不幸、売ります5~「天下無双」「ダンス」「布団」~

秋犬

「天下無双」「ダンス」「布団」

 呪い屋に頼めば嫌な奴を呪ってくれるという話を聞いて、僕は相談してみることにした。


「それで、こいつを呪えばいいのかな?」


 呪い屋が使うのは、呪いたい奴の写真。それの裏に住所と名前を書いて呪い屋に渡すと、そいつにろくでもないことが起こるらしい。


「うん。いじめのリーダーなんだ。ぶっ殺してよ」

「殺すなら料金は特上。最低10万円かかるよ」


 10万円なんて、とっても僕には出せない。特上、上、並の三段階だっけ。


「それより下は?」

「上なら、5万円。並なら3万円」


 僕が考え込んでいると、呪い屋が話しかけてきた。


「一体こいつにどんなことされたの?」

「僕は何も」

「何もされてないのに呪うの?」

「呪っちゃいけませんか?」


 だってこいつはクズだ。体育祭のダンスで間違えた奴を今でもいじってる。僕が不快だって訴えても、これは弄りであっていじめじゃないとさ。いじめられてる本人もヘラヘラしてるだけで、訴える勇気がないらしい。それなら代わりに僕が成敗してやらないと。


「まあいいけど。じゃあ並ね」


 その後いじめっ子は自転車でコケて顔面を負傷して、今でも布団を被っているらしい。いい気味だ。それなのに、いじめられっ子は僕のところにお礼も言いに来やしない。なんだか腹が立つな。


***


 僕は次の依頼を呪い屋にすることにした。天下無双とかいう暴走族のリーダー。このクズが消えれば、快適に思う人が増えるはずだ。


「あのさあ、それで君はこいつに何をされたの?」

「別に。でも、こんな奴いないほうがいいんです」


 その後、暴走族のリーダーは事故を起こして引退したそうだ。金を払えば、僕の気に入らない人はどんどん消えていく。いいぞ、もっとやってやろう。そうすれば快適な世の中になるぞ。


***


「こいつを呪う理由を聞かせてもらっていいかい?」

「世界を浄化するためだって言って、いろんな奴を恐喝して回ってるんですよ。金があれば人を消せるからって。俺も強請られました。どうか頼みます」


 料金は特上。費用はカンパで集まったという。


「すごい怨念だね、数の力には勝てないや。他人の恨みを肩代わりしてスカっとしようだなんて、やっぱり虫がいい話なんだろうね。じゃあ、依頼は受けておくよ」

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