第15話 思い出の終わり
健一は自分のカバンもロッカーに入れたままにして、教室を飛び出し、廊下を懸命に走って幼稚園の玄関に行き、靴を履き替える気にもならず、内履きのシューズのまま外へ飛び出した。
幼稚園の先生が健一を呼び止めるような声が背中に聞こえたが、健一はそんな声にかまっていられず、幼稚園の広場を走り、幼稚園の門を通過し、さと子の家に向かって道路を懸命に走った。
健一は息が切れ始め、歩きたい、という気持ちを必死でこらえて、電信柱にぶつかりそうになり、バランスを崩して転倒して、いつもだったら、時々さと子に掴まれたことのある左肘を道路に打った。
痛かった。
でも、健一はもう一度立ち上がって走りだし
(こんな時に以前、さと子に勝ちたくて、かけっこの練習をしたことが役に立つとは)。
と皮肉な感じがした。
そして、健一はさと子の家にやっとの思いで到着し、玄関の扉を開いた。
さと子の部屋に行く階段は玄関の近くにあり、健一はさと子のママに挨拶もせず、脚を振って内履きのシューズを飛ばし、飾り物を落としたあの階段を力の限り登り、さと子の部屋に入った。
滑り台のてっぺんに丈夫そうな麻縄が繋がれていて、麻縄のもう一方の端はさと子の首を絞めつけていた。
さと子の足は健一の胸辺りの高さで宙に浮いていた。
その光景を見た時、健一の脳の中で、何かがプチッと切れる音がした。
健一はさと子の方に走り寄り、ジャンプして、さと子ごと滑り台に体当たりすると、滑り台はドオンと音をたてて向こう側に倒れた。
これで滑り台のてっぺんとさと子の首を絞める麻縄が、ピンと張っていた状態から、少しだけゆるくなった。
健一はさと子の首を絞めている麻縄の結い目に手をかけ、それをほどこうとしたが、なかなかほどけなかった。
2階の物音が聞こえたのか、さと子のママがさと子の部屋にやって来た。
さと子のママは健一とさと子を見て
「きゃあぁ~! 」
と金切り声をあげた。
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そこで、アルバムを見ていた18歳の健一は、乳幼児期の思い出から覚めた。
18歳の健一は乳幼児期のことが記録されているアルバムを、パタンと閉じて、掃除の続きを始めた。
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