第4話

 レンのダンスはリリカから見れば「奇妙」なものだった。

 我流のせいなのかステップがめちゃくちゃで、膝も腰も流れがおかしかった。しかし、なぜだか時折、キレのある動きもあり、何よりもレンは楽しそうだった。

 ああ、この男は、「こんな世界」を楽しんでいる人なんだな、たしかにダンスを通してわかりあえることもあるのかもしれないな、とリリカも原チャリを下りた。


「お」

「リリカも来たー」


 リリカは簡単なポップコーンやパーティーマシンから音楽に合わせて踊り始めると、昔習った動きを使いながら踊り始めた。踊るのは久しぶりだった。いつ以来なのか、リリカももうわからないが、身体はまだダンスを覚えていた。かつてはアイドルになることをライラと夢見ていたことも思い出していた。

 「こんな世界」にならなければ追い続けていたであろう夢をリリカは久しぶりに思い出した。


「うめーな。結構やるな?」

「まぁね」

「でもオレだって負けない」


 と、レンは力強いステップでターンを決めてみせる。男性らしい力強さからさっき言っていた「天下無双」も満更でたらめでもないかなとリリカは思った。


 いつのまにか三人は何曲も踊ってしまっていた。楽しくて時間を忘れるなんていつ以来のことだっただろう。

 久しぶりの楽しい疲労感を味わいながら、リリカは額の汗をぬぐった。


「泊まる場所ならいっぱいあるぜ。好きな家を使ってくれ」


 そう言われてリリカとライラは割ときれいなかつては女性が住んでいたらしい家を居住者不在のところを忍んで泊まらせてもらうことにした。

 柔らかい布団のある二段ベッドがキレイに残っていて、二人は歓喜の声をあげた。


「久々にやわらかい布団ですよ、リリカ」

「これはマジで嬉しい!」


 思わず冷静なリリカも飛び跳ねた。

 ガスも通っていてお湯も出る、まだガソリンスタンドも残っている、この街は本当に恵まれている。


「数日ぐらい、この街で休みません?」


 寝る前、上の段で寝るライラがそんな提案をしてきた。それもいいな、レンともいろいろ話してみたいしなと下の段でリリカは頷き、


「いいよ。ちょっと滞在して休憩しよう」


 と答えを返したところ、バンと部屋のドアが開いた。驚いて二人が飛び跳ねるとレンが立っていた。


「な、な、な……?」


 レンは布団を抱えていた。自分が今から寝るための布団のようだった。


「オレも一緒に寝ていいか。床で布団ひいて寝る」

「な、なんのために?」

「わかりあうために決まってるだろ?」


 とそのまま部屋に入ってこようとしたので「でていけ!」とリリカは枕を投げつけた。さすがに同じ部屋では眠らず、レンは隣の部屋で寝ることになった。


「さみしかっただけかもしれないですよぉ? 悪いことはしなそうな気も」

「油断しちゃダメだって。ダンスしただけじゃん」

「ダンスした関係なんて、『こんな世界』になってから初めてですよね」

「それは……そうだね」


 「こんな世界」を旅するようになってから、リリカもライラもダンスをすることも忘れてしまっていた。生きることで必死だった。しかし、レンと出会い、ダンスをして「楽しむ」ことを久しぶりに思い出すことができた。



 もしかしたらレンもずっと一人で、一緒に「楽しみ」を共有できたことは嬉しかったのかもしれない。


 明日、もうちょっと話してみるかな、何から聞こうかな、そんなことを考えているうちに布団のやわらかさと温かさに包まれて、リリカはあっという間に深い眠りに落ちていった。


 「こんな世界」の果てに、リリカが辿り着くまであと1,829キロ。

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「こんな世界」をリリカは旅をする 多田莉都 @rito_tada

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