第1章:目覚めの時間
目を覚ますと、天井があった。
淡い色の天井だ。
しばらく、そのままでいる。
どこかで、時計の針が進む音がしていた。
体を起こす。ベッドが小さく音を立てる。
床に足を下ろすと、冷たさが伝わった。
立ち上がり、部屋を見回す。
大きな箪笥と机、椅子。
表面には細かな傷があるが、埃は見当たらない。
窓の方へ視線を向ける。
厚手のカーテンの隙間から、昼過ぎの光が差し込んでいた。
その向こうに、庭が見える。
石畳に沿って、低いアーチが連なっていた。
絡みつくように伸びた蔓の先に、薔薇が咲いている。
用意されていた服を手に取る。
布地はしっかりしている。
袖を通し、ボタンを留める。
襟を整え、腕を下ろした。
身支度を終えたところで、扉を叩く音がした。
「失礼いたします」
少し間があって、扉が開く。
老いた執事が、静かに立っていた。
白髪は整えられ、背筋はまっすぐだ。
動きに無駄がない。
「お目覚めでございますね、坊ちゃま」
「朝食の準備が整っております」
返事をする前に、一拍置く。
「……分かった」
執事は小さくうなずき、
音を立てずに廊下へ向かった。
その背中を見送り、
こちらも部屋を出る。
廊下には、二人分の足音だけが残った。
忘却のまま、儀へ至る 新谷 軽美 @mitFi
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