第16話 発症

健一は幼稚園、小学校、中学校、高校を卒業して、東京の大学に入学した。だが、東京の下宿に入居してから1週間ほどで、健一は精神病を発症した。


病院のカルテでは、これが健一の初めての発症ということになっているだろう。


健一の症状がどんな感じだったかというと、何でもないことにイライラしたり、怒鳴ったり、テーブルをひっくり返したり、というモノだった。


だから、50代くらいの下宿のおばさんが、健一の様子がオカシイことに気が付いたらしく、下宿のおばさんは健一を精神病院へ連れて行ってくれた。


その時、健一を診察してくれた医師は


「環境の変化でストレスがかかったから、精神病になったんだよ。元々持っている性格のせいでもあるね」


と説明した。


健一は頭の中にバレーボールが入ったかのような、妙な違和感に耐えながらこう考えた。


(確かに俺が精神病になった原因は、東京に出てきて慣れない下宿生活を始め、それがストレスになったのだろう。元々持っている性格というのも心当たりがある)。


健一はさらに考え続けた。


(でも、患者として思い直してみるとそれだけじゃない。ある女の子との不幸な出来ごとが、精神病の原因なのではないだろうか。でも、健一はその女の子のことまで医師に伝える気になれなかった。はっきりとした因果関係が無いからだ)。


ある女の子とは誰のことかというと、さと子のことだ。


健一は自分が精神病になった原因は、さと子との出来ごとだと思っている。


健一は何故自分がそう思うのかを考え続けた。その時、「報い」という言葉が頭に浮かんだ。


そして、健一は東京にある下宿から、故郷の実家に戻ることになった。

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