ダンス・マカブル

春海水亭

布団の上でダンスを踊る私は天下無双


 布団の上でダンスを踊っていた。


 布団の上はやわっこいし、足場も悪いので、ダンスフロアには向いていないけれど、その代わりにダンスに失敗してコケても大したダメージはない、やわっこいので。それに、今の私の喜びを表すならば布団の上で踊るっきゃないと思っている。あと、リビングやキッチンで踊っていると家族から暴言を吐かれたり暴力を振るわれたりすることがあったし、玄関は狭いし、外で踊っていたら誰かに見られて恥ずかしい思いをするかもしれないので、やっぱり寝室の布団の上で踊るのが最高だ。


 ダンスの理由というのも色々ある。

 例えば発表会があるからダンスの練習をしなければならないというのもあるだろうし、単純にダンスが好きで好きでたまらない人というのもいるだろう、ダンスは嫌いだけれど消費カロリーが魅力的だからダイエットのために踊っているという人もいると思う。かくいう私はといえば、嬉しいから踊っている。自分のトラウマを刺激せず、街の噂にならないようにという配慮はしながらも、古代の人々がそうしたように熱狂に任せて踊っている。最高。


 私の喜びというのは言葉ではもう表せないぐらいで、なぜかと言えば私は作家さんじゃないから、言葉を扱うプロというわけでもないし、学校でもいじめられてもう嫌になってしまったから行ってなかったから、言葉を上手に使うどころか、そもそも上手く使えるかどうかも危うい。発話しようとすると、緊張して上手く喋れなくなってしまうし。だから、もう踊っている。私の喜びというのはもう身体で表すしかないのだ。


 今の私は天下無双の人間だった。

 親はアレだし、友達いないし、未来どころか未来につながるようなものすら持っていないけれど、今の私に匹敵するほど喜んでいる人間はいないだろうと思う。痛っ。布団はやわっこいけど、足場が今は本当に悪いのでついうっかりコケてしまった。でも、ちょっと尻餅をついたぐらいじゃ私のダンスは止まらない。この喜びを表現するために、そして今まで押し込めていた感情を表現するために私はもう踊っているというか踊り狂っているというか狂っているというか、もうとにかく必死こいて大はしゃぎだ。


 未来はないけど、過去は精算出来た!今は最高!今だけは最高!この瞬間だけ永遠に続けばいいのに、そう言いながらは私は布団の上で拙いステップを踏み続ける。


 いてっ。またコケた。


 布団の中がグズグズになっている。私のものじゃない血でいっぱいだ。

 布団の中から汚い液のようなものも漏れ出している。血はまだ綺麗な感じがするけれど、身体のどこからでているのかわからない液は本当に汚いけれど、それでも私はまだまだダンスを止めない。布団の上から布団の中を踏み続ける。


 私は踊り続ける。

 万感の思いを込めて、布団の中の親の死体の上で。

 いつまで続くかわからない死の舞踏ダンス・マカブルを踊っている。

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ダンス・マカブル 春海水亭 @teasugar3g

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