「こんな世界」をリリカは旅をする

多田莉都

第1話

 原チャリ二台が夕暮れの道を走る。

 ところどころひび割れたアスファルトはもう何年も整備されていないようだった。

 二台にはそれぞれ女子が乗っていた。二人とも大きな荷物を載せていて、その重さのせいか、バランスを取るためかスピードはそれほど出ていない。


「リリカ、もう夕方ですよ。今日の泊まるところ考えません?」


 赤い髪の少女が言った。


「そうだね。もう夕方だしね。考えないとだなーとは思ってた。けど……」


 リリカと呼ばれた少女が答えた。長い茶色の髪がヘルメットからはみ出て揺れている。


「けど?」

「今日は何の成果もないからなー」

「リリカは厳しいですねぇ。成果なんて毎日は出ないですよ」

「ライラはそんなこと言うけどさ、私たちって明日があるかもわからないんだよ?」


 リリカがため息をつくと赤い髪の少女・ライラは「そうですけどねー」とため息をついた。一日の疲れもあるのか背中を丸め気味に原チャリを運転していた。


「でも闇夜をうろつくのもよくないかな」

「そうですよ。ちょうどいいところに街が見えてきたし」


 ライラの指さす方向をリリカは見た。日の沈む方向に確かにたくさんの家が並んでいる様子が見えた。


「そだね。今日はあそこにしよう」

「あったかい布団で寝たいですねー」

「過剰な期待はよそう」


 過剰な期待はしない、とリリカが冷めているのには理由があった。

 ここ数日間、二人はまともな寝床にありつけていなかった。


「とりあえず電気は通っているみたいですね」

「ガソリンもあるといいな」

「ありますよ、きっと」


 楽観的なライラの笑顔に、リリカも思わず笑みがこぼれた。


「それに、誰か人に出会えるかもしれません」


 その言葉にリリカは頷く。


 二人はここ十日間ほど「人」に会っていない。

 つまり、この星が終わりつつある中で、廃墟の街ばかり見てきた二人はお互い以外と会話をすることができていない。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る