蝉しぐれ
小学校の頃って、なんていうか、おらんかった? 地元でちょっと有名な変な人……みたいなん。そそ、不審者とまでは行かんけどなんかちょっと目立つような人ね。な、子どもらの間であだ名付けたりしてな。そうそう、俺が小学生の時にもそういう人がおって、まあ大体「挨拶おじさん」とか呼ばれてたかな。そうそう、名前の通り、通学路でいっつもデケェ声で「おはよう!」って子らに挨拶するおじさんね。……今思えばおじさんって言うよりおじいさんって感じやけど。
で、まあ親の間では警戒されてたっぽいけど、子どもからしたらちょっとオモロいおじさんって感じやし。俺らはよぉ挨拶返したりして。なんかこう……通学路のマスコットキャラ? みたいな感じやってんな。そんで……そう、それがあったのが4年の頃の夏休み前やったかな。―夏休みの前の日ィって、なんか早くに帰れるやん。せやから友達と昼飯終わったら公園で遊ぼういうことになって、そうそう、覚えてるわ、その日はそうめんでさァ、俺すぐ食い終わってもうて、早うに家出たんよ。
やっぱり公演は一番乗りで、夏休み前日言うても平日やから、誰もおらん公園って静かやなあとか考えながら、公園のちょっと奥まったところにあるベンチに座ってたんよ。そしたら、入り口の方から誰か来るんが見えて、誰か来たんかな思て一瞬立ち上がったんやけど、そう、公園に来たんは挨拶おじさんやってん。おじさんは俺がベンチに座ってることには気付いてないみたいで、入り口付近にある大きい木の根元でなんやこちょこちょしとってん。なんか……やけに公園が静かで、俺がちょっとでも動いたら気付かれるんやないかと思って、なんか、俺もじっと黙ってもうてな。ほしたらすぐに挨拶おじさんは公園出てって、なあ、したら気になるやん。―挨拶おじさん、何してたんやろ、って。公園の傍におじさんがいなくなったん確認してから、木の傍近寄ってん。
……そしたらさ、その根元のところの土が、ちょっと掘り返された感じになってて、ああ、なんか埋めたんや、って思った。正直その時点で嫌な予感するやん。でも、気になってさあ、掘り返したん。わかってん、言うたやろ、公園がやけに静かやったって。埋まってたんな、蝉やった。蝉の、しかも頭の部分だけ、無理くりちぎられたみたいなんばっかり、何個も何個も埋まってた。俺、固まってもうて、そのまま放心して、暫く見ててん。そしたらさ、目、目がさ、目、合うたような気がして。蝉と。目が。合うて。その日はもう、公園居れる気せんくて、近くまで来てた友達に断って、そのまま帰った。てか、夏休みの間中、どっかで挨拶おじさんと会うたらどないしよ思て、あんまり外、出られんかった。
ほんでさ、夏休み明け、流石に結構恐怖も薄らいでいつも通り通学路通ってん。そしたら、挨拶おじさんおって、いつもみたいにニコニコ挨拶して……なくて。怒鳴り散らしててん。「誰や! 誰が見たんや! 掘り返したんや! おい! お前かァ!」って、通り過ぎる子らに。俺さ、横通るとき、ホンマ、生きた心地せんかった。目が合うたら、どうなるか思て。
でも、その日以来、見んくなったんよ、挨拶おじさん。この件でいよいよ大人たちが通報したんか……それか、俺のせいで、何かに失敗したんかなあ、あの人。
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