第25話 こんな時代に

あたし、渡瀬 未夢は、夏祭りに一人で参加し、神社の端でナンパされてます。

1人だし、断る理由はないんだけど、さすがに初対面の、見た目もタイプじゃない人とお祭りを回りたくない。

そしてたぶん、今の時代に、ただナンパをするわけない。きっと仲間がいて、隠れてみて楽しんでるんだ。


そろそろ、私は真ん中で踊らなきゃいけない時間なのに、なかなか逃してくれない。この金髪ツーブロック中学生が。


「ちょっと、行かなきゃ行けないんでー、またあとで。あとで。ほんとに戻ってくるから。」


「逃がした小鳥が戻ってくるわけないやんけ、というか、お姉さん、一緒に行ってもいいじゃないですか~」


こいつはなんなんだ。さっき走ろうとしたら追い付かれた。足も速いし体もでかいからもう逃げ場がない。

こいつ日本語も違和感あるし。キャラの方向性定まってないじゃん。


「ねえねえおに~さぁん。」


幼い声だ。

いつのまにか、くそおとこの後ろに、前髪を上向きにくくって、後ろ髪は下ろした、黒ティーにカーゴパンツの、小学校3年生くらいの女の子がいた。

くそおとこも、いきなり現れた女の子に、すこし驚いた様子を見せながら、優しく対応する。


「ん?どうしたんだい、迷子かな?」


「そのお姉さんナンパするの止めた方がいいよ。」


「…関係ないよね?」


すこしトーンダウンした。


「そのお姉さんのお父さんが誰か知らないの?」


「…?」


「…知らないの?」


黒い大きな目で見つめる。表情はないのに、謎の力がある。樹齢何百年の大木を見たときみたいな気分だ。


「‥おにいさん、もう、帰ろうかな、暑いし。」


「そうなの? おまつり、楽しんでいったらいいのに。 お友達に会えるかもよ?」


くそおとこは早歩きで帰った。


女の子は前髪をおろす。見覚えがある顔だった。


「…勝村さん?」


「…! 気づいてなかったんだ。」


遠くから平倉さんが歩いてくる。

階段からは、佐倉さんと上田さんがひょっこりかおを出す。


「え? ドッキリ?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー

side:勝村

「ねぇ、あれってさ、渡瀬さんじゃない?」


平倉さんが指差した方を見ると、金髪の男に行く手を阻まれる渡瀬さんがいた。


「…なんか、ナンパされてない?」


「ぽいよね。で、ナンパしてるやつ、空気読めないことで有名なやつじゃん。しつこいし。下手に関わったら面倒なことになりそう。」


平倉さんが言うってことは、相当なやつだな。

殴るのが一番速い。

でも、平倉さんに悪いように思われたくないな。


「ちょっと勝村、どこいくの?」


私は後ろ髪をまとめていたゴムで、前髪をちょんまげにする。

精一杯幼くする。


謎の少女からその人のお父さんヤバイよって言われたら、わけわからなくてもいったんやめるだろう。


上手く行った。


ドッキリではないことはちゃんと説明した。


「おまえだったら殴ると思って、隠れてたわ。」


「そうそう、茶さんなら殴り飛ばすと思った。」


「え? 勝村さんってそっちの人?」


「やっぱりそう?」


うん、まあ確かに、殴ろうかとは思った。

しかし、裏社会ではない。


「…んなわけ。」


「にしてもすごかったね、別人。」


「おまえ、ずっとあんままでいんじゃないの? 面白いから。 もっかいやってよ!」


「…いやだ。」


「えぇー」


複数人の声が聴こえたので、精一杯、リクエストにお答えして。


「さぁ いこう? おひめさまっ ‥踊らなきゃなんでしょ?」


「‥キラキラしてて腹立つ。」


おまえが一番熱望しただろ。


「つむにもやってよ。つむも踊るから。」


上手く断る理由が思い付かない。


「私もやってほしい。踊らないけど。」


踊れよ。役目じゃなくても。踊れよ。


「いや、まじさっきのビジュよかったわ。」


リアクション遅くない?

‥ありがとう。


今からそれぞれに反応するのはおかしい。現実でもリプライ機能がほしい。


「…はやく行ってきなよ。」


「あぁー、つむ、焼きそば食べれんかった~ ‥ともちゃんが射的したせいかも~」


「それは入り口に射的があんのがわりぃんよ。」


「責任転与歴代最長距離じゃん。」


ぐだくだしながらも、渡瀬さんと佐倉さんは中央へ向かっていった。二人は躍りのお手本を見せる舞姫だから、もっとはやく行かせられれば良かったなと思う。現に遅刻してる。


さぁ、焼きそば食べよう。

冷めたものを残してもな~と思ったが、一応残しておく。

たこ焼きは三個しか残ってなかった。上田さん曰く、佐倉さんが食べたらしい。信憑性はない。

なので平倉さんと二人で食べることにする。

ソースがあまりかかっていない上に、冷めていた。平倉さんはいらなそうだったので、私が食べた。素材の味がして美味しい。

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