第10話 自省
side:山下
とりあえず、ふたりを二階へあげる。リビングは生活感がありすぎる。さっきも色々、ものを蹴りいれた。きっと見れたもんじゃない。
それに、自分の部屋は、使っていないから、きれいだ。なにか物をとり出す気にも、物を増やす気にもなれず、ずっとこのままだ。テーブルとベットだけ。
うちは玄関の横に二階への階段がある。このときほどこれがありがたかったことは、これから先もないでしょう。
リビングに積み重なっている洗濯物から着替えを引っ張り出して、ガスの電源をいれる。二階へ勝村を呼びに行く。
勝村は、優にタオルでちからづよく、わしゃわしゃされている。
「‥自分でふけるよ。」
「あんたさっきそういって軽く拭いてすぐやめて‥ ほぼ拭いてないみたいなものじゃない!」
「…床は濡れないようにしました。」
わたしは、自分の声がゆっくり、ふんわりした声になりますよーに。と願いつつ、声をかける。
「‥勝村ぁ、シャワー浴びなぁ。」
うん、いつもの声が出せたと思う。
少しの嫉妬も、羨望も出さずに、隠し通せたと思う。みーはえらいさんだもん。
勝村は少し迷って、少し明るい顔して、何かに気づき、暗い顔をした。そして申し訳なさそうに言う、
「…手錠があって、服が脱げない。」
…また、忘れてたぁ。なんでだろう。罪悪感を感じろよ。わたし。
「学校! 鍵! 取り行ってくる!」
「え? 美姫、同じ手錠もってなかったっけ?」
「優の家に忘れたまま!」
そう言い残して、部屋着のまま数段飛ばしで階段を降りる。
勝村はわたしのことをチクりはしないだろうな。
なにかあっても勝村がずれたフォローと、真っ直ぐなにかを見据えるような眼差しで、何でもかんでも、なにがなんでも正しくしてくれるだろう。
わたしがしたかったのは、わたしを正当化することなのかもしれない。
ちゃんとした人になりたくて、 なれなくて。
でも、いつもちゃんとしてる優が甘えてくる時、甘やかしてる時だけは、わたしが優以上にちゃんとしてるように思えて。
たぶん、わたしはあやまったことすらない。だめだなぁと感じる自分が、わたしのなかで大きすぎて、プライドが言わなきゃいけないことを言うのをじゃましてることにも気づいてなかった。
帰ったら謝ろう。すべて。何も変わらないのかもしれないけれど。
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