第4話 遠い日の恋人


4話「遠い日の恋人」

あの日から数日。警察等の目を何とか喰いくぐり、俺はまた、人目を避け自室に引きこもった。


でも、空気を入れ換えるために、不意にガラス窓を開けると、

何処からか、キンモクセイの薫りが流れ込み、

あの日の俺を思い出させた。


(大学生時代の記憶)

俺とあかねは、学ぶ分野は違ったが、同じ大学に通っていた。


常に金の工面に、苦労してた俺は逃げるように、昼休みは学食を避け、女神のブロンズ像がある、芝生の広場で寝転がっていると、


あかね

『よー。陰キャが、甲羅干しでっか?(笑)』


寝転がった回りに、近くにあった焦がれた葉を、1枚つまみ、俺の鼻を擽った。「なんだ、君か?」


陽射しが指す眩しさと、あかねの笑顔が、重なる瞬間がたまらなく好きだった。


『陰キャ君。まぁた、食事抜き?。過激なダイエットは、身体悪くするぞなっ(笑)』


そうゆうと、学食で買ってきた、スパゲッティロールを差し出した。


「なんだ、またこれか?」

あの日、もう少しだけ、愛想よくすれば良かったかもしれない。


『ひでぇ。なんつー言い方(笑)。君は、何やっても、「いらねー」ばっかだからさ、変わり種なら...て、コッペパン割って、ケチャップが多いナポリタンが挟まってたやつなら、ポピュラーだから、食べるかなーって思ったんだけどなーっ。はぁ、残念(笑)』


あかねは、やはり想えば、あかりの母親だと思う。


「おい、まてよ。くれるものを取り下げるなんて、今どきの政治屋かよ。」


差し出したパンを取り上げ、あかりは俺の鼻を擽った、焦がれた葉を、つけ髭してるふりして、俺に向き合った。


あかね

『あー、記憶に、ございませぬ(笑)。』


「シュールというか、シンプルにつまらんな?」


デフォルトの様な、ふたりの昼休み(時間)、のちに俺は、あかねのお腹に、娘のあかりの存在が有ることに、気づかされた。


近くて遠い、幼なじみ。

それは、社会に出た後の再会も、その距離は変わらなかった。


あかね

『うおぃ!』


あかねの細くて長い指先が、

スーパーの棚で、格安品を買うか迷っていた俺の首を、まるで野良猫の首を掴んでいた。


「なんだ、君か?」


あかね

『主婦か?君は(笑)』


ふと、あかねの腹部が張っている事に気がついた。


あかね

『あ、気がついた?。安心して、君の子じゃないから(笑)』


「俺と君は、結局そこまでの関係には、至ってなかったが、相手は?」


急に閉口するあかね。


「わかった。堕胎(おろす)気はないんだろ?」


子供のように頷くあかね。


「もう、産まれそうだな?」

そっとあかねの腹部に手を当てると、小さな鼓動を感じた。


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瞬き 空想携帯小説家 @acvr4523shigechan

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