親も同然、子も同然⑤「桶末印のあの桶」
ハマハマ
親も同然、子も同然
くしゅんっ、て案外と可愛いクシャミしやがるねぇブランどんさんよ。
てかわたしもクシャミのひとつも出そうだよ。
なんつっても掛け布団なんて高級品、裏長屋住まいのわたしらには手が出ねえし、掛け布団代わりの綿入れさえもよ、寝相の悪いお前さんにぶん取られちまったしね。
さぁ四の五の言ってねえで腹
なに言ってんだ、お前さんが行かねえで誰が行くってんだ。
わたしは年寄り、
井戸に
古今東西天下無双、宮本なんたらに憧れてこんな小さな島国まで来たんだろうが。
さ、サクッと捕まえてきな。
よし、妖精はブランどんに任せておいてよ、末吉、お前さんには聞いておきたいことがある。
そう、それよ。
徳三の野郎はなにしてやがったのか、死んじまってから記憶が曖昧なのはしょうがねえがよ、お前さんなにか思い出した事はねえか?
なに? 思い当たる節があるだと?
ほう? 妖精は元々、お前さんちに棲みついてた気がする、だと?
ん? 家の方でなくって、空き家になった桶末の作業場の方?
なるほどなるほど。
なんとなく分かってきたな。
お栄ちゃんに出逢う前の末吉はたしかにチンケな、スリに精出す小悪党だった。
その頃のことをネタに徳三に
だから
♫ちゃーららっちゃら、ちゃら、ちゃっちゃらっちゃらっちゃらっ、ちゃっちゃらっちゃっ――って待ってました、これこれ。これ聞かなくっちゃだよなぁ。
どうやら妖精サマ、
ん? こいつか?
ブランどんが
この曲を口で奏でながらよ、狙った怪異と共にくるくる回って踊りながら――ヤツが言うには
ほら末吉も井戸の底覗いて見てみなよ、ブランどんの腰につけた灯りともう一つ、仄かに
しかしそんな小瓶に詰めちまって妖精サマは平気なんかよ? ん? ああ、確かに蓋閉めちゃいねぇのか。
心が通い合ったから逃げたりはしない?
ふーん、そういうもんかよ。
そんで妖精サマは末吉が死んだ原因知ってなさったか?
そうかよ。やっぱ徳三の奴か……
井戸端で徳三と揉み合った末吉が、力余ってかなにかで井戸へ落っこちて死んじまった、ってか。
まぁ証のあることじゃねぇ。
事と次第は御用聞きの権蔵親分の耳に入れるが、後のことは親分に任せるしかねぇかな。
そんで良いかい末吉? お前さんが望むなら、どうにかして徳三のやつに臭い飯食わす事だって出来なくはねぇと思うがよ。
そうかい? ま、それが良いや。復讐なんてしたって生き返るわけでもねぇしな。
じゃあ妖精サマはブランどんと一緒に旅立って?
末吉の方はこれであんじょう成仏できそうかい?
だよなぁ。そんな簡単じゃねえよなぁ。
そりゃわたしんとこに住み着いてたって構いやしねぇが……、ん~、どうっすかねぇ。
なに? そんなことできるって言ってんのかい?
ならそうさせて貰うかい末吉?
せっかく
ようブランどんに妖精どん、今日が旅立ちかい?
旅立ちには良い日よりだよなぁ。
土手みてみなよ、桜も満開だぜ。
そんでほら、あそこあそこ。
あの幸せそうに笑って桜見上げるお栄ちゃん一家もよ、お前さんたちのおかげだぜ。
思い出したら笑っちまうねぇ。
あの日の翌晩、妖精の小瓶にお化けの末吉もぎゅうぎゅう詰め込んで、わたしにブランどん、お栄ちゃんに平助にお千代坊。
みんなでお手々繋いで輪になって、小瓶の周りで♫ちゃーららっちゃら、ちゃら――で
小瓶の中でどんなお手伝いがあったか知らねぇが、スポンと飛び出したのは羽の生えた――うっかり「トリの降臨」なんて呟いちまったがよく見りゃよ、
ほら、今ちらっと見えただろ?
平助が胸に抱えた桶松印のあの桶からよ、ぽこんと頭を飛び出した、
あぁ、お栄ちゃんたちぁ大喜びだがよ、わたしだって嬉しいさ。
なんてったってよ、大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然、だかんな。
〈おあとがよろしいようで〉
親も同然、子も同然⑤「桶末印のあの桶」 ハマハマ @hamahamanji
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