知らない観察日記
……観察日記ってあるじゃないですか。夏休みの課題の定番って感じですよね。そうそう、プチトマトとか。朝顔ってのもありましたよね。それで……私、この間まで大学が春休みで、久しぶりに実家に帰ったんですね。私、高校に上がった時から親元を離れて生活してたもので、随分久しぶりの実家でした。
柱の傷とか、畳の染みとか、なんかちょっとしたものひとつひとつにぼんやりした思い出があって、それを懐かしみながらごろごろして過ごしてたんです。ただ、母に自室の片づけくらいしておいで、風も通した方が良いだろうからって言われて、そう、確かにそうだなあと思ってその日の昼ごはんの後から片付け始めたんです。いらない本とか整理して。
で、まあ大抵の大掃除ってそうだと思うんですけど、昔のアルバムとか見つける度に手が止まるでしょ? お恥ずかしながら、私もそうで、勉強机の底からあれこれ引っ張り出してはごみ袋に入れるでもなく床に広げて読んでたんです。そうです、その時見つけたのがこの観察日記です。
よくある自由帳に、毎日書きつけてたみたいで。これから幾つか抜粋して読みますね。
……10月5日、天気は……書いてないですね。これがこの観察日記の初日です。「種を植えました」。絵は描いてないです。字は結構しっかりしてて、幾つくらいの時に書いたものなのやら……。
……10月9日、天気は晴れ。「目が出てきました」。う~ん、もう少し幼い字なら書き間違えたんだなで済まされるんですけど、そう、そうでしょ、これ、流石に子どもが書いた時には見えないんですよ。
……10月15日、天気は霰。「腕があります」。せめて絵があれば、何を言ってるか想像もついたのかもしれないんですけれど。
……ここで飛ぶんですけど、11月8日、天気は……寒いって書いてますね。「口ができたのでお話ししました」。……。覚えてないんですよね、私。
……11月18日、天気は曇り。「耳が出てきました」。11月24日、天気は無し。「顔が全部。ちゃんと私と同じです」。11月26日、天気は無し。「接ぎ木の準備をしました」。12月10日……あ、私の誕生日ですね、観察日記はここで終わってます。「終わりました」。
で、最後まで何の観察をしてたのかは……ピンと来ませんよね。写真も画像もないですからね。え? ……ああ、そうなんです。私もこの観察日記を書いた記憶が全くなくて。何より、いつ書いたんでしょうこれ。小学校の時の絵なんかよりもずっと奥から見つかったんですけどね、でもこの字だし……。
ああいえ。いや、違うんです。あ、いや、違わないか。私は、これが何を観察してたか、想像ついてるんです。ついてるっていうか、気が付いたっていうか。わかりません? だって私、これを書いたときのことを一切覚えてないんですよ。だから分かったんです、コレがなんだったか。 わかりました? あなたもやっぱりそう思います?
……そうです。これ、きっと、私を観察してたんでしょうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます