第16話 ところで

二人きりになると、平倉さんは、私にこう尋ねてきた。


「‥で、何があったのか、聞いても良い?」


そう聞かれることは、分かっていた。

有無を言わさぬ真剣な表情。助けてもらった手前、説明する義務はある。

ただ、私にも何があったのか、良く分からない。誤解が生じたりしないように、山下さんが戻ってきてから話そう。重々しい空気になりそうで、嫌だな。


「山下さんが戻ったら、話そう。」


side:平倉

忘れかけたことを尋ねる。


「‥で、何があったのか、聞いても良い?」


優しく聞こえるような言葉選びをした。が、声も表情も固いのが、自分でも分かる。空気が悪くなりそうで、嫌だな。

でも、これは絶対美姫が関係してる、そして、たぶん私も。

勝村は、物憂げな表情を浮かべ、思案しているようだった。100人中、78人が魅了されました! と、私の脳内のコマーシャルが流れる。


「山下さんが戻ったら話そう。」


真っ直ぐこちらを見つめ、返事をする。

超至近距離だったので、思わず恍惚のため息を吐くとこだったが、こいつ布団にくるまれているんだったと思いだし、こらえた。


30分、30分で話を終えよう。

30分後は、勝村の服が乾く頃だろう。

無駄に怒ったり、泣いたりしない。落ち着いていこう。

そう決めて、勝村を布団越しに抱いたまま待つ。


talked by: 山下

優の匂いを再現した洗剤。勝村の制服を洗うときにも使った。良い香りがする。

お母さんもすごい気に入ってる。

うわ、自分でも分かる。気色悪い。

匂いの再現て‥やばいな。

まあ、ばれてなければすべてよし。

その場から何となく逃げるように階段を昇る。

今日階段上ったり降りたりしてたいへん良く眠れそう。

部屋に戻ると、2人が顔を向けあってる。


「おっ、戻ってきたね。 それじゃあ、話してもらおうか。」


「…その前にやっぱ布団から出してもらって良い?」


勝村がぼそっと言う。ずっと言いそびれてたのだろう。

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