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「笹本」

「何?」


笑ったことを咎められるのかと、私は顔を真面目モードに引き戻す。


関君は私のことを苗字で呼ぶようになったんだ。

最初は「君」だったのに。

どうやら関君は名前を呼ぶことに躊躇があるらしい。


他のクラスメートのことも大抵「君」と呼んでいる。

名前を覚えていないのかと思って関君に聞いてみたら、同学年の他クラスの人まで名前は把握しているらしい。

だから、単純に人と適度に距離を取りたいから名前で呼ばないんだな、と私は思っている。


深くまで踏み込まず、遠すぎず近すぎない距離感を好む人。

そういう性格なんだなって、関君の色々なことがこの数日で見え始めてきた。


多分私なんかが思っているよりもずっと頑張って、関君は私との距離を詰めてくれたんだと思う。



「頼むから、トイレの中で呪術を使うのはやめてくれよ。監視役の俺が行けないところで呪うのはズルいからな」

「だから、私そんな変な技使えないってば」


生真面目すぎる関君が「ズルい」と拗ねたように呟く姿がどこかチグハグで。

私は苦笑しながら訂正をする。


関君の中の私は限りなく黒に近いグレーの、魔女候補らしい。

でも、まあ最初の時よりはその灰色は白色に近づいているようだから、ゆっくり誤解を解いていこうと思うんだ。



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