ざまあした悪役令嬢は過去に戻って・・・別人に
確門潜竜
第1話 自分の美貌に見とれているのか?
ふと気が付くと、彼女は壁に取り付けられた大きな鏡の前に立ち止まっていた。鏡を見ている。多分そこに映っているのだろう、美人が、彼女自身の姿が。
ギア子爵家長女アレア。俺の乳姉であり、幼い時からずっと身近で俺に仕えてきた女だ。俺の頼りになる、美人の側近である。金髪に限りなく近い赤髪、というより赤金の髪、長身でスマートだが、でるところは平均以上に大きく、引き締まるところは平均以上に引き締まり、細い。弾力がある肌は瑞々しく、気品があり、知的な顔立ちのどこをとっても、文句のない美人だ。俺の側近として仕えているばかりに婚期を失いつつあるのは心苦しいが、背が高いだけ、彼女より俺は頭一つは高い、で地味な顔と頭の俺が何とか、父国王から丸投げされた政務をこなしているのは彼女のお蔭だから、彼女の忠誠心に甘えて、手放すことはできないのだ。いや、子供の頃から、たった1か月早く生まれただけだが、ずっと体も頭も成長が早かった彼女は姉のように俺を支えてくれていた。彼女無しに俺は、王太子ではいられなかっただろう。
そんな平々凡々の俺だから、彼女に感謝してもしきれないわけなのだが、つい彼女を揶揄いたい、虐めてやりたいという衝動を我慢できなくなってしまうのだ。今もそうだった。
なんと言ったら良いだろうか?うん、いい言葉が浮かんだ。このような頭の回転が、政治とか、交渉事とか、軍の采配だとかの場で出てきてくれればいいのだが。
「自分の美貌に思わず見とれているのか?」
俺は、彼女がちょっと、そしてほんの一瞬恥ずかしそうな表情をして、直ぐにいつもの表情に戻り、そして怒ったような表情になって、
「なにを馬鹿なことを言っているんですか?は、早く行きましょう。時間は待ってくれないのですよ。」
と言って、大股で歩き始めるのを俺は待った。
「?」
それがなかった。彼女は、鏡を見つめながら震えて、あらぬ言葉を口にしてペタリと座り込んでしまった。まるで死神でも見ているかのように。こちらを、俺の方を見た表情は、いつもの何者も恐れないような、大悪魔が、滅びの天使が舞い降りてきても、毅然として俺を守るために、俺の前に立ち、そいつらに対峙するだろう彼女からは考えられない、怯えた、命乞いをしているような表情だった。
のん気な俺も流石に、これは何とかせねばと思って駆け寄った。彼女はますます震えて、もはや自分がなにをしているのかさえわからないようだった。とにかく医務室に連れて行こうと思い、彼女を抱き上げた、御姫様抱っこで。そして、駆けた。
こういう時に困ったことに出会うものだ。学院の女生徒達が、一人の女生徒を虐めているところに遭遇してしまった。
"もう、邪魔だ。"と思ったが、名目的にはこの学院の最高責任者だから、黙って見過ごすわけにはいかなかった。
「君達、いじめは止めたまえ!」
と手厳しくいってやった。彼女達は、美人をお姫様抱っこしている男の説教に唖然としたものの、逆にそれ故にかもしれないが、
「王太子様。申し訳ありません。」
と頭を下げてそそくさに行ってしまった。
「あ、ありがとうございます。私は・・・。」
と礼を言う小柄な美少女をほとんど無視して、
「いや・・・。やめて・・・。」
とうなされるように言うアレアを抱いたまま、俺は医務室に向かった。
しかし、こいつ結構重い・・・でも、意外に華奢で柔らかくて、抱いていて気持ちが良くて・・・いい匂いが・・・、ああ、俺は何を考えているんだ、馬鹿やろう。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます