

 泣き出したくなるような練習ばかり、どんなに真面目にやっても帰ってくる言葉は『まだ足りない、それでは笑顔にできない』だった。

 そんな言葉何の意味があるのか、お客さんなんて私たちが歌えば勝手に笑顔にサイリウムを振るだろうと本気で思っていた。


 初めてのライブで、誰もサイリウムを振ってくれなかった時までは。

 理解できなかった、意味が分からなかった。

 あの人らはただの肩書にしか興味がない、”私たち”なんて誰も見ていないと本気で思っていた。

「そんなんで、皆を笑顔にできるわけないだろう!」

 この言葉の意味を本当の意味で理解できていなかった。


 客なんて私たちの努力なんて知らない、どれだけ頑張ったか、どれだけの時間を費やしたかなんて知る由もない。

 ただあるのは、今この場における完成度と、相手を思う気持ちだけ。

 その一瞬、この刹那に、お客さんは希望を抱いている。

 そして、私たちはその刹那に全身全霊を込めなきゃいけないのだと知った。


 それを知って数年経つ。今では私がそれを言う立場になっている。

「こんなに頑張ったって、客にには伝わらないだろう」

 そう言葉を吐き捨てる後輩の気持ちも理解できた。

 けど、だからこそ、今だからそんなあなた達に言える言葉があった。

そんなんで、皆を笑顔にできるわけないだろう

 きっと、この言葉こそがアイドル好きの裏側なんだろうな。

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