隠世に引きずり込む夢

ハルカ

※閲覧注意

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 どうして忘れていたのだろう。自分は最近ずっと同じ夢ばかり見ている。夢の中でそのことに気付き、夢から覚めたベッドの上で呆然とした。

 時刻を確認する。

 深夜1時半を過ぎたところだ。まだ2時にもなっていない。

 今眠ってしまったらきっとまた同じ夢を見てしまう。眠りたくない。へ戻るのは嫌だ。


 真っ白な壁紙の部屋。夢の中で私はいつもそこにいる。

 長机とパイプ椅子、ホワイトボードがあるだけの、どこかの会議室のような場所。

 そこに集まっている人たちは住んでいる地域も性別も年齢も違う。けれど共通しているのは誰もが“神の祟り”を恐れていることだった。

 みんな絶望の表情を浮かべ、でも死にたくないから「“神の祟り”について」「“祟り”を避けるにはどうしたらいいか」「そもそも“神”の目的は何か」を真剣に話し合っていた。

 それだけ人が集まれば「神なんていない」「祟りなんて馬鹿バカしい」と言う人がいたって不思議じゃないのに、その場にいる全員が“神”の存在や“祟り”があることを確信していた。


 私も当事者としてその会議室にいた。

 でも何故か、目が覚めるとそのことを忘れてしまう。夢の中だとはっきり覚えているのに。

 夢の内容はいつも“神”についてのことだった。

 “神”の正体はよくわからない。本当に神なのかどうかもわからない。

 最初は、ネットでちらっと噂話を見かけただけだった。なんか変なツイートがあるなと思っていた。そしたら、タイムラインにどんどんその話が流れてくるようになってしまって、そのうち「誰かが行方不明になった」という話が流れてきた。


 私が夢を見るたびに、誰かが1人、また1人と神隠しのように消えていった。

 少しずつ、“神”がこちらへ近付いてくる気配を感じた。

 ▯度目かの夢でようやく自分がこの話題に深入りし過ぎたことに気付いた。でも、気付いたときにはもう遅過ぎてしまった。もともと“神”のことを知ってしまった時点で手遅れだったのかもしれない。

 誰にも相談できなかった。どうしたらいいかわからなかった。まるで死刑宣告されたみたいな気分だ。


 “祟り”への対策を考える集まりがあると知って、思い切って参加することにした。そこには思ったよりもたくさんの人がいた。多いときで10人くらいいたと思う。

 でも、有意義な案は出てこなかった。

 警察だってこんな話は信じないというか、たしか「相談したけどダメだった」って誰かが言っていた。……そうだ、思い出した。みんなで話し合って、お祓いとかお札とか塩とかお神酒みきとかあらゆる手段を尽くして、それでも何も変わらなくて、人はどんどん減っていくし、どうしたらいいかもう途方にくれていた。

 その“神”がどういう神様なのかわからない。どこの神社に祀られているのかもわからない。ただその“神”がどこかに存在しているということしかわからない。

 祟られたくない。に連れて行かれたくない。死にたくない。逃げたい。私もみんなも、そればかり考えていた。

 でも、会議室で怯えているだけの頃はまだマシだったのだと後から気付いた。


 9回目の夢で、気付くと私は寂しい場所にいた。

 鬱蒼とした雑木林で、足元には落ち葉が分厚く積もっている。それなのに誰も踏んだ様子がない。近くには舗装された道路も電柱も建物もない。

 足元の道は弧を描くように右へと曲がっている。奥に行くほど薄暗くなっていて、空気がうっすら黒く見えるほど禍々しい気配が濃厚に漂っていた。

 ここはもう、人間が暮らしている場所じゃなくて、“神”の領域で、世界中のどこでもない場所なんだなと直感的にわかった。


 道の奥へと進んでいったら、きっとそこには“神”がいる。

 そう確信するほど強く気配を感じる。直接姿を見なくてもこれほど強く存在を感じるなら、“神”の姿を直接見てしまったらもう元の世界に戻ることはできないだろう。戻れたとしても、気がふれているか祟られているかのどちらかだ。


 足元の落ち葉に、血がべっとりついている。

 その血はまだ乾ききっていない。きっと私の前のにここへ来た人の血だ。

 その人が死んだのか、『神』に連れ去られたのか、それとも気がふれてしまったのか、それはわからない。

 ただわかっているのは、ということだけ。


 理不尽で仕方がなかった。自分がここに呼ばれた理由もわからない。

 神社に行くときは作法に気を付けているし、罰が当たるようなことをした記憶もない。

 帰りたい。それなのに、帰り道はどこにもない。

 震える足で、必死になって帰る方法を探す。“神”に遭わないように、見つからないように。恐怖のあまり手足は血が通っていないかのように冷たい。


 気付けば目の前に作リかけの家があった。

 木の枠組みだけできていて、屋根や壁はまだ無い。少し独特な造りをしている。

 ここに神社を建てるんだな、ト思った。

 私はここで“神”のため二それを手伝わなくてはいけない。それがここへ連れてこられた人間の役目で、それをうまくできなかったリ少しでも“神”の機嫌を損ねたりすレば祟られるか、命を取られるか、“向こう側”の世界へ連れて行かれて二度と帰ってこられない。

 誰にも説明されなクても、その場にいるだけでそういったことガ頭の中に流れ込んできタ。


 私は目の前にある木の柱を黒ク塗らなくてはならない。どうしてそんなことをするノかはわからない。でも、それを し なくてはならない。ふと見ると、手元に鉛筆があった。仕事でいつモ使ってるや

 つだ。かなリ大変だけどこれで黒く塗るしかない。他に道具はない。私は必死に塗った。たったI本の鉛筆で、木材の端から、ひたすら塗る。一本で足リるだろうか。足りなかったラどうなるのだろう。この役割をまっとうでき

   なかったら。どうなって死まうのだろう。怖い。すごく怖い。私は死んでしマうのだろうか。なんで私が選ばれて死まっ     たんだろう。恐怖のせいか体が重くて、思うように動かない。本当はコんなこト、やりた苦ない死、帰りタい。でも帰り方はわからナい。必死に塗る。手が痛い。謇九′逞帙>縲


 恐怖二震えな

   がラ目が覚め多。

 暗がりの中デ私は た  ダ茫 然とする。

 そして、その夢がも うキュウ回目だということ

   に気付く。身体 ノ      震えガ止まらない。

 暗い部屋の中で、     私の両手も真っ

  黒二見えル。明ヵりをつ

         けたいのに菴薙′蜍輔°縺ェ縺イ。


 時刻を遒コ 隱ス儿    。

 深夜1 時半ヲ

     過ぎたト殺だ。

        まタ”▯時 に もナ   ってイ なイ。

  丑■ッ時ハ こレかラ

           やッ て来   ル 。

  夢ハまタ”終 ワってい ナイ。

      今まで  に▯回 も見 て

        いるノだから、  きッとま 多同じ 夢を見る。

    あノ夢はまた遘ヲ 隠世かくりよ

    ヘ連 レて行  苦タ” ロう。

  眠りた苦なイ 蟇昴k縺ョ縺怖い。

 こわィ、コワい  、怖い、怖

       い、こ わい、   諤悶>、……。

 またあ

   ノ夢に引

     きずリ込まれタ

        ら……。

  どゥ 死 多ら ヨ井 のか

      ワからず、 

         騾 疲婿 縺

               ォ縺

      上l繧

 布

    団

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