第35話
試着室から出たタイミングは私の方が遅かった。勝村は着物風のコスプレの袖に両手を突っ込んでいた。
「サイズがおっきいみたいだね。」
「大人が着るやつだからね、私にはまだ大きいよ。」
服のサイズはだいぶ大きいみたいだけど、武松義忠そっくりだった。まるで幼児化したみたい。
「ちょっと中身もなりきって。」
「アニメみたことないんだよ。」
「イメージイメージ。」
「…僕にはなにすれば良いか分からんです。」
「おほぉ~。」
僕って一人称解釈一致です。成長するにつれ、周りに影響されて俺になっていくんですよね。
「なんかせんといかんってのは分かるんですけんども、はっきり言ってくれんと、僕には分からんです。」
少し口を尖らせて言う姿はキャラそっくり。地味に方言混じりの敬語は、ちょっと違うかもしれないけど。
「なんで方言?」
「なんとなく、国司とか守護として、地方を任されてそうな顔だったから。」
「なるほど、防人的な? だから九州の方言?」
「九州の方言なの?」
「ぽくない?」
「分からない。」
「あの~‥」
先程からこちらを見ていた女性5人組が、話しかけてきた。長居しすぎたか。
「私たちも衣装着てくるので、一緒に写真撮ってくれませんか?」
確かに私たちのコスプレは、借り物とは思えないほどの完成度だ。そして彼女たちもなかなか素材が良い。きっと全員すごいことになるだろう。
「ぜひ!」
えがおで返事をし、五人を見送った。
‥勝村がなんかこちらを見ている。
そういえば、勝村に写真撮って良いか聞いてない。
「写真嫌だった?」
「ちがう、素敵だなって。」
「だよね~華やかで、雅。だけど着てて動きづらくないんだよね。」
「うん、すごく似合ってる。」
さらっとほめるな。微笑むな。
返事がすぐに返ってこないことを疑問に思ったのか、微笑みながら首をかしげている。ほめられなれてないんだよ!
「勝村も似合ってるよ。」
「‥ありがとう。」
言われなれてんのか? 言われなれてんのか!? あぁん!?
なんだその笑顔は、顔をクシャってする笑顔はじめてみたぞ!
くぅ~すごい好きだ。
照れながら顔をクシャってして笑う勝村に悶絶していると、先程の5人が着替え終わったようだ。
主人公、私の推し、元禄文化をもとにしたキャラ、北山文化をもとにしたキャラ、天平文化をもとにしたキャラ。
原作での絡みは少ないが、二次創作が人気のキャラたち。全員の完成度が高い。私の推しの完成度も高くてテンションが上がる。
「えっと、どういう並びで撮ります?」
「急いだ方が良くない?」
というわけで、適当に並んで写真を撮った。推しのリアルな写真が手に入った。ホクホク。
ん? 元禄文化のコスプレをした人が勝村にくっついている。勝村は少し驚いた様子だ。
まあ、原作での絡みもある、人気の組み合わせを意識したのだろう。だけどもやっとする。なんでだろう。私も推しキャラのコスプレした人と引っ付きたかったのかもしれない。
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