第38話

side:勝村


どうやったら平倉さんが楽しめるか。

その事だけをここ数日考えていた。

そして、その数日は決して無駄なんかじゃなかった。


喜んでる演技なんかじゃないって分かるくらいに楽しんでくれてる。

それを見るだけで嬉しい。


他の友人や、家族が同じことしてても、へー、楽しんでるな。くらいなのに、なぜか嬉しいって思えてる。


…なんでなんだろう。


隣を歩く平倉さんを観察してみる。

ちらちらと、雑貨屋を見ている。

…行きたいんだろうな。

気を遣って言ってこないんだろうな。


「あそこ行こう。」


パアッって音がつきそうな位表情が明るくなる。


「行こうっ」


急な方向転換をして人にぶつかる。


「すいませんすいませんっ」


可愛いな。

普段しっかりしてるのに、動きがそそっかしかったり、抜けてるところがある。これがギャップ萌えか。


「だあー!」


急にそそっかしい面が出てる。出まくってる。こけてる平倉さんに手を貸す。なにを言えば良いんだろう。


「…そんなに急がなくてもいいんだよ。」


「うん。」


さすがに少ししゅんってなってる。

その手を引いて、雑貨屋に行く。

前を歩いてるから顔は見えないけど、喜んでる雰囲気を感じる。


…いつ手を離せばいいんだろう。手を離すタイミングを逃した。平倉さんがどこを見たいかまでは分からなかったので、歩く速度を緩めて隣を歩く。


平倉さんの手は、ほどよい力加減を図るように、少しだけ動いている。

今、私が手の力を緩めたらその手は離れるんだろうか。


力を緩めてみた。

指の間に指が入ってくる。少し太い私の指に、ひんやりした細長い指がスーッと入ってくる。

今、私、絶対へんな顔してる。

顔を少し平倉さんに見られないようにする。

なぜか誇らしげな雰囲気を感じる。


顔を見なくても分かるくらい分かりやすい人だ。

私にはそれがすごくありがたい。


チラッと顔を見ると、ムフーンって音が似合いそうな、誇らしげな顔をしてた。


楽しそうなら良いか。なんか、なんでも許せそうな気がしてくる。


平倉さんは、これが見たいというものはないらしく、全体を見てまわっている。


おっ、ちひかわがある。実は山下さんにTシャツを借りてから、シーザーについて調べて、少し好きになっている。


平倉さんはそんな私のようすに気づいたようで、ちひかわコーナーに手を引いてくれる。


「勝村って意外と分かりやすいよね。」


君もね。って返すと隠そうとし出すんだろうな。


「…言われたことないな。平倉さんは良く見てくれてるから分かるんじゃないかな。」


「そう。」


あら、シーザーは少ない。あいつ良いやつなのに。


「ねぇ、プレゼント買い合ってさ、交換しよう。」


「いいよ。いくらまでにする?」


軍資金は保護者の方からいただいた。なので心配はない。


「うーん、700円以内で。」


小物なら二個くらい買えるな。

ところで、


「…手、離さないの?」


「あー‥」


名残惜しそうに離れる。最初ひんやりしていたはずの手に、温もりがあったことを知る。


「買い物終わったら、もう一回繋ごう。そこの椅子集合で。」


「…勝村って長女? 弟いる?」


「そうだよ。なんで?」


「上位の長女だなって思った。」


「‥上位?」


「私、年の離れた兄貴しかいないから、一応長女なんだけど、弟のいる長女は、長女レベルが高い。」


「なるほど、よくわからん。」


「えーっと、とにかく長女感が強い。」


「はじめて言われた。」


「うん、学校ではそんな感じしない。」


「…おぉ。」


なんて言えば良いんだろう。


「じゃあ、またあとで。」


「うん。」

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