第8話 雨の日に
talked by:勝村
山下さんは帰ったけれど、手錠をかけられたまま、なんですけど。立ち上がれすら、しないんですけど…。
この状態で、先生に見つかったら話を聞かれて面倒だ。
しかし、この時間には、もう、先生しかいないだろう。 諦めるか。何度か脱出に挑戦したが、さらに深く沈んだだけだった。
諦めて中庭を眺める。名前も知らない花しかない。あれは、葉脈が平行だから単子葉類。茎を切ったら維管束バラバラに配置されてるのかな。見えるかな。
しばらくそんなことを考えていると、さらさらという効果音をつけたくなるような雨に降られた。
空気がしっとりひんやりして、雨の匂いが強まる。夏だな。
side:平倉
図書委員の仕事を終えて、教室の置き傘を取って、長靴を履いて帰る。てきとうに履いてきた長靴だけど、雨が降って良かった。
せっかくだから、中庭の水溜まりにダイブして帰ろう。
長靴でしか出来ないことやろう。
中庭の入り口(?)にたつと、犬の像が見えた。問題児の大門寺がつけた赤い首輪がよく似合う。
‥今度、冗談のふりして勝村につけたいな。(真顔)
どんな反応をするだろうか、意外と乗っかってくれてワン!ご主人様って言うんじゃないかな。
まぼろしか。
なぁんて、 ひそかに、ひそかに考えていたら、その像の左下にびしょびしょでしゃがみこんでる人がいる。失恋かな~と、傘を差し出すと、その人物はゆっくりこちらを見上げる。
「…平倉さん? どうして、こんな時間に、こんなところに。」
それは、まさかまさかの勝村だった。
その手にはなぜか手錠をつけている。
「何事!?」
「・・・。」
「いや、なんか言えよ!」
「分からないよ。」
勝村は何か考え始めた。度々苦いような表情をする。いいづらいのだろう。まぁ、洗いざらいはかせるつもりではあるが、このままでは夏とはいえ風邪を引くので、どうすべきか考えよう。
保健室は先生が生徒が帰る一時間前に帰るという働き方改革どころじゃない場所。ということで開いてない。
職員室は、多分事情を聴かれることになるので、つれていくのはかわいそう。
私の家も勝村の家も、二人とも自転車通なので、十五分以上かかる。
あの子の家でいいか。走れば2分。部屋のインテリアのセンスもいいし、いつもきれいだ。
そして、多分同じ手錠を持ってるから鍵を開けることが出来る。
「勝村!来い!」
腕をつかんで引っ張る。勝村は勢いよく引っ張られ、驚いた顔をする。
なめるなよ? 美術部の右腕の腕力を。大量の本を運ぶ図書委員としての力を。
本当はおんぶやお姫様抱っこがしたいけど、さすがに無理だし、拒否されそうなので、走っていく。跳ねる泥が勝村にかかっても気にしない。すでに汚れてて手遅れだろう。きっと、彼女も気にしない。
一応、泥が跳ねないように、庭石の上を駆け抜けていく。
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