第6話 家庭科

talked by:勝村

今、家庭科の時間ですが、隣で友人が、走れメロスでBLを作っている。


「でさぁ、セリヌンティウスはメロスのせいで自分が死んでも、自分の死がメロスが自分を忘れないための枷になったら良いと思っててさー、でも、最後の場面でメロスが自分を死なせないために走ってくる姿を見て、愛する人のために全力で生きなきゃってなったらさー、てぇてぇ。」


「この熱い友情物語で出来る創作力すごいよ。」


これは、からかいではなく本心だ。


「別パターン聞く?あと…23個は出来るよ?」


多いな。


「…グロいのは無しでお願いします。」


「じゃぁぁ、そうだな~邪智暴虐の王ディオニスがさー、 あっ、そういえば、 おまえの声質が私のイメージ通り過ぎて授業中ディオニスのセリフは頭の中でおまえの声でやってた。」


・・・邪智暴虐の王みたいな声してんのか、私は。

ミシンの上糸と下糸をセットするのに苦戦しながら、憂う。 

声変わりとか来たらあれだな、魔王だ。

すると、突然後ろから声がした。


「ね、なにやってんの?勝村?私がやってあげようか?」


平倉さんがいつのまにか私の背後をとっていた。思わずビクッとなってしまい、恥ずかしかったので、顔を背けながらうなずく。


「ふーん、やっぱり作業系、苦手なんだね。」


少し疑問に思った。友人も同じように感じたようで、


「へぇー、やっぱり、なんだ。家庭科得意そうって、こいつよく言われてる気がすんだけど。」


「まぁ、勝村は静かだから。 静かな女子って生活力高そうじゃん。まあ私は勝村の不器用さ、知っちゃってるからね。」


ふと、今までの申し訳なさがよみがえる。


「…自分、不器用ですから。期待してくれた人に申し訳ないとは思ってる。」


ずっと私は私のままだ。どう変わりたいという選択肢すら知らない。


「んー? 勝手に期待した方が悪いと思うよ?」


「先入観は人間が生きていく上で必要だから、今の今まで残ってるって国語の問題文にかいてあったよ。だから悪いもんでもないけどさ。たかだか先入観だよ? おまえはおまえのままで良んじゃない?」


ネガティブに対するフォローが入る。しかし、私が私のままではいやなのだ。とは、思いつつ。


「ありがとう。」


と微笑んだ。

二人ともなぜか唖然としつつ、作業に戻る。心を読まれたか?

急に静かになったのが不安で、何か話を振った方がいいかと考え、さっき疑問に思ったことを口にしてみる。


「BLがあるのは知ってるけど、女性同士ってあるの?」


不適切な話題だったようで、一瞬時が止まる。数秒後、友人が、


「あるけど、私はあんまり好きじゃないかな、なんか、リアルにあると考えると、ちょっと… 気持ち悪い。」


「…そっか、あるにはあるんだね。知らなかっただけで。」


「最近は多様性の時代だから否定的なことをいうのはよくないんじゃない?」


「いや、好きじゃないってだけね。」


「…こういう好みも認めるのが多様性だよね。」


静かにうなずく二人。

地味に喧嘩になりそうになったが抑えれて良かった。

やっぱり趣味の話に熱くなれる二人だ。

うらやましい。私にはそういう熱くなれるものがない。このままじゃ駄目だと思う気持ちだけが私の中に残ってしまった。


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