第2話

 街の入り口で原チャリを止めた二人はちょっとした高揚感に駆られていた。

 街の家の至るところに「明るさ」があった。いろんな家の中にも明かりが灯っていた。二人が旅を始めてからこれほど明るい街は初めてだった。


「街って、こんなに明るいものだったんですね」


 ライラの呟きにリリカはゆっくりと噛みしめるように頷く。


「人はいるかな?」

「電気をつけっぱなしなだけにしては、明るすぎますしね。きっとたくさんの人がいるのでは?」

「どうかな? この街のケースは夜にみんな消えてしまっただけかもしれない」

「またリリカはそうやってマイナスなイメージばっかり言う」


 つまらなそうにライラはため息をつく。

 けれど、現実は見るべきとリリカは言葉にはしないが思った。期待を裏切られるぐらいなら、最初から期待はしないべきだと。


「ともかく、探索してみよう。注意は怠らずに」

「バラバラでは探索しないです?」

「やめておこう。明かりがある分、暗いところも多い」

「そですね」

 リリカとライラは原チャリのスピードを相当落としながら街の中を進んだ。歩いて街を探索しないのは、急に何者かに襲われたときにフルスピードで逃げられるようにしておくためだった。


 ゆっくりとトロトロと二人が進んでいたときだった。

 どこからともなく音楽が聴こえてきた。リリカの知らない曲だった。


「リリカ、あっちのほうに誰かいます!」

「え!?」


 思わず原チャリをリリカは止めた。ライラの指さす方向を見ると、数十メートル向こうの建物のそばから明かりで伸びる影が見えた。人の形をした影が動いていた。音楽に合わせているようにも見えた。


「ひ、人だね……」

「どうします? 近づいてみます?」

「うーん……」


 警戒を怠ってはいけない、リリカは自分に言い聞かせる。人は誰でも助けてくれるわけではない、「こんな世界」になっても助け合うことができない人間を二人は何人も見てきた。

 どうするかを迷っていると影が動きを止めた。そして影は動き始めた。建物の影から本体が姿を現した。思わず、リリカはアクセルを開く準備をした。

 姿を現したのは背の高い男だった。年齢は十代後半から二十歳ぐらいだろうか、肌ツヤが若々しかった。


「ライラ、いつでも逃げれる準備して」

「らじゃ」


 警戒する二人とは対照的に近づいてくる男は、子供のようなまぶしい笑顔を二人に見せた。八重歯が特徴的な顔だった。


「おー、人じゃん! 久しぶりに見た!」


 そう叫ぶと軽い足取りで近づいてきた。妙なテンションの奴だなとリリカは思った。


「オマエら、ダンスできるか!?」

「は!?」


 思わずリリカは大きな声を出してしまった。

 「こんな世界」でたどり着いた街で、十日以上振りに出会ったライラ以外の人間が発した言葉は「ダンスできるか!?」だった。

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