第26話 一面

side:平倉

今日だけで、勝村のいろんな面を見た。今まで、一面しかないと思ってた。実は裏表あったりするのだろうか。


気になる。


焼きそばとたこ焼きを頬張っていた勝村は、食べ終わったようで、


「ごみ捨てて、2人の踊り見に行く?」


「おう! いこーぜー!」


2人は肩を組んで歩いていく。

勝村の自然体はこれなのかな。

上田さんは、大抵の人に対して、堂々と言葉遣いは荒い。勝村の友人にあんまりいないタイプだ。声が高くてどこかか細い感じがして、荒々しさはマイナスくらいだからかな? この全く気を遣われてないけど怖くない感じが良いのかな?


赤のカーディガンをきる上田さんと、緑のカーゴパンツをはく勝村。

ふたりあわせて、クリスマスカラー。


後ろを歩く私は、黒いワンピースに白いカーディガン。色がない。


今度緑色のなにか買おうかな。

勝村のメンバーカラーの深緑。


勝村は歌い手じゃないけど。


「うわっ!!」


上田さんが、急に大きな声を出す。

そして、勝村の後ろに隠れる。


「…おのれ、天敵がこんなところにも。」


と、上田さんは憎々しげに言う。

勝村は、全く驚きもしていない。慣れた様子だ。


「…踊り、混ざってきていい?」


「かばえよ! マイペースだな!」


「行ってきなよ。 上田さんも、私に隠れた方がもっと見えにくくて良いと思うよ。」


「…確かに。」


すそそと移動する上田さん。


勝村はすでに、踊りの輪にはいって踊っていた。


後ろから、親子の声が聞こえる。


「…あのひときれきれ~」


「ほんとだね。」


勝村は無駄にキレキレで目立ってる。


一緒に輪にはいらなくて良かった。


「‥あいつ、ああいうとこあるよな。」


いつのまにか、上田さんは横に立っていた。

隠れてたんじゃないんかい。


「ああいうとこって?」


「なんか、普段やる気なさそうなのに、こういうときに急に全力だしてくる。」


「確かに、面白いよね。」


「‥面白いなんだ。」


上田さんは微笑んだ。なぜ微笑んだんだろう。疑問に思った雰囲気を出す。


「…?」


「勝村はさ、良いところあるけど、自分で隠したりさ、すんじゃん。ひそかに人を笑顔にしたくて、犠牲払ってたりすんじゃん。 気づいてくれてるんだなって。」


「…ふーん。友達思いなんだね。」


「…ちげぇよ。あいつだけだよ。あいつ意外と分かりやすいから。ともでもわかんだよ。」


一人称『とも』は気になる。ついでに一人称『つむ』も気になってた。その法則を勝村に適応するなら、

上田 共基ともき→とも

佐倉 つむぎ →つむ

勝村 茶銀さぎん→さぎ

あっ、かわいそ。


話を戻そう。


「勝村とは何年くらいの付き合いなの?」


「つ、つきあってないよ?」


なんでそういう意味になるんだ。


「そういう意味じゃなくて、友達何年目?」


「あー、5年目かな。お互いに人見知りしなくなったのは2年目から。」


人見知り長いな。2人とも。私もそのくらい時間をかけねばなんだろか。間に合わないな。


「一緒に帰るとき、ともが勝負しかけて、返り討ちにあってた。なにかひとつでも勝てるものがほしくって挑んでたんだけど、何一つ勝てなかった。気づいたら仲良くなってた。」


どういう馴れ初めなのよそれ。

真似できないな。


「おっ、ともちゃんと平倉さん、いつ仲良くなったのぉ?」


佐倉さんと渡瀬さんと勝村が戻ってきていた。

とっておいた焼きそばを渡す。


「んー、お腹すきすぎて一周回ってお腹空いてないや。」


「あたしもいいかな。」


「勝村にあげといて。」


と言われ、勝村にあげると、5口で完食した。そして、ごみを捨てに行った。


「つぎなにする~?」


「あまいのたべようやぁ、いちご飴とか、かきごおりとか、綿菓子とか。」


勝村が戻ってきた。早すぎる。この人混みの中で。


「いちご飴、りんご飴食べたい人~」


渡瀬さん、佐倉さん、上田さんが手を挙げる。

私も食べたいが、財布にそこまで余裕はない。

食べるなら綿菓子かかき氷だ。

ただ、かき氷はうちでも食べられる。綿菓子だな。


「かき氷食べたい人~」


佐倉さんと上田さんが手を挙げる。


「綿菓子食べたい人~」


上田さん、佐倉さん、渡瀬さん、私、そして、勝村も手を挙げる。


「んーと、かき氷は溶けちゃうから、あとで二人で行くとしてぇ、いちご飴組とりんご飴組で分けたらいいね。」


「綿菓子消えてるよ。」


「あそっか、綿菓子組だ。」


佐倉さんと上田さんと渡瀬さんがいちご飴組。


私と勝村が綿菓子組だ。


2人で5個運べるかは心配だ。

まぁ、気づかなかったことにするか。


綿菓子の列はわりと空いていた。

安いのに。大人たちには甘すぎるんだろうか。


「綿菓子6個ください。」


…6個?


「勝村、6個?」


「うん。」


「2個食べるってこと?」


「うん。」


意外にも甘党なんだ。


「甘党なんだ?」


「酸っぱ党です。」


「甘いのめっちゃ食べてんじゃん。

そして、酸っぱ党ってなに? 地味に聞いたことないんですけど。」


「…甘党? 辛党? って聞かれるのおかしい、世の中にはもっといろんな味あるよ、って思ってるんだよね。だから、私は酸っぱ党を名乗ることにしています。」


「なるほどぉ…」


でも、


「絶対甘党じゃん! 裏切ってるじゃん。」


「…違います。これよりも大量に酸味を摂取しています。」


「これ砂糖の塊だよ? これよりも大量にって、食生活どうなってんの?」


「…問題はない。」


キリッ じゃないんだよ。

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