第23話 幸運

side:平倉

夏休みだるいな~

暑いし。塾だし。暇だし。宿題多いし。

さらに、私の二次元の推しは、毎週月曜9時配信。夏休み企画は、社畜なので2日間しか出来ないそうだ。

3週間の夏休みは私には長すぎる。


三次元の推しには、話しかけようと様子を見ていたら、ガシガシ予定を詰められている。かわいそう。私は入る隙がないのではないだろうか。勝村は勉強しっかりやってそうだし。と思って諦める。


私が外出するのは、お昼買うときと、塾と、毎年家族で行く祭りしかなさそうだ。勝村と会えるのは3週間後。


と思っていたら、ばったり夏休み中に出くわした。家族で行く夏祭りの会場で。


中学生にもなって、家族で夏祭りだなんて、すこし恥ずかしい気がするので、比較的同級生が少ない祭りを選んだのだが、勝村と、上田さん、つむちゃんが入り口付近の射的で遊んでいる。私は家族と分かれて、その場で3人を見る。


そこの射的屋は、番号がかかれた的を撃ち落とすことで、番号と対応した景品がもらえる仕組みだ。銃は、ハンドガンとライフル、2種類から選んで使えるのだが、勝村たちは、撃ち方が三者三様で面白い。


黒髪ショートで目付きの悪い上田さんは無課金おじさん。

優しい顔したつむちゃんは膝をついてスコープを覗き込んでいる。熟練の漁師の顔だ。

2人とも、的に当たっているのがすごい。


勝村は、ハンドガンを持ち、構えもせずに立っている。


どの景品を狙うか迷っているのかな。と、視線の先を探ると、いきなり、勝村の視線の先の的が倒れた。誰が撃ったのか分からない。勝村はさっきと変わらない様子で立ってるし、猟師は装弾してるところだし、無課金おじさんは、撃ち終わったようで財布と相談してるし。

誰も撃ってないような感じだ。


もう一発的にかすった。


私は勝村を見る。普通に立ってる。

勝村しかあり得ないんだけどなぁ、と思っていたら、動き出した。手首だけを動かし、腰の位置から撃つ。

さっきと同じ的が倒れる。


早打ち? なぜ? どこでその射撃精度とスピードを身に付けたんだろう。


勝村は景品の光る剣と光るサングラスを受け取った。


無駄に光らせて身に付ける。昼間だから明るすぎて見えない。


私は、3人に話しかけに、近くによる。2/3人は友人に近い知り合いなので混ぜてもらおう。


「ねぇねぇ、私一人なんだけど、一緒に回らない?」


「うん、4人の方が動きやすそうだし‥」


というわけで、快く混ぜてもらった。


上田「お前の景品全然羨ましくねぇな。」


勝村「…良いじゃん、ベカベカ光ってて。」


つむちゃん「ベカベカという擬音から不快感にじんじゃってるょぅ~」


上田「剣なんていつ使うんだよ。」


勝村「かっこよくない? 剣。」


上田「センス、小学生で止まってんじゃねえか! というか低学年男子!」


つむちゃん「茶さんだからね。これはしかたのないことなのだょ!」


勝村「私に何があるんだよ。」


上田とつむちゃん「何もない(よぅ~)。」


勝村「何かはあるから。」


流れるように会話していく。私が入る隙間もない。だが、聞いてて楽しい。


つむちゃん「二手に分かれて、焼きそばとか食べるもの買って神社前の石段しゅーごーしよ?」


私「どう分かれる?」


つむちゃん「つむはぁ、ともちゃんと! たこ焼き行ってくるから、優ちゃんと茶さんは、焼きそば行ってきて~」


ナイスだつむちゃん! ありがとう!

私の気持ちを察した訳じゃなく、上田さんと勝村は心配な組み合わせだったんだろう。しっかりしてそうで、してないから。そして、私と上田さんは気まずいだろう。というのを一瞬にして考えて、提案ではなく、決定事項として伝えるしごでき!


こうして、合法的に勝村と二人になった。

違法なことはないだろうが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る