オクゾーさん

 そうそう。オクゾーさんって言うてね、うちらが子どもの頃から流行ってた遊びやねん。いうても近所の2、3校区くらいかな、今でも子らの間で流行ってるみたい。まあ、小学生だけでもできるような、まあその程度の遊び。―いや、遊び言うんはちょっと違うかな。どっちかというとアレが近いかも、ほら、なんや紙に五十音書いてやる……そうそうこっくりさん。オクゾーさんもそっち系で、要は肝試しやね。縁起でもないことを敢えてやって、それができる自分は凄い!って悦に入る感じの。まあ、そんないい方したら元も子もないか。


 はいはい、何をするかやね。オクゾーさんっていうのは、さっきも言うたけど縁起の悪い遊びなんよ。大抵4、5人で連れ立ってやるんやけど、じゃんけんやらくじ引きやらでその内の一人を「オクゾーさん」にすんねんな。―で、まあその「オクゾーさん」役が決まったらその子は床なり地面なりに横になんのよ。ほんで、残りの子らでオクゾーさんを続行するんやけど、こっからは段階的に……なんというか、歌というか、呪文みたいなんを言うんよね。


 最初に、「オクゾーさん、オクゾーさん、お腹いっぱいでおやすみ中」って言う。これを言われたら「オクゾーさん」役の子は、どんな体勢でもいいけど目ェ瞑って寝てるふりすんの。ほんで次に「オクゾーさん、オクゾーさん、虫に咬まれて痒い痒い」って言うて、役の子は寝たふりしたまんま。ていうか役の子はこの先動くことなくて、寝たふり続けてなあかんのよね。次に「オクゾーさん、オクゾーさん、掻き過ぎて血が出て痛い痛い」、その次に「オクゾーさん、オクゾーさん、夕焼け小焼けで溶けていく」、その次に「オクゾーさん、オクゾーさん、朝は寒くて痺れてる」。


 で、ここまで言うたらなんやろうな、第一段階が終わるんよね。え、セリフ? こんなん誰もちゃんと覚えてへんから適当やろね。今言うたんも、当時私らがつこてたんと違うかもわからん。まあ、こういう遊びって時代と共に色々変わってくやろうしね、今の子らも似たような感じちゃう? 全くおんなじセリフつこてるとは思わんなあ。


 ほんでや、第一段階が終わったら、役の子をみんなでどうにか持ち上げて、ちょっと移動すんねん。ああ、別にどっか他所に持ってくとかやのうて、ホンマに役の子をちょこっとでも動かせたらいいから。ちょっと移動させて、そこにまた寝かせとく感じ。この間も役の子は寝たふり続行しとかなあかんねんな。んで、移動し終えたらまた呪文言うの。


 「オクゾーさん、オクゾーさん、夏は暑くて蠅が飛ぶ」、「オクゾーさん、オクゾーさん、服散らかして叱られる」、「オクゾーさん、オクゾーさん、風が通って音が鳴る」。で、最後に「オクゾーさん、オクゾーさん、それではどうぞさようなら」って言うたら終わり。これがねえ……正直なんで縁起悪い言われてるんかよう知らんのやけど、ともかくこれを最後までやるんがオクゾーさんいう遊びやね。


 え? 幽霊? ああ、いやそういうんが出るいう話は聞かんけど。ああ、でもけったいな噂もあったな。そう、最後の最後に、役やってる子ォのことちゃんと起こさなあかんって。起こさんかったらなんや悪いことが起きる言われてね。私も実際見た訳ちゃうけど、他所の学校で「さようなら」言うた直後に教師に見つかってもうて、ほら、この遊びって傍から見たら異様やろ、それで先生らも目くじら立ててたらしくて、その子らは怒られる思て役の子起こさんでその場から逃げたらしいわ。そうしたら役の子、そのまま起きんでな、詳しいことは分からんけど、そのまますぐ荼毘に付されたらしいわ。


 ……なんでも、死んでもうた上に、よう見せられん格好になってもうたらしぃて、誰も呼ばんで葬儀済ませたんやって。

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