第24話 好きな人。

side:平倉

焼きそばの列にならんだ。人口密度がさっきまでの比じゃない。

勝村がこちらを見上げて何か言う。祭りだと聞こえにくい。

私は、勝村に耳を寄せる。

でも、聞こえない。


「ごめん、聞こえなかったからもう一回いってもらっていい?」


すこし考えて、勝村はつま先立ちして顔を寄せてくる。はっきりした顔立ちの美人にはミスマッチな気もするが、可愛い。


「…焼きそばなんパック買えば良いと思う?」


ちょっと期待してしまった。なんパック… 4か2か、ってことか。


「4で良いんじゃない?」


昼食をとらないのなら、しっかり食べておくべきだ。


「…そうだね。」


会話が途切れて二人の時間が彷徨う気配。

気づけば列の先頭になっていて、焼きそばを買う。すぐに受け取れてしまった。神社の石段は、すこし距離がある。

必死で会話の種を探すが、何もない。夏休み学校もなければ、なにもしてない。勝村の好きなものも知らない。そうだ。


「勝村ってなんか好きなものあるの?」


「…ボーッとすることかな。」


うーん。広がる話題じゃないな。

ちょっと悪いことが浮かぶ。表情を変えないように意識しながら、


「好きなタイプとかは?」


多分ゆるふわ系だろう。勝村の友人には、そっちの方が多い。


「・・・。」


めっちゃ真剣に考えてくれてる。

ふと顔を上げて、こっちをじっと見た。


「…黒髪で、いい匂いがして、面倒見がいい人。」


「‥ん、そうなんだ。」


私の方みつめながら言うから、緊張した。内容は、誰か絞り込めるものじゃない。私かもしれないし、私じゃないかもしれない。


「…平倉さんの好きなタイプは?」


まさか、聞き返されるとは思っていなかった。勝村らしくない。


私の好きなタイプ…


意図せず、勝村の方を見てしまう。


私はこいつが好きなのかな?


ついつい目が吸い寄せられる。胸の辺りに不自然な動作を感じることもある。これが、胸をしめつけられるってことなのかな。


かっこよかったり、可愛かったり、思い通りにならないところとか

…これは尊いとかとは別の好きなのか自信はない。

二次元の推しと勝村は全然タイプが違うけど、本当に別の感情? 恋愛?


side:勝村

人だかりの中だと、私の声は聞こえにくい。私より10cm以上高い平倉さんには、さらに聞こえにくいだろう。しゃがんでくれよ、と思う。

平倉さんが、髪を耳にかけ、こちらにすこし体を傾ける。

いつも隠れている顎のラインが見えて、自分の瞳孔が開くのが分かる。きれいで、そのまま見つめていたくなる。


 平倉さんは、顎のラインがコンプレックスと話していたが、私は好きだ。芸術は分からないから、言えないだけで、この美しさを表せる言葉はあると思う。

耳をこちらに向けていた平倉さんが、こちらを向いて、


「ごめん、聞こえなかったからもう一回言ってくれる?」


しゃべるの忘れてました。

しょうもないこと言うだけなのに、申し訳ないから、次は確実に伝えられるように、あと近くで見たいから、つま先立ちして顔を平倉さんの耳元に寄せる。平倉さんはすこし驚く。


「…焼きそばなんパック買えば良いと思う?」


平倉さんは、ガクッとしながら、すこし考えて、


「4で良いんじゃない?」


と言う。すこし、ハスキーだけど高めの声。周囲が騒々しくても聴こえる。

この声も好きだ。


「…そうだね。」


そろそろ、列の先頭だ。

屋台には、『焼きそば』としか書かれていない。ソース焼きそば1種類のようだ。

…塩焼きそばあったら嬉しかったな。


自分たちの番が来た。

平倉さんがさらっと注文した。


なにもしないのならついてきた意味がないので、パックに詰められた焼きそばを受け取った。


さっきから何か考えていた平倉さんが、


「勝村ってなんか好きなものあるの?」


好きなもの…ないな。強いて言えば、


「…ボーッとすることかな。」


微妙な顔される。その表情のまま、


「じゃあ、好きなタイプとかは?」


…好きなタイプか、どういう意味での質問だろう。津田健次郎‥いや、 ‥恋愛だろうな。

こんなところでする話なんだろうか。

…好きなタイプ。ここで顎の話をしたら変だよな。ここで、あなたです。って言ったら、冗談にならずに、気まずいだろうな。


「…黒髪で、いい匂いがして、面倒見がいい人。」


すこしぼやかした。


「…ん、そうなんだ。」


平倉さんの視線があっちこっちに動く。

ぼやかして察されるくらいなら、いっそのことあなたですっていっておけばよかった。 なんてね。


真に受けてるわけがない。多分。

興味本位で聞いてみる。


「…平倉さんの好きなタイプは?」


めっちゃ動揺してる、あぁ、めっちゃ動揺してる。

普段、大人びてるようなのに、リアクションとか、子供っぽい。

語彙力はあるのに、その言葉を同級生が知らなかったりして、うまく言い換えられなかったして、言いたいことがうまく言えなくてうわーってなってたりする。

もどかしい。


私は鍛えられた長女スキルにより、言葉からなら、言いたいことを察して他の人に伝えることが出来る。

何も言われず状況から察することは出来ないけど。


平倉さんはまだなにか考えてる。


神社につく。まだ2人はいない。

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