【KAC20255 特別編SS】松原大吾の休日

宮沢薫(Kaoru Miyazawa)

松原大吾の休日

 土曜日の朝、松原大吾は眠い目をこすって布団から起きて片付けた。


 久しぶりのオフだ。


 何して過ごそうかな。スマホをチェックすると、天下無双庭園の事前ダウンロードが終わっている通知を受け取った。急いでゲームのアプリを開く。


 天下無双庭園は、ステラグロウゲームスが出した新作ソーシャルゲームである。戦国時代の武将の家臣になって、農園や牧場を経営する箱庭シミュレーションゲームだ。軍に所属することで仲間と協力し、他軍勢と戦闘して領土を広げる仕組みも整えられている。


 松原はグループ社員としてクローズドテストをした身だ。その時はテストとして織田家しか選べなかったが、正式サービスでは様々な武将を選べるようになっていた。アプリを引き継ぎ、徳川家を選びスタートさせる。


 野菜や牧場の食材はチュートリアルですぐ収穫できるようになっていた。タップして獲れるものは収穫していく。鉱山や海を選び、手下を向かわせて収穫するように手配する。資材などを加工したものを殿へ上納し、ステータスを上昇させることで親密度がアップする仕組みになっていた。


 お昼をすぎたころ、イベントのためアプリを再起動させるように促すダイアログが出てきた。指示に従うと、期間限定イベントのボタンをタップする。


「スタートダッシュイベント! ダンスで殿のご機嫌をとりまくれ!」


 なんだこりゃ。松原はなんのことだかわからず笑ってしまった。この時代ならダンスではなく舞ではないか。


 ところが、イベントの概要はリズムゲーム感覚で家臣がダンスをし、獲得したポイントでステータスと上納ポイントがアップする仕組みになっていた。たまに出るトリの降臨アイコンが出たらフィーバー状態になりポイントがアップする。


 画面では徳川家康が派手な服を着て扇子を持っている。


 シュールだが、こうしないとウケないのかな。プレイして面白かったら、久しぶりに兄へ連絡しておすすめしよう。そのためには今日は遊び尽くす。そう思った松原はスマートフォンを充電器に挿してリズムゲームに挑んでいった。


 夜、久しぶりに浜松にいる双子の兄から電話がかかってきた。近況を語り合ったあと、ゲームの話をすると電話口から大笑いしている兄と嫁の声が聞こえた。


「お前のグループ、よくくだらないゲームを作ったな」


 今はいかにダウンロードして長く遊ばせるかが大事なんだよ。口にはしなかったが、確かにと思ってビールを飲んだ。

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