第18話 幸せの正体

家の扉を閉めると、瑛二はどこか別の自分に出会ったような、不思議な気持ちに包まれていた。帰宅後の薄暗い部屋で、彼は静かに座り込み、さっきの出来事を噛みしめる。普通の人が望む夢ってどんなのだ?――例えば、大富豪になり、数多の女性に囲まれる煌びやかな生活――などが、頭をよぎる。しかし、その現実を手にしてもきっと、虚しさと喪失感しか残らないことは容易に想像できた。


「ほんの些細なことなのに、これが幸せか…」


そう呟きながら、瑛二は天井をぼんやりと見上げた。幸せというものは、ただ手に入れるだけでは意味がない。経験によって受け止められる幸せの量も変わる――それは、紛れもない事実だった。


そんな考えにふけっていると、スマホが急に振動した。画面を見ると、渡邉からの着信だ。少し戸惑いながらも、瑛二は電話に出る。


「もしもし、瑛二くん。楽しんでくれてるかな?」


「…こんにちは。」


「今、幸せ?」


「そ、そうですね。幸せなのかもしれないです。」


「そうか、よかった。注文された内容が『幸せになる』っていうことだから、具体的に何が起こるかとか、どんなことができるかは言えないけど、残りの28日間もぜひ楽しんでほしい。それじゃ、また。」


電話が切れると、彼はしばらくその言葉の余韻に浸った。残り28日間――この幸せも、いつかは終わる一時のもの。梨花さんも、悠斗も、そして自分自身の今のこの瞬間も、すべてが一時的なものなのだろう。そんな現実を受け入れなければならないと同時に、これまで何度も逃げ続けてきた「自分の幸せ」と向き合うことが、今こそ重要だと微かに感じていた。


これまで、誰かに優しくされた瞬間にすがり、誰かの言葉に自分の存在を見出していた。自分から動いて何かを掴み取ろうとはせず、ただ待っていた。誰かに引き上げてもらうのを……。


気分転換に、スマホのゲームアプリ「火影伝説」を開いてみる。ガチャチケットがひとつ、未使用のまま残っていた。タップすると、巻き物が光る演出が始まり、キャラクターが召喚される。


…テレレレレン…シューーーーーーーーー


………結果はSRの朱雀というキャラだった…。このゲームでは最高ランクのURを狙うのが醍醐味だが、瑛二はすぐにその演出の儚さに気づく。


「こんな暇つぶしでURを引き当てても、俺の幸せにはならないんだな…」


画面の煌めきと共に、ふと遠い記憶のように蘇る。彼が交わしたあの契約――幸せになることが目的だったはずの、あの痛みに耐えた日々――それは、外部から与えられる幸せではなく、自分の内側から生み出すべきものだという確信へと変わっていた。


ふと、まぶたが重くなり、ウトウトと意識が遠のいていく。


瑛二は眠りについた。

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ペナルティ・デッド・ハピネス リヴ @rivunosyousetsuka

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