第2話 この女は誰?私は誰?
スギイ王太子殿下は、今日は王立学院の視察、その後は同校生徒でもある婚約者のロイド公爵家令嬢ステア様にお会いになる予定だ。忙しい身でも、婚約者に気を配るところは、昔通り優しいお方なのだ、殿下は。
鏡?ふと私は立ち止まった。鏡には私の顔が、姿が映っていた。
「全く、こんな大女、くそ真面目女なんて、殿下は女として見てくれないわね。」
とふと思ってしまった。何を考えているのよ、私は。そんなことをしていると、殿下にまた、冷やかされるじゃないか。
「ん?この顔?」
突然私の脳裏に血まみれの私の顔と、
「死ね。売国奴。売女。殿下、仇を討ちました、直ぐお側に。」
と鬼気迫る声が頭の中を反響してきた。
「え、だれ?この顔?私じゃない?」
頭が混乱した。何かが頭の中に濁流のように流れ込んでくるのを感じた。そして、私は鏡に映っている女は、私を殺した女だということがわかった。
私は、ロイド公爵家長女ステア。カバ王国王太子アトピ・スギイの婚約者だった。馬鹿でいつも問題ばかり起こして、私が尻ぬぐいやってきたのにあろうことか、成り上がりの法服貴族アモンド男爵家バラを愛したからと私との婚約を破棄した。その後私は、隣国のハシノ公国アコウ大公と結婚、スギイとバラは失政と悪政と贅沢で国民の反発を受け、反乱が発生、私と夫は国民の要請を受けてスギイを打倒、彼を処刑して、国民の要請を受けて、カバ王国国王と王妃になった。寝取り女バラは巧に海外に逃走、捜索させているけれど行方をくらませていた。私と夫の善政で両国は幸福な状態にあったのに、何を逆恨みしたのか、屑男への狂った忠誠心に執着した私の元婚約者の元側近の女は、傷だらけになりながらも私を殺したのだ。
その女が自分であることに恐怖した私は、腰が抜け、座り込んだ。すると心配するような声が。声の方向を見ると、そこには、私が殺した元婚約者の姿があった。い、いやー。あなたは死んだはずよね、化けて出たの?処刑されたのは自業自得よ、民の意志よ、逆恨みしないでー。
な、何するの、触らないで。いやー、御姫様抱っこだなんて、あなたにだけは触られたくないわよ。変な触り方しないでよ。顔を近づけないでよ。なに、匂いをかいでいるのよ。私は、パニックそのものだった。何とか逃れようとすると、バランスを崩された彼がよろめいて、首根っこにつかまってしまう。それに気が動転して、頭と体が一致してくれない。それに、何かうれしく思う気持ちは・・・気味が悪いわよ。え、何怒鳴っているの?よくある虐めね。あれ?私の取り巻き達よね?そんなことしているから、私の評判が・・・え、この娘、成り上がりの法服貴族アモンド男爵家のバラじゃない。もっと虐めていいわよ、こんな寝取り女、淫売女なんて。止める必要なんてないわよ。あ、ここで出会ったのね、この二人。ここで、私を降ろしてて二人で・・・ってしないの?私ををどこに?医務室に?病気でも何でもないから、離して、降ろして。でも、頭が混乱して、流れ込んでくる何かと既にある何かが混ざり合って気分が悪くて吐きそう・・・。
ベッドの横にされて、ウロウロと
「医者はまだか?」
とか何とか言って側にいないでよ。あなたがいるから気分が悪いのよ。早くどこかに行ってよ。そのうち医師が来て、彼は、
「休んでいてくれ。できるだけ早く切り上げて来るから。」
と言って。心配そうな表情で立ち去ってくれた。気付けのためのワインを少量貰って飲み干すと、女医の言葉に従って目を閉じたわ。眠るどろではないわ。私はどうしたって言うのよ?とにかく頭を整理しないと・・・。
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