第37話

早めの時間帯で、まだ空いてる席はちらほらある。さっと席取りして座ることが出来た。勝村はかなり即決で蕎麦買ってきた。私は唐揚げ定食を買った。


「蕎麦好きなの?」


「うん。」


「一口もらっていい?」


「いいよ。」


自分の箸で蕎麦をつかみ、すする。

さすがにあーんはないか。まあ、蕎麦だし。蕎麦を一口もらうわけもわかんないし。


勝村はこちらの表情を伺っている。

戸惑いながら返事をする。


「美味しい‥よ?」


なぜこちらの表情を伺っているんだろう。


「つゆ、しょっぱくない?」


「…普通だけど?」


「そうか。」


「勝村って福岡生まれだったよね。だからじゃない?」


「あー、なるほど。私が今まで食べていたものが甘かったのか。」


「そんなしょっぱくないけど、勝村はどれくらいしょっぱく感じるの?」


「海草をちぎって口にいれたくらい。」


海草をちぎって口にいれたことがあるんですか?


「…それ海水くらいって例えで良くない?」


「海水よりはちょっとまろやかな感じ。」


海草をちぎって口にいれたことがあるんですね。




「…やっぱ子供の頃に食べるもので味覚って左右されるのかな?」


「おーん、好きじゃない食べ物は口にいれた瞬間からずっと好きじゃないけど」


「確かに。ていうか勝村嫌いな食べ物あるの?」


「うにとフォアグラと…」


「高級食材ばっかりじゃん。」


「なんか、クリーミーなやつとしょっぱいのは好きじゃない。それがたまたま高級食材だっただけかもしれない。」


「なるほど。でもさ、安い高級食材を食べたから美味しくなかっただけで、本物の高級食材買って食べたら美味しいかもよ。」


「本物のって‥安めのうにも、うにとして生まれうにとして育ち、うにとして捕獲され、うにとして調理されたんだよ。人間の価値観で図りやがって… 

…まぁ、たしかに安い高級食材よりは、普通の食材のちょっと良いやつ買った方が美味しいよね。」


うに嫌いなくせにうにに寄り添ってやがる。へんなの。


「そうだね。」


いつのまにか、蕎麦を食べ終わってる。私は唐揚げ定食半分しか食べてないのに。まぁ、蕎麦だからね。早いよね。勝村あんまりしゃべってなかったし。早いよね。


「・・・」


勝村は放っておくと、ぼけーっとしてる。なにか考えてるように見えるけど、多分なんにもかんがえてない。


「いつもぼけーっとしてるよね‥」


「趣味なんです。」


独り言のつもりが、この騒々しいフードコートでも聞こえてたようだ。


趣味なんや。


「趣味なんや。」


「ボケーっとすることで頭のなかすっきりせん?」


「ぼーっとすること少ないからわからないけど。」


「そうか。」


また黙る。気まずいとかはないんだけど。こういう人だってわかってるけど。


「ねぇねぇ、なんか面白い話ないの?」


「面白い話って言われて話す話難しいですよ。」


「そうだね。じゃあ、面白くない話して。」


「私はアレックサじゃないんよ。」


「…これは、3日前に、ドラッグストアに行った時の話です。」


スカッとジャパンみたいな始め方するな。


「紫の素敵なお洋服を身にまとったおばあさまが、私に声をかけてきました。」


「(声をお上品なおばあさま風にして)すみません、のどふ~るスプレー、どちらにありますか?」


「(もとに戻して)あぁ、こちらにございますよ。テクテク。」


「(声をお上品なおばあさま風にして)ありがとうございます。あらっ、あなた店員さんじゃなかったのね。」


「そのときの私の服装は、緑のシャツに、黒いズボンでした。」


面白くはなかった。

まあ、食べ終わるまでの時間は稼げた。


「よし、食器返却しに行こうか。」


「うん。」


凄まじいスルーをしたつもりだったのに、ノーリアクション。予想してたけど、ここまでノーリアクションだと、感情ないのではないかと疑いたくなる。


「カバン忘れてるよ。」


「えっ、あっあっあ、」


「ふふっ。」


笑った。すごくいい。

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