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オルブライト学園。帝国最大の学園であり、優秀な魔術師や騎士を多く輩出する学術機関である。学園長は、大陸に名を轟かす魔術師のデュカス・ラトーレンが務めている。過去に魔物が世界に溢れたその時、前線で最も活躍した魔術師の一人である。
亡くなるまで前線で戦うと思われていたが、十年前より加齢を理由に後輩の育成に専念したいと皇帝陛下に申し出、これを受け入れられたという。
「ううむ。今年も何とも受験人数が多いですなあ。これは誘導や整列など試験に関わらない部分を生徒にお願いする必要があるかもしれないのう」
蓄えた白鬚を撫でつけながら、手許の名簿の量にデュカスが唸る。その言葉を受けて、シャウルは持参した別の名簿をデュカスに手渡す。
「そうおっしゃるとおもいまして、こちらに生徒の名簿を準備しております。彼らは人間性、判断力も十分な成績優秀者です。貴族、平民どちらに対しても平等に接してくれるでしょう」
「おお。さすがだな、シャウル君。助かるよ」
一昨年、成績だけを参考に生徒に受験者の誘導をお願いした所、貴族主義の生徒がおり平民の受験者と衝突し一時的に実技試験が中止になってしまったことがあるのだ。
お互いに殴り合いにまで発展したため、受験の受付は一時停止。勿論、問題を起こした生徒は停学、受験者は不合格とされた。今回はそのような事態が起こらないようにしたいと教師の誰もが考えるだろう。シャウルもその一人だった。そのため、生徒の性格まで考慮し名簿を作成したのだ。
デュカスが渡された名簿に目を通す。その視線が止まるのを待って、シャウルはデュカスに声を掛ける。
「いかがでしょうか?」
「うむ。この子達なら問題なく役割をこなしてくれるだろう。ただ、やや貴族出身の生徒が多いのではないかね?」
「今年は貴族の受験者も多く、平民が相手だと知ると馬鹿にする態度の者が出てくる可能性があります。そのため、今年は貴族出身の生徒の動員を多くしているのです」
「ふうむ、成程……」
そう多くはないが、一部に貴族主義の人間はやはりいる。一昨年の衝突もそれに起因している。貴族には貴族の生徒を、平民には平民の生徒を対応させた方が良いのではないかとシャウルは考えたのだ。
「それでは、まず先生方に声をかけ、分担して生徒達に手伝いの依頼をしてもらっても良いかね?」
「分かりました。丁度今日は職員会議がありますから、今日の午後先生方には私の方から依頼をしましょう」
「よろしく頼むよ、シャウル君。全体の総括は君に任せるが、何かあったら遠慮なく儂に声をかけて欲しい」
「はい。ありがとうございます、学園長」
「今年は公子も受験される。警備の方も抜かりないようにな」
「念のため皇室より密かに護衛が配置されると聞いておりますが、学園の警備と合わせて万全の体制で臨めるように打ち合わせをしておきます」
「そうじゃな。まあ君は何年も入学試験の運営をしてきているから、そんなに心配はしておらんのじゃが。もしもの事があってはならんからの」
「その通りです」
皇都にあるオルブライト学園で有事が起これば、すぐに皇帝の耳にも入る。そしてそれは帝国民の不安にも繋がる。皇帝のお膝元ともいえる学園で事件が起こったとなれば、学園が批難を受けることは間違いない。
「それでは、私は準備がありますので。これで失礼いたします」
「ああ、滞りなく頼むよ」
デュカスの言葉に頭を下げて、シャウルは学園長室を後にした。
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