第3話

「ダ、ダンス……?」

「そう! ダンスできるか!?」


 これはリリカの予想を斜め上どころか、世界一周レベルでずれた発言だった。普通はどこから来たのかとかそういったところから始めるのではないか? とリリカは少し呆れた。


「ヒップホップなら少しやってましたよー」


 にこやかに右手を上げるライラに、リリカは思わずズッコけそうになった。


「ちょっとライラ、なに呑気に反応してんの」

「えー、だって悪い人じゃなさそうだし」

「この世界で、人を見た目で判断しちゃダメでしょ」

「まぁまぁ」


 ライラは原チャリから降りた。


「オマエ、ダンスできるんだな!? 一緒に踊ろうぜ」

「ハハ! なんか面白い人ですね」

「オマエは? やらないのか?」


 男はリリカを指さした。


「リリカも私と一緒にヒップホップ習ってましたよ」

「ちょっ、ライラ、余計なこと言わないでよ!」

「いいなそれ! リリカとライラっていうのか? オレはレン。ダンスネームはレンレンだ。ダンスならばオレに敵う奴はいない。天下無双のダンサー・レンレンだ!」


 レンと名乗った男がしゃきんとポーズを決めた。面白かったらしくライラが声をあげて笑った。


「さぁ踊ろうぜ」

「いや待ってよ! なんで会うなり踊るのよ?」

「わかりあうために決まってるだろ?」

 何をバカな質問してるんだ? とばかりにレンは呆れた顔をした。なぜ自分がバカにされるのかとリリカは肩を落とす。

「この街はどうなってるの? ほかに人はいないの? いま何かわかる最新情報とかないの? なんでこんな電気点いてるの?」

「そんな一気に質問するなよ。一気に答えられない」

「あ、ああ……」


 質問する間もなくダンスに誘ってきたせいだろ、とリリカは心の中で突っ込む。


「オレが起きたら街のみんなは誰もいなかった。いまはオレ一人だ。電気はあるけどスマホのニュースサイトは更新されないから最新情報はない。街を明るくしたいから電気が点く家は片っ端からオレが点けて回ってる」

「一気に答えれんじゃん……」

「さ、答えたぞ。踊ろう」

「だから! なんで踊んなきゃいけないの!?」

「分かり合うためだって言っただろ」


 ダメだ、会話が無限ループになる。リリカは考え方を変えることにした。ライラは何を意気投合したのか既に踊ろうとしていた。


「リリカ、なんでも難しく考えすぎちゃうのは悪い癖ですよ」

「まずはわかりあってみましょ。小学校の先生も言ってたじゃないですか。『人を知るには、まず相手のやりたいことを知れ』ってね」



 そういうとライラはレンと音楽に合わせて踊り始めてしまった。

 小学生の頃にライラとリリカはダンスを習っていたので、たしかに今でも踊ることはできる。

 それにしても、とリリカはため息をつく。レンのダンスは我流なのだろう、はっきりいってうまいとは言えなかった。でたらめで振り付けも適当だった。

 ただの素人だ、こんな人と話す時間ももったいない。そう思っていたリリカだったが、レンのダンスを見るうちにあることに気が付いた。


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